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さえぼう先生が解説する!パトリック・スチュワート朗読シェイクスピア『ソネット集』。

ロックダウン下で外出制限を受けている人たちに向けて、新スタートレックやX-MENなどで知られ、舞台俳優としても名優の誉れ高いパトリック・スチュワートがシェイクスピアのソネット集を毎日朗読してくれています。気鋭のシェイクスピア研究者さえぼう先生(@Cristoforou)の丁寧な解説で朗読がもっと楽しめます。#PSSonnets,#ASonnetADay
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saebou @Cristoforou

#PSSonnets ダウランドの「流れよ、わが涙」のような曲は悲しい雰囲気ですが、ふつう人間は悲しい気分になるのは嫌いなのに、悲しい音楽は愛する人も多いです。この詩は、このような音楽を聴くときの人間の奇妙な好みについての話で始まります。

2020-03-29 11:02:21
saebou @Cristoforou

#PSSonnets この詩はいろいろひとつのフレーズにふたつ以上の意味を持たせたところが多くて難しいのですが、この詩では詩を捧げられた若者が楽しくない(悲しい)音楽を聴くのを好んでいるという話と、音楽のように美しい若者が調和を乱しているということが重ねて語られています。

2020-03-29 11:04:22
saebou @Cristoforou

#PSSonnets 3-4行目で「なぜ楽しく聞けないものを愛するの、/あるいは自分の心を悩ませるようなものを喜んで聞くの?」と聞いていますが、なんかこの人、むっつり難しい顔で音楽を聴いているらしいんですね。

2020-03-29 11:07:49
saebou @Cristoforou

#PSSonnets それで、その後は音楽を聴くときに楽しい顔と気分で聞けないなら、それはあなたが音楽の鍵となる調和を軽んじていて、そのせいで音楽があなたを叱っているからだ、と続きます。5行目の'union'は音楽の「調和」と人間同士の「結婚」を両方とも指します。

2020-03-29 11:10:16
saebou @Cristoforou

#PSSonnets この若者は、ハーモニーが大事な音楽のなかで'confounds / in singleness the parts that thou shouldst bear' (7-8)、つまりひとりだけ周りにあわせない声で歌っています。合唱とか合奏の比喩です。

2020-03-29 11:12:37
saebou @Cristoforou

9行目の「1本の弦が別の弦のやさしい夫となり」以降はリュートを弾く様子を表現していると考えられます。11-12行目は、その様子がまるで幸せな夫婦と子供が声をそろえて歌っているようだということで、また「結婚して子供を作れ」につながります。 #PSSonnets

2020-03-29 11:15:06
saebou @Cristoforou

#PSSonnets この後は話半分で聞いてほしいんですが、12行目に'Who all in one, one pleasing note do sing'っていうのがあり、サウサンプトン伯家のモットーって'Ung par tout, tout par ung'つまり'one for all, or all for one'「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」なんですね。

2020-03-29 11:18:14
saebou @Cristoforou

「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」は『三銃士』初出と思っている人も多いですが、もっと古くから広く使われていた標語です。シェイクスピアの『ルークリース』にはこのモットーそのまんまの文句が出てきているので、パトロンのサウサンプトン伯へのお世辞でしょう。 #PSSonnets

2020-03-29 11:21:29
saebou @Cristoforou

#PSSonnets ソネット集に出てくる「美しい若者」は誰かというのが全くわからないのですが、有力候補としては長詩『ヴィーナスとアドーニス』及び『ルークリース』を献呈されたサウサンプトン伯ヘンリー・リズリーと、死後に最初に出た全集を献呈されたペンブルック伯ウィリアム・ハーバートがいます。

2020-03-29 11:25:47
saebou @Cristoforou

#PSSonnets ただし、ソネットからこの若者の身元を判別するのはほぼ全く無理です。さっき私がやったみたいに「このフレーズはパトロンの家のモットーへの呼びかけでは?」みたいな憶測でどの説を指示するか決めるしかなく、決定できません。新しい手稿でも出てこないと確定は無理です。

2020-03-29 11:27:13
saebou @Cristoforou

ちなみに私のお気に入りの仮説は「この美しい若者は詩人の脳内彼氏であり、実在していない」というものです。詩は個人的なものだとはいえ、全ての詩が事実を書いているとはかぎりません。人間の想像力は豊かだから、優れた詩人に脳内彼氏や脳内彼女が2、3人いてもおかしくはない。 #PSSonnets

