蝙蝠【@koumoli】の #ふぁぼの数だけ行ったことがあるように架空の町の魅力を紹介する まとめ最終回

さよなら空想街。 1〜100はこちら https://togetter.com/li/982813 101~200はこちら https://togetter.com/li/1195477
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蝙蝠 @koumoli

食事は質素であるべきという宗派では、人々は必死に思考してどうすれば美味しく優しい料理が出来るかを模索していた。 「たかだか数十年の人生です。質素な料理で心を満たす事の大切さなど考える必要もありません」 そう言って振る舞われた料理は滋味に富み、酷使した胃袋を優しく労ってくれた。

2020-03-02 22:19:04
蝙蝠 @koumoli

プリズムガラスを埋め込んだ様な七色の瞳は、ある特定の人種にだけ見られる遺伝病だ。 少数民族かつ病気自体が稀で、本来出会う事は早々ないのだが、遠く遠く離れた村でその少女は神の化身として振る舞っていた。 曰く、古い掟と迷信から身を守る為には、自らが迷信になる他無かったと。

2020-03-09 00:54:56
蝙蝠 @koumoli

月から家出した子が混ざってる、なんて噂もあるほど大量のウサギが暮らす原っぱがあった。 どうやらこの辺りではクレーターがウサギに見えるのが話の由来らしい。 子供向けの寝物語かなと笑っていると、数羽のウサギが異常なほど高く(まるで月面くらい)飛び上がり、私の頭上を通り抜けていった。

2020-03-09 01:24:23
蝙蝠 @koumoli

数年前に突然地中から現れた巨大生物は、その日から一歩も動くことなく空を見つめていた。 当初は殺処分も検討されたが、無垢な生き物を殺す事への反発も大きく、計画は一時凍結されている。 その結果、人々の誰もが「何もせず死んでくれたら良い」と薄っすらした殺意を抱えている国だった。

2020-03-17 22:09:29
蝙蝠 @koumoli

最近の流行りだと見せてくれた画面には可愛い女の子が2人映っていた。 話題のグルメやレジャー体験を等身大に話す姿が人気らしく、なかなかどうして面白い。 しかし写真が切り替わった瞬間血の気が引いた。 だって、テロで失われたはずの遺跡の前で最新スイーツを食べるなど、出来るわけないのだから!

2020-03-19 23:33:44
蝙蝠 @koumoli

まだまだ発展途上の村には、世界一名前が長いと言われる学校があった。 文字数にすれば300くらいだろうか。冗談みたいな長さだが、かつてこの地に学び舎を建てようと奮闘した人全員の名前を繋げた結果、今の形になったらしい。 それゆえ人々は指折り数えながら、尊ぶように学校の名を呼んでいた。

2020-03-20 23:14:34

さあ話そう、語り合おう
250.見知らぬ人
251.炎の水
252.平等の国
253.小さな国
254.食人植物
255.記憶動画
256.雨天の邂逅
257.遡りの島
258.開花の村
259.オアシスの花

蝙蝠 @koumoli

「醜い化け物に会わないよう気を付けて」 そう口々に忠告された砂利道を走っていると、遠くの方にそれらしき生き物が佇んでいるのが見えた。 名前はなんだろう。どんな声なのだろう。彼らの評価を忘れたら、私の目には君がどう映るだろう。 そんな事を考えながら、私はバイクのハンドルを切った。

2020-03-29 23:40:57
蝙蝠 @koumoli

お湯屋という仕事をご存知だろうか? 体に炎を宿す種族が、どんな時間のどんな場所でもお湯を沸かしてやるという特別な生業だ。 字面だけではショボく聞こえるかもしれないが、毎年多くの凍傷や低体温症を引き起こす極寒の地においては、どれだけの命が救われたのか数知れない。

2020-04-13 23:07:42
蝙蝠 @koumoli

その国の住民には誰一人として右腕が無かった。 なんでも数代前の女王が隻腕で生まれて以来、平等である為に全国民が出生直後に腕を切断されるのだという。そして平等性を謳った故に、女王が死んでも風習だけが残ったのだ。 酒場では「権力者に必要なのは?」「健康な足!」と酔っ払い達が笑っていた。

2020-04-13 23:27:20
蝙蝠 @koumoli

青い野原に寝っ転がって体を休めていると、とても小さな会話が漏れ聞こえた。 土中にでもいるのだろうか。姿は何処にも見えないが、確かに命の主張を感じる。 咄嗟に周囲を見回すと、さっきより少しだけ大きな叫び声と共に、ヒメアリくらいの人間が耳の中から転がり落ちた。

2020-04-22 23:31:33
蝙蝠 @koumoli

分厚い防護服を纏ってなお、鳥肌は治まろうとしなかった。理由は簡単、自分がちっぽけな羽虫に思えるほど巨大な食人植物が、視界の先で蠢いていたからだ。 半泣きでもぎ取った果実は本当に美味しかったのだが、根に絡みつく人型の栄養素を見た以上、あまり再チャレンジはしたくない。

