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JSF事件の虚像と実像 - 深田萌絵氏の発言に対する疑念

深田萌絵氏がブログやSNSなどで語っているJSF事件のうち、台湾で発生したとされるいくつかの事象について、これまでに挙がっている疑念を整理しました。
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ジェイソン・ホーは発明者として数々の発案をコンピューターチップデザイン、コンピューター・アーキテクチャ、通信、機械設計、光学装置及び暗号化技術など分野を超えて行い、80以上の発案特許をチップデザイン、コンピューター・アーキテクチャ、光学装置、暗号技術と機械設計の分野で取得した。
(中略)
また、コンピューターチップのセルラー構造を発案した。それらの考案が後にIBM社によって、DEEPBLUEと呼ばれる改革的なIBMスーパーコンピューターのセル・プロセッサーとして用いられ語り継がれている。セル・プロセッサーは改良されて東芝及びSONYの製品に用いられている
(Revatron株式会社の后健慈氏のプロフィールより)

 
まず、后健慈氏の特許取得数は米国、台湾、ドイツ、フランス、英国、中国、日本で合計47件(同一技術を複数国に特許出願しているので実数はこの半分以下になるものと思われる)であり、「80以上の発案特許を取得した」という事実は確認できない。

「IBMが開発したCellがソニーや東芝に採用された」という書かれ方だが、そもそも「Cell」はIBM、ソニー、東芝の共同研究によって開発された技術である。3社が「Cell」というコードネームの新しいプロセッサの研究・開発に合意したのは2001年。IBMが開発した「Deep Blue」とチェスの世界チャンピオンの対決が大きな話題を呼んだのは1996年1997年の出来事であるから「Deep Blue」に「Cell」が採用されるというのも時系列がおかしい。

「Cell」のチーフ・アーキテクト(設計者)はIBMのSystems and Technology部門に所属するPeter Hofstee氏のようだが、后健慈氏が過去に行ったという「セルラー構造の発案」がPeter Hofstee氏に何かアイデアを与えた可能性はあるのだろうか。

ZF氏は「Cell」は「マルチコア」を特徴とするプロセッサであり、「Cell」と「セルラー構造」は無関係であると指摘する。「Cell」のWikipediaを見ると確かに「マルチコア」という言葉はあっても「セルラー構造」という言葉はどこにも見当たらない。Googleでワード検索をしても「Cell」プロセッサと「セルラー構造」の関係、あるいは后健慈氏とそれらの用語の関係を説明する情報は見つからなかった。

さらにZF氏は、后健慈氏のMai Logicの主力製品はプロセッサに付随させて使う周辺チップセット(Kaiser Electronicsに提供の取り決めをしていたArticia Pもこれに該当する)であり、出願特許、製品のいずれからもプロセッサそのものの開発実績がうかがえないと疑念を呈している。


米軍が半導体チップの「耐放射線性」を高めるために開発したのが「セル構造型コンピューターチップ設計(CSCC)」であり、当時、米軍と仕事をしていた弊社CTOがIBMと共に開発に入った。開発計画半ばで、弊社CTOは事件に巻き込まれてFBI保護下に入ってしまったために計画から外れてしまったが、彼が付けた「セル」という名はそこに残った。
日刊SPA!PLUS 未来のハイテクAI兵器の意外とアナログな弱点 (2019年12月21日)

 
こちらの記事では「セルラー構造」ではなく「セル構造」と呼ばれているが、おそらく同じものを指しているものと思われる。この記事が出た年に作られたRevatron株式会社の新しい公式HPでは、后健慈氏が開発に携わったという「セル構造型コンピューターチップ設計(CSCC)」について「フラクタル構造」、「ニューラルネットワーク」といった専門用語や図を用いた説明がされている。(不思議なことに、新しい公式HPには技術や製品の説明はあるが、代表者名や所在地といった基本的な情報が見当たらない)

ZF氏はこの技術説明に対し、「一般に半導体チップは図示されているようなデザインにはしない」、「フラクタル構造とセルラー構造は異なる。Cellはそのどちらとも関係が無い」、「ニューラルネットワークを人工的に再現するなら図示されているような従来型のCPUやメモリは通用しない」などの点を指摘し、次のような見解を示している。(詳しい指摘はこちらの中段から)
 

印象として言えばR社の説明は、あちこちの先端研究あるいは製品から概念だけ拾ってそれっぽく匂わせているだけに見えます。まともな研究ならば、論文が適宜学術誌等に発表されているはずです。


12. 細かな点について

事件の本筋と直接関係するものではないが、3点ほど書いておくことにする。

12-1. 馬英九氏は金で党内の序列を上げたか?

