剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ3(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「いつも第二図書室?」 「君とだけ」 「嘘つきな王子様」 「嘘じゃない」 また何か吸盤がくっつくような音。 ウィスティエは怯えて準備室の奥に後退ろうとしたが、しかし物音を立てるのもよくない。そうこうしているとカミツキは扉の隙間に頭をねじ込み、さらに戸を少し開いてすっと出て行った。

2020-04-25 20:51:11
帽子男 @alkali_acid

まずい。 暗い膚に尖り耳の少女は焦って相棒の消えた扉の隙間に這い寄り、呼び戻そうとするが、向こうはまるで王を守る近衛のような態度で扉の前にぴしりと背を伸ばして座っている。 「あわ…」

2020-04-25 20:53:12
帽子男 @alkali_acid

猫のいる場所からさらに向こうでは、二人の学生が寄り添っていた。 「かびくさい」 「本の匂いは嫌い?」 「好きじゃない」 「じゃあ窓を開けるよ」

2020-04-25 20:54:19
帽子男 @alkali_acid

盗み聞きに盗み見はしたくないので、ウィスティエは必死に口をぱくぱくさせてカミツキを引き戻そうとする。 だが猫は少女の声なき召喚に気付かないのか無視しているのか、不動だ。 さらに二人の生徒は、風にひるがえる窓帷に半ば隠れるようにして戯れているようだった。

2020-04-25 20:56:43
帽子男 @alkali_acid

一人はほっそりと足が高く、裳裾ではなくぴったりした褲(ズボン)を履き、低めの声で話している。一人は学校指定の裳裾を穿いていて、声も普通の高さだ。 「王子様。次の試合には私に接吻を投げてね」 「子供っぽいな。接吻なら今ここで」 「あなたが誰かほかの子にちょっかいかけたら許さない」

2020-04-25 20:59:34
帽子男 @alkali_acid

「よしてよ。そんな話つまらない。もっと楽しいことをしよう」 「ふーん。どんなこと?」 ウィスティエは耳当てをきつく抑えてできるだけそっと後退る。

2020-04-25 21:01:25
帽子男 @alkali_acid

少女がしばらくしてやっと耳当てを離すと、隣の部屋の会話は止んでいたようだった。もう何かしている気配もない。ほっとして扉に這い戻り、猫を呼ぼうとする。 「カミツ…」 扉が開いた。

2020-04-25 21:02:47
帽子男 @alkali_acid

「これはこれは…とんだいたずら子猫…いや黒兎ちゃんかな」 目の前に丈の高い生徒が立っている。黒猫はとあわてて視線をさまよわすといつのまにか本棚の上に移動し、いつでも獲物に背後からとびかかれる姿勢だ。 隠れ家を 暴いた ものの 口を 封じる つもり 満々。 「だめ!」 「何がだい」

2020-04-25 21:05:17
帽子男 @alkali_acid

生徒はかがんで膝をつくと、ウィスティエの顎に指をあててくいと上向かせた。 「だめ…だめ…絶対だめ」 されるがままになりながら目の前の相手には一切注意を向けず、視界の隅で静かに殺意を膨らませる黒猫を制する。

2020-04-25 21:07:31
帽子男 @alkali_acid

生徒はふとウィスティエの視線の先を振り返ったが、カミツキは素早く位置取りを変えて発見を免れる。 くすっと笑った相手はあらためて尋ねる。 「黒兎ちゃん。変わってるね。名前は?」 「…だ…あ?え?」 やっと正面に対する人物に焦点を合わせなおす。顔をもろに見てしまう。

2020-04-25 21:09:54
帽子男 @alkali_acid

短髪で凛々しげだがやはり女子には違いないようだった。 あわてて視線を落とす。 「あの…うぃ、ウィスティエと言います」 「一回生?低等部じゃないよね?」 「一回生…です…」 「そう。僕はアンシオナ。四回生。覚えておいてね」

2020-04-25 21:13:25
帽子男 @alkali_acid

言うやアンシオナはウィスティエのやわらかな唇を奪った。年嵩の少女の舌が年下の少女の結んだ口を巧みにつついて開かせ、中へ入り込む。 「…んっ…んん!」 暗い膚に尖り耳をした幼い娘は、丈高い娘の腕の中でもがき、無我夢中でうめいた。

