子供とは言え客だから何に使うのかは聞かない。一度駅ですれ違って、その時も包装を切った朱筆を持っていたそうだ。何となく目で追っていたら蓋を取って、すれ違った人の背中に向けて何か書くそぶりをする。そこで気付かれて逃げられたそうだ。
2020-01-17 22:37:18その後も筆を買いに来たのでもう来ないかもしれないと思いながら何をしていたのか聞くと、だってかわいそうだからと言った。行く人の背に襟から紐が伸びていて、黒いだるまがぶら下がっている。朱筆でカと書くと消えるそうだ。子供はその後も朱筆を買いに来る。
2020-01-17 22:44:42坂牧のこと
坂牧という知人がいる。虫に詳しく、ハエトリグモで卒論を書いていた。駅前でその坂牧から声を掛けられたが、当人か判らなかったので返事は適当にしておいた。坂牧というのは向こうから名乗った。言われなければ判らなかった。風采が若干変わっている気がする。 #ありもしないはなし
2020-01-18 22:15:52その後も度々会ったので、あるとき茶でも飲もうという話になったがやはり坂牧の姿はあいまいだった。坂牧と言われれば確かに坂牧かもしれないと思うが、やっぱりあまりぴんとこない。居心地の悪さを覚えながら茶飲み話は頷くに徹して、窓を眺めていたら蜘蛛が一匹跳ねていた。
2020-01-18 22:19:49蜘蛛に指を差し出す。はじめ坂牧は気付いていないようだったが、その内目を留めて何をしているのかときいた。別にと言う。相変わらず蜘蛛は窓にいて、あちらこちら眺め回している。
2020-01-18 22:23:35茶が尽きて店を出た。それじゃあとやつが帰ろうとしたので、お前は坂牧ではないと言った。そうでもしないとまた会うだろうなと思った。そうしたら途端泣き顔になって何か言っていた。それを無視して帰って、昔聞いた坂牧の連絡先に私信を送った。返事はない。今も元気でいればと思う。
2020-01-18 22:32:36新しい神(続・風の神の屋敷)
風の神の屋敷が売れた。風の神はこのあいだまで人間だったが増上して神に成り上がった者のことで、そのために一族が離散した。土地建物もそれのおかげで売りに出ていたが、風の神がまだ住んでいたので住もうという者は無かった。風の神は騒霊のような有様だったという。 #ありもしないはなし
2020-01-19 21:19:12買った方もまた神だったらしく、風の神が負けた。どう勝負をつけたかは知らないが、勝負に勝つために土地建物を買ったそうだ。だが買い主の神は地所を転々とするそうで、その内また売りに出るらしい。そうしたらきっと風の神の元の家が買うのだろう。そういう段取りになっていたとも聞く。
2020-01-19 21:25:58新しい神は飄々とした四十がらみの男で、人好きもするが長く一所に腰を落ち着けていられない質らしい。土地は得たいと思うものの、得てしまうと途端興味が無くなってしまうそうだ。だから風の神の様な神の話を聞くと行って争って勝って土地を得て、売主にまた土地を売って去るという。
2020-01-19 21:32:43低空飛行するはんぺん
超低空で飛行するUFOの目撃が相次いでいる。場所は役場の北、元八幡手前の街道西側で夜八時から十時過ぎの目撃例が多い。建物は少なく、野原になっている所をはんぺんの様な三角の白い物体が高さ一米程の辺りで飛ぶそうだ。 #ありもしないはなし
2020-01-20 20:32:10はんぺんの鋭角を先にして、まっすぐ飛ぶ。背の高い枯れ草がはんぺんに触れるとぱさりと落ちるから、野原の中にはんぺんが作った細い道が出来るがミステリーサークルほど整然としていない。正体は不明である。
2020-01-20 20:37:13追記:ここで言うはんぺんは白はんぺんで四角ではなく三角に切ってあるやつです。ただし飛んでいるはんぺんの大きさについては結構証言がばらばらで、でかいやつだと80cmくらいあったそうです。はんぺんってサイズじゃない。
2020-01-20 20:42:39空容器回収箱から出る光線
長物取り(鈴が原)
長物取りが出始めたので、鈴が原の立ち入りが禁止された。長物取りとは買い物帰りの袋からはみ出しているような葱や牛蒡、ランドセルに刺さっている縦笛など、とりあえず長いものがいつの間にか取られている現象のことを言う。 #ありもしないはなし
2020-02-09 20:23:35これらはしばらくの間続くと、今八幡宮の所領の鈴が原に一時に落ちる。落下物が当たると危険なので立ち入り禁止にし、宮司が見回って落下を確認すると禁がとかれる。野菜などは誰のものか判らないことが多いので、氏子が豚汁にして関係者に振る舞う。
2020-02-09 20:28:05一説には、昔西が原の城主が今居森坂を攻めようと兵を差し向けたとき、今八幡の神がその兵から刀や槍を悉く取り上げ、兵が往生しているところをめがけて降らせたことが最初の例という。露地の物は取らない。これを避けるには長物の先に手をかけるのが良いとされる。
2020-02-09 20:38:39雪もぐり(雪もぐら)
今居辺りでは今年、雪もぐりがよく出るそうだ。雪もぐりは雪もぐらとも言って、大きさは10cmから1m程の雪の小山を指す。これが動く。雪もぐりにぶつかっても特になにもない。小山が砕けて、それだけだ。 #ありもしないはなし
2020-02-14 21:22:21元八幡トンネル以南でも出ないわけではないが希で、新沼では見ない。森坂や今居でも月に一度見れば多い方だ。今居辺りに住む知人は毎日のようにこれを見るので、ある日ふと雪もぐりの後を追ってみたのだという。
2020-02-14 21:36:25