「馬英九は俺が開発したJSF用のチップ設計を中共に売った金で国民党序列5位から1位になり、総統選に勝ったんだ
深田萌絵バックアップブログ2(2015年11月09日)

 
馬英九氏の経歴を少し見てみる。

1993年 法務部部長(日本の法務大臣に相当)に就任
1998年 台北市長に当選
2002年 台北市長に再選
2003年 国民党副主席に任命
2005年 国民党主席に当選
2008年 総統に当選

台北市は中央政府の所在地であることから台湾の首都とされる都市である。1988年から2000年まで総統を務めた李登輝氏、2000年から2008年まで総統を務めた陳水扁氏も台北市長を経験している。その台北市長に1998年から2回当選しているという実績を考えれば、馬英九氏が2003年に副主席に任命され、2005年に主席に当選するというのは順当であるように思われる。

そもそも国民党は「党内序列○位」という言い方は基本的にしないので、深田萌絵氏の言っている「序列5位」というのが筆者にはよく分からなかった。


12-2. 陳水扁氏は廃人になったか?
深田萌絵 Moe Fukada @Fukadamoe

ラファイエット事件でも台湾暴力団は解放軍へレーダー等のフランス軍事技術を横流しした。裁判の証人になりそうな人間は14人が殺されて、一人は日本で殺された。事件解明に挑んだ陳水扁は、JSF事件主犯の馬英九によって投獄され、治療も与えられず彼は生死の境を彷徨った挙句に廃人となった。

2016-02-15 11:17:35

 
陳水扁総統がマネーロンダリングや収賄の罪に問われて逮捕・起訴され、服役したことは事実だが、「治療を与えられずに廃人になった」というのは事実と異なる。
 

陳前総統は2008年の退任後に逮捕・起訴され、2010年12月から服役。今年初めごろから体調不良の訴えが増え、検査で前立腺腫瘍などが見つかっている。先月12日に排尿困難で行政院衛生署の桃園医院に緊急入院後、21日に栄民総医院に転院した。
台湾中央フォーカス: 服役中の陳水扁前総統、入院先で重度のうつ病を確認(2012年10月4日)

 

法務部は19日、陳水扁前総統が治療を受けられる権利を最優先に考慮し、同時に合法性にも配慮して同部矯正署と台北刑務所が慎重に検討した結果、収容環境、医療資源、計器検査設備、看護ケア、家族による面会の利便性などから、台中刑務所(台湾中部、台中市にある)に付設される培徳病院が陳前総統に最適と判断し、同日午前に陳前総統を同病院の医療専門エリアに移送して治療を継続していると明らかにした。
TAIWAN TODAY: 法務部:陳水扁前総統の処遇では医療権益と合法性に配慮(2013年4月22日)

 

病気療養のため仮釈放中の陳水扁元総統は5日、台北市内で開かれた自身の回顧録の発表会に出席した。陳氏は、報道陣から仮病の疑惑が向けられていることに触れ、震えが出ている右手を差し出し、「フリはできない」と主張した。
(中略)
陳氏は1994年から98年まで台北市長、2000年から08年まで総統を務めた。10年末に収賄などの罪で収監されたが、15年1月に健康状態悪化を理由に仮釈放された。現在は自宅で療養している。
フォーカス台湾: 仮釈放中の陳水扁元総統、回顧録の発表会に出席 仮病疑惑を払拭/台湾(2019年5月6日)

 
台北栄民総医院で入院治療中の陳水扁元総統が歩行する動画が公開され、その動画を見た台湾大学病院の医師がインタビューで「陳氏はすでに廃人になった」と答えたという2013年ニュースは確認できたが、2015年の仮釈放を報じたニュースからは支持者の歓声に手を振って応える姿が確認できる。
 

 
簡単に経過をまとめると次のようになる。

2010年:収監
2012年:重度のうつ病と多重性の身体化障害→入院治療
2013年:刑務所内の医療施設の専用区域へ
2015年:健康状態悪化を理由に仮釈放→現在に至る
2016年:深田萌絵「治療も与えられずに廃人になった」

事実:治療を受けているし廃人にもなっていない。

 
なお、次の2019年のニュースでは、総統選の候補者がTV討論で全国の刑務所所長に向けて「もし私が汚職で入所したら食事は1食だけ準備してくれればいい」と語ったのに対し、陳水扁氏がFacebookに動画を投稿し「入所経験がある人なら知ってると思うが、そんな申し出はできない。必ず3食準備される。それを食べるか食べないかは自分で決める」と語ったことが紹介されている。

 
2016年の深田氏の発言に反して「治療を受けていたし、廃人にもなっていない」というのが事実であるから、「陳水扁氏が事件解明に挑んだ」というのもおそらく深田氏の創作だろうと思われる。2019年に発言を次のように一変させていることがそれを裏付けている。
 

2003年にカイザーエレクトロニクスが陳水扁元台湾総統に対して、台湾で製造するはずのマイロジック社のチップサンプル製造工程で不適切な妨害が入って製品製造が遅れているから、適切な対応をして欲しいとお願いをされていましたね。
陳水扁元総統は、青幇を恐れて介入しなかった。
深田萌絵 本人公式ノンポリ★ブログ 台湾が握る米中戦争の鍵。TSMCがF35設計を握るナゾ(2019年12月26日)


12-3. 青幫は実在するか?

深田萌絵氏の話にはよく「青幫」という秘密組織が登場する。組織そのものは確かに戦前から実在しているが、深田氏の話の中ではかなり脚色がされていて全く別の組織のような印象を受ける。台湾で有名な組織かどうかを聞かれたことがあるが、おそらく名前すら聞いたことがないという方も少なくないのではないだろうか。

現在台湾で三大暴力団とされているのは竹聯幫、四海幫、天道盟である。深田氏は「竹聯幫は青幫の下部組織である」と主張しているようだが、台湾でそういった言論を見かけることはないし、深田氏自身もその主張を支える根拠を示していないように思われる。

ネットで少し調べてみた限りでは「青幫」は現在「中華安清総会」という社団法人を設立して活動しているようなので、志の高いジャーナリストの方でどうしても気になる方がいたら取材を申し込んでみるといいかもしれない。


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