2020-04-25 21:16:36
帽子男 @alkali_acid

たっぷりと接吻を貪ったあと、四回生は不意に一回生を引き離した。 「君…」 「だめ!!」 またウィスティエは何かを制するように叫ぶ。アンシオナの頬にみるみる血が上る。 「…何も感じないっていうの…」

2020-04-25 21:18:46
帽子男 @alkali_acid

「すいません!」 暗い膚の少女は、男装の上級生に謝ってぱっと立ち上がると、本棚のひとつにかけてゆき、ぴょんぴょんと跳ねる。 「だめ!!だめだったら!」 ぱっと小さな影が本と本の隙間から抜け出し、廊下へ駆けて行った。 「ごめんなさい…おじゃましました…」

2020-04-25 21:21:10
帽子男 @alkali_acid

もう一度詫びてからちんくしゃの一回生はそさくさと去って行った。 四回生はぷるぷると震えてから、唇を撫でて呟く。 「一回生のウィスティエ…黒兎ちゃんか…参ったな…こんな屈辱初めてだ…」

2020-04-25 21:22:33
帽子男 @alkali_acid

とりあえずどうにか初日を終えて帰宅したウィスティエは、食堂で残しておいた麺麭や腸詰を獣達に分け与えながら溜息を吐く。 「学校には来ないで」 「ピョロロ、ナンデ?」 「キィ?」 「クゥン…」 「ナーウ」

2020-04-25 21:25:42
帽子男 @alkali_acid

猫、小鳥、蝙蝠、犬は少女を囲んで得心しないようすだ。 「あの…特にホウキボシはだめ」 「ナンデサ」 「ホウキボシが歌ったら…めちゃくちゃになるから」 「アッソ。ヤサシクウタウノニ」 「ここでなら…歌っていいから」 「イッショ?」 「うん…」

2020-04-25 21:28:11
帽子男 @alkali_acid

「オチビサン!アケノホシ!イッショ!カミツキモ!」 「ええ…」 ほかの黒き獣もやや引き気味だったが、どうも一行の中で一番立場が強いのは黒歌鳥のホウキボシらしい。誰も逆らえない。

2020-04-25 21:30:06
帽子男 @alkali_acid

猫はミャーミャー、蝙蝠はキーキー、犬はワンワンとそれぞれ拍子をとるなかで、小鳥の鈴を転がすような音色が響き、少女も合わせて高音を響かせる。 「ウィスト!イイコエ!オンナノコノコエモキレイ!」 「そう…」 「タテゴトモヒイテ!」 「ええ…無理だよ…」 「ナウウ…」

2020-04-25 21:32:09
帽子男 @alkali_acid

今度は猫が木切れをひっぱってくる。 「え…何それ」 「ヴナ」 「剣術?…しないけど…」 「ナウウ…」 「しない…」

2020-04-25 21:33:00
帽子男 @alkali_acid

「キキー!」 蝙蝠が左右非対称の翼をぱたぱたと工具箱にぶつけて催促する。例の合切袋に入っていたものらしい。 「え、図工…苦手…」

2020-04-25 21:34:36
帽子男 @alkali_acid

「ウォン…ウォオオン!」 黒犬がとこからか引き抜いてきた薬草を並べて得意げに吠える。 「え…いやしの…わざって…お医者さんのやつ?わかんないからいい…」

2020-04-25 21:35:54
帽子男 @alkali_acid

学校でわりとへとへとなのに、黒き獣や鳥はさらに課外授業をしたがる。 「うええ…」 少女は涙目になりながら耳当てを抑えるよりなかった。

2020-04-25 21:37:10
帽子男 @alkali_acid

しかも学校でも問題は膨れ上がっていった。 いじめが本格化するだろうかと身構えていたところ、休み時間に机に釣鐘草の造花が一輪置かれたのだ。 「…はえ…」 「こんにちわ黒兎ちゃん」 「こんにちわ…」 視線を合わせずに返事をするとまた顎を掴んで上向かされる。

2020-04-25 21:39:29
帽子男 @alkali_acid

昨日図書室で会った男装の上級生がいた。 名前は確か。ちゃんと覚えていない。 「あーあ…あー」 視線を逸らしつつ生返事をしていると、向こうはかすかに目を細めてから伝える。 「その花をつけて今日の試合を見に来てくれる?」

2020-04-25 21:40:57