2020-04-26 21:53:36
蝙蝠 @koumoli

人の記憶を抽出し、映像として出力できる国だった。 ちょうど予約を入れていた老夫が見学に誘ってくれたので、ありがたく隣に座らせてもらう。 「何もかも色褪せてしまった」という言葉通り不鮮明な映像だったが、擦り切れるまで大切にした思い出がある事が美しくって、ほんの少しだけ泣いてしまった。

2020-04-26 22:30:33
蝙蝠 @koumoli

しとどに濡れる藤棚の下で、その御仁は静かに佇んでいた。 見るからに訳ありといった雰囲気で、接触しない方が身の為だ。けれど何かが私を突き動かして、いつの間にか靴の交換を申し出ていた。 その後、血相を変えた男衆が私の元へやって来たが、ガッカリした様子で帰っていきましたとさ。 お終い。

2020-04-26 23:21:33
蝙蝠 @koumoli

誰しも一度は時間が戻ればいいのにと思った事があるだろうが、それは自分に都合の良い時だけだ。 望みもしないのに定期的に時が遡るこの島では、生産意欲の低下が大きな問題となっていた。 しかしながら最近はこれを逆手に取り、長期滞在した気分になれるリゾート地として莫大な人気を博している。

2020-04-27 00:22:06
蝙蝠 @koumoli

薬の代わりに花の球根を呑んだ人々の事をご存知ですか。化学兵器を撒かれ、奇病に侵され、苦しみぬいた末に、毒を濾過する植物を体内で育てようとした村があるのです。 ああ。どうかこの酷たらしい出来事が、つまらぬ美談として消費されないよう、せめて肉を割って咲く花が醜い事を祈りました。

2020-04-27 01:25:09
蝙蝠 @koumoli

砂漠に生えるゼリー状の植物は、見た目の通り多大な水分を有していた。 しかし可愛げのあるフォルムとは裏腹に、地中の水分を根こそぎ奪っていく害草なので、出会ったらすぐに食べるか抜くかするのを推奨されている。 これ幸いにと鞄一杯に調味料を詰め込み、楽しい食い倒れ旅を満喫させてもらった。

2020-04-30 00:12:10

愛しい世界は美しい
260.崖の屋敷
261.呪いの街
262.塔の跡地
263.琥珀喫茶
264.拡縮の大地
265.魔法のリップ
266.造花の夢
267.太陽の歌姫
268.誇りの国
269.道の果て
270.境界の海

蝙蝠 @koumoli

あの崖に建つ屋敷の事は誰一人として口にしない。何かよっぽどの理由があって言葉にせねばならない時は、「崖の」と婉曲した表現をするのがやっとだ。 なにせ彼らは罪人専門の葬儀屋さん。華々しい処刑士とは違い、ズタボロの死体を処分する一族ゆえ、人々は穢れが伝染ると怯え嫌っていた。

2020-04-30 22:01:07
蝙蝠 @koumoli

呪いを商う人はいろんな場所で見かけるが、依頼者本人に呪いをかけるのはここくらいだ。 「大切な物を手放せますように」、「早く伴侶の後を追えますように」、「あの人を嫌いになれますように」。 そんな身を窶すほどの激情を、少しだけネガティブに、それでも幸せになる為に呪いを施す町だった。

2020-04-30 22:30:49
蝙蝠 @koumoli

もう崩れ過ぎて原型は分からないけれど、何らかの跡地と思われる場所では突如会話が成り立たなくなるヘンテコな現象があった。 それは知らない異国の言語になったり、やけに聞き取り辛くなったりと理由は様々だ。 しかし、言葉は分かるのに支離滅裂な文章になる症状が、一番気持ち悪かった。

2020-04-30 23:46:46
蝙蝠 @koumoli

「先週の流星群を」 そう注文すると、星空を閉じ込めた琥珀糖が3つお皿に盛られて出てきた。 普通の星空とは違い、流れ星の尾には清涼感があるので、甘みのある春の夜空でも食べやすい。 口の中で弾む夜空とマスター自慢の珈琲は、きっとこの世で最も素晴らしい組み合わせの一つに違いない。

2020-05-02 22:17:42
蝙蝠 @koumoli

自分が小さくなったのか他が大きくなったのか比較対象がないので分からないが、ともかくそういう地域だった。 鳩に追いかけ回されたり、身の丈程の鯉に水を浴びせられたりと散々な目にあったが、猫のお腹に埋もれて一緒にお昼寝してるうちに全部忘れてしまった。

2020-05-03 14:20:08
蝙蝠 @koumoli

女の子と限定するのも野暮な話だが、特に妙齢の女性の間で爆発的に流行している魔法のリップがあった。 だって最初に口づけした物の色がそっくりそのまま反映される代物だ。流行らない方が難しい。 面白そうだったので私も適当な花で試してみたのだが、あまりにも似合ってなくて笑ってしまった。

2020-05-03 15:33:55
蝙蝠 @koumoli

死なない事は、生きていないのと同じ事。 極端な思考ではあるが、事実、特殊廃棄物のラベルを貼られた不死の人外が焼却を待っていた。 「悲しくはない?」 そう問うと「貴方は造花を捨てる時に涙を流せる?」と質問で返された。 今なら流せるかも、なんて冗談めかした答えに、人外はからから笑った。

2020-05-03 15:58:35