剣と魔法の世界で奇祭「風雲あざらし祭り」が行われる話4(#えるどれ)

ハッシュタグは「#えるどれ
2
前へ 1 ・・ 5 6
帽子男 @alkali_acid

「弟にはこのことは内密に。くだらぬことだが、私も兄の威厳というものがある故」 結局どちらが兄なのか判然としなかった。

2020-05-27 22:36:57
帽子男 @alkali_acid

最後にがちゃんがちゃんと妙な音のする背の低いずんぐりした人物がやってくる。甲冑というか、鍋釜の類を継ぎ合わせたような奇妙な仮装をしている。とはいえ風雲あざらし祭りは、白銀后の生きていた時代を忍ぶ大昔の恰好をした巡礼でいっぱいだからそうおかしくもないが。 「ピョロロロ、アクシュ」

2020-05-27 22:39:48
帽子男 @alkali_acid

ぴたっとウィスティエは手を止めて、疑ぐり深そうに目の前のおかしな巡礼を凝視した。 「あの…」 「キ?」 「えっと」 「ワフワフ」 「…中…どうなってるんですか」

2020-05-27 22:41:03
帽子男 @alkali_acid

「ナカノトリナドