月夜話まとめ

稲垣足穂式に月について書いてみた、まとめ。
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てい @orztee

霧の夜は寂しい。窓から射し込む朧な光が、街灯なのか月光なのかも分からない。光は霧に遮られ遮られ、その内に何かを形作る。闇の中で、それは密かに息をし、私を見つめている。息苦しくて眠れない。部屋一杯に霧が満ち、私の肺にまで侵入ってくる。嫌だ嫌だ。身体が月になっていく。 #月夜話

2014-06-22 23:18:51
てい @orztee

文字数オーバーのためスクショで #月夜話 pic.twitter.com/obgSimFZXJ

2014-07-09 23:00:13
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てい @orztee

月を想う時、人の心は円くなる。月を見ればそれだけで、その瞬間、月を見ている他の誰かと心の底が共鳴し合う。三日月を寝転がって。満月は仁王立ちして。胸の何処かで音が響く。柔らかく軽やかな、月の音色。 #月夜話

2014-07-16 23:28:44
てい @orztee

頭上を分厚い雲が覆うようになり人々は空を忘れた。ある日1人の少年が上に目を向けた。見慣れた一面の白の中、色の違う箇所がある。破れた白の隙間から覗くのは黄色く丸い何か。「神様だ」雲はすぐに閉じ、それは姿を消してしまった。少年はそれから死ぬまで、その事を誰にも話さなかった。 #月夜話

2014-08-03 22:29:36
てい @orztee

地球に溢れる現実に疲れきったなら、月面世界へ旅をしよう。月の大地には夢が満ち、息をすれば肺に幸福が詰まる。一足ごとに君の体は軽くなる。頭の中で虹色の爆発を見たなら、君はもう月の住人だ。さようなら、灰色に染まった日々よ。ふらつきよろける君の目に、二度と帰り道は映らない。 #月夜話

2014-12-09 23:56:02
てい @orztee

昔飼っていた兎から届いた手紙には、微かにきらめく石の欠片が入っていた。光に透かすと、石は黄金色に輝いた。 「こんな物が兎から」 ハカセに尋ねると、それは月の石だということだった。 そうか、あの兎は随分遠くへ行ってしまったのだな、と、懐かしく思った。 #月夜話

2014-12-10 00:04:23
てい @orztee

月の宮殿に、あの子を飾ろう。波打つ銀髪、水の色の瞳のあの子。物言わぬ唇に月の果物を含ませ、規則正しく動く心臓に月の宝石を縫い付けて。そうして流れるあの子の涙で、宮殿の前庭を潤そう。あの子は月の姫、月の王子。元より天使に性は無い。あの子は月の美の全てとなるだろう。 #月夜話

2015-01-04 01:14:45
てい @orztee

月流しのお祭りで僕は彼と出逢った。黄金に輝く満月を抱えて川辺にしゃがんだ時、正面にいたのが彼だった。僕の満月に照らされた彼は、何も持っていない様に見えた。それなのに、何かを浮かべるように手を差し出している。 「これは新月さ」 透き通る声で、彼はそう言い微笑んだ。 #月夜話

2015-01-11 00:04:18
てい @orztee

空の見えない病室で、僕は彼女のために絵を描いた。どの絵にも、彼女の好きな月を描き入れた。 「この月、少しずつ満ちていくのね」 そう、そして次が最後だ。ある筈のない窓から満月が覗き、横たわる君を照らす、その光景が僕には見える。彼女の笑い声は、白い病室にいつまでも反響した。 #月夜話

2015-01-11 00:24:52
てい @orztee

或る夜、世界中の生命の夢に、一つの光が現れた。それは光の無い夜空に輝き、夜の闇を照らしてくれた。実際の夜空には弱い星の光しか無い。全ての生命は、その柔らく強い光が現実になることを願った。そしてその願いは叶った。彼らは毎晩、それを夢の中で見ることが出来るようになったのだ。 #月夜話

2015-01-12 00:49:37
てい @orztee

「あの月を取って」 いつかの君の、無邪気な言葉が、まだ耳に残っている。そうだ、君に月をあげよう。その一念で、僕はここまでやって来た。 君はもう、ここから見下ろせる青い星にはいないけれど。君の眠る丘からも見えるよう、精一杯腕を伸ばそう。 月をあげるよ。この、美しい大地を。 #月夜話