2020-03-29 11:30:01
saebou @Cristoforou

#PSSonnets この若者と後で出てくる「黒い女」が誰だか勝手に想像するというのはイギリスやアイルランドの文学オタクの国民的趣味で、オスカー・ワイルドはこれをネタに「W・H氏の肖像」という短編を書いています。若者のモデル探しにハマったオタが自殺してしまうという悲しい話で…

2020-03-29 11:31:33
saebou @Cristoforou

そういえばこれ、「新しい手稿が見つかったらしいよ!」みたいな言い方する歴史家や文学研究者はけっこういると思うんですが、これは「新しく見つかった手稿」であって、手稿の年代じたいは数百年以上前のものでボロボロのやつだったりしますよね…新しくない… #PSSonnets twitter.com/Cristoforou/st…

2020-03-29 15:05:25
saebou @Cristoforou

#PSSonnets パトリック・スチュワートのソネット朗読、今日は9番を飛ばして10番になりました。9番は感じ悪いから嫌いだと言っていますが、たしかに9番は「お前が結婚しないせいで世の中が全員未亡人だ」みたいな内容で、ちょっと脅迫的っていうか感じは良くないです。面白みもないかなぁ。

2020-03-30 10:43:27
saebou @Cristoforou

そして10番ですが、これは重要な詩です。こういうやつこそパトリック・スチュワートは気合い入れて読みたいだろうと思います。というのも、この詩で初めて詩人が'my'とか'me'を使って、自分のために人を愛することを学んでくれ、と頼んでいるからです。詩人と若者が親密になってます。 #PSSonnets

2020-03-30 10:46:03
saebou @Cristoforou

この詩は、この若者は詩人本人を含んだ多くの人からその美貌ゆえに愛されているらしいのに、本人が頑なに誰も愛そうとしないので、せめて見かけと同じ程度には優しくなって自分を大事にしろ、という内容です。自分に優しくするとは結婚して美の写したる子供を作ることです。 #PSSonnets

2020-03-30 10:51:44
saebou @Cristoforou

#PSSonnets 'change thy thought, that I may change my mind' (9)「考えを変えてくれよ、それなら僕も気が変わるから」'Make thee another self for love of me'(13)「僕を思ってくれるなら、お願いだから自分をもうひとり作るようにしてよ」と、お互いに好意があるのが前提の表現が初めて出てきます

2020-03-30 10:54:34
saebou @Cristoforou

こういうふうに、若者あてのソネットはだんだん詩人と若者の距離が縮まっていくことが細かい表現からわかります。 #PSSonnets

2020-03-30 10:55:18
saebou @Cristoforou

#PSSonnets パトリック・スチュワートが読むソネット11番、これ、ひょっとしてスチュワート、読み間違ってる!?私が持ってるテクスト(オクスフォード版とアーデン版)では11行目が 'bestowed'じゃなく 'endowed'です。それともそういう版があるのかな?

2020-03-31 12:42:09
saebou @Cristoforou

#PSSonnets 11番はわりと単純なのですが、私はけっこうこれ、イヤな感じがする内容だと思います。というのも、まあ衰える前に君の美を生殖によって増やしてくれ、というおなじみの内容ではあるんですが、なんかちょっとこの語り口、詩人にイヤなことでもあったのか、優生学っぽいんですわ。

2020-03-31 12:45:55
saebou @Cristoforou

#PSSonnets 9-10行目が「自然が人間を増やすために作ったのではない者」、つまり不愉快なやつは子作りせんでもよろしいから、自然が優れたものとして作って君だけは生殖をしてくれ、という展開になります。

2020-03-31 12:47:20
saebou @Cristoforou

#PSSonnets ただ、私がこれについて「詩人にイヤなことでもあったのか」と推測したのは、最後の2行が印刷の比喩を用いているからです。「自然の女神は自らの玉璽(seal)にすべく彫り上げた、それゆえ君はもっと/印刷(print)をすべきもので、君の複製(copy)を絶えさせてはならない」というとこ。

2020-03-31 12:51:53
saebou @Cristoforou

#PSSonnets これは子供という複製を作って世に刻印を残せということですが、一方で版画とか印刷とか、何か刷って複製できるもののイメージです。深読みですが、詩人は自分がヘタクソだと思っている詩人の本が印刷されて好評だったりするのが気に入らなくてこういう比喩を使ってるのかもしれません。

2020-03-31 12:55:30
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