2015-01-24 23:17:57
てい @orztee

黄色い顔の男が、黄色い顔の女を連れて歩いていた。彼らは彼らの言語で喋っていたが、不意にこちらに向き直り、真顔で夜の到来を告げた。 私たちの時間は終わった。これから彼らの宴が始まるのだ。 私の頬から零れ落ちた涙を見て、黄色い顔の女はけたたましく笑った。 #月夜話

2015-01-31 00:04:16
てい @orztee

「月が綺麗ですね」 勇気を出して口にした言葉。隣に立つ彼女も本が好きなのだから、きっと通じる筈だ。そう思っていたのに「そうだね」の一言で終わってしまった。 後に何も続けることができずもじもじする僕に向かい、彼女は笑った。 「こんなに月が綺麗なのは、君の隣で見るからだね」 #月夜話

2015-02-26 00:17:08
てい @orztee

お月様は、いつだってひとりぼっち。近くにある星々は黙って回り続けているばかりですし、昔は仲の良かった青い星も、今では不思議に遠く感じられるのです。お月様は寂しくて、絶えず涙を流しますが、それがまた新たな星となるのです。 #月夜話

2015-04-28 23:55:15
てい @orztee

ある晴れた日に、大きな気球を作る少女と出逢った。黄色い気球は大層大きく膨らみ、太陽に対抗する少女を乗せて飛んで行った。 それからだ。太陽に勝るとも劣らない「月」という星が、夜空に輝くようになったのは。 僕は月の正体を知っている。あの少女は、見事に夢を叶えたのである。 #月夜話

2015-05-05 01:27:19
てい @orztee

「おめでとうございます。貴方の願いは月まで聞き届けられました。これは地球の感覚で言うと、宝くじに毎年当たり続けるのと同じ位の幸運です」 目の前に現れた人間大の白兎が言う。しかし私は何を願ったのだったか。 「思い出せた時点で願いが叶います。頑張って思い出してくださいね」 #月夜話

2015-06-26 00:07:09
てい @orztee

「他の人の見ている月が、君の見ている月と同じだなどと、どうして思えるんだい?写真や映像だって、自分だけには違った風に見えているのかもしれないじゃあないか」白いベッドに横たわる兄が、部屋の窓から見える月を指差した。その指先は微かに震え、眼は殆ど開いていないのだった。 #月夜話

2015-08-02 01:20:15
てい @orztee

月に届かない、と少年は泣いた。あの月を取れたら結婚してくれる、あの子はそう言ったのに。月はそっと彼に話しかけた。一ヶ月に一度、私が姿を消す夜に、綺麗に光る物を、月だと言って渡しなさい。程なくして少年は少女と結ばれたが、少女が空を見上げる度、月は慌てて雲に隠れるのだった。 #月夜話

2015-08-02 01:38:08
てい @orztee

良い感じのフリーフォントをDLしたので、試しに。 #月夜話 pic.twitter.com/1WFXvGmkni

2015-10-25 22:04:35
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てい @orztee

少女は毎日、月を焼く。ホットケーキの材料に星の欠片を混ぜ、特製のフライパンで焼き上げる。完成した月は、ほんのり海の香りがする。僕はそれを受け取り、世界中の人が眠る一瞬に、空へ掛ける。それから仲良く前日の月を食べ、ぼくたちは眠る。お休み。明日も美味しい月を焼けますように。 #月夜話

2016-04-09 21:49:35
てい @orztee

隣人が、針のない時計をくれた。「ぼくにはもう必要のない物だからね」そう言って微笑んだ彼は、その夜に消えてしまった。あれから一月。僕にもそろそろ、この時計の仕組みが分かってきた。月光の下に時計を置くと、影の針が空を指す。見上げた先には、彼のように笑う兎が浮かんでいた。 #月夜話

2016-05-28 01:38:31
てい @orztee

何処かで見たような顔の男が、暗い路地に蹲って空を見上げている。なんだかいやな気持ちがする。その正面を通り過ぎようとすると、足首を掴まれた。熱く燃えるような掌は、汗でぐっしょりと濡れている。私の足首も濡れてしまった。「今宵は満月ですな」嗄れた声が、何故だか頭上で響いた。 #月夜話

2016-06-20 23:49:08
てい @orztee

父と夜道を歩いていた。不思議なことには、一歩歩く毎に新しく道が出来ていく様である。夜中だというに鳥の声が喧しい。「お前はもう忘れてしまったのだろう」間延びした声で父は言う。「今夜はおれの命日だよ」ハッとして立ち止まると、月夜の道に、私の影だけが長く伸びているのだった。 #月夜話

2016-06-20 23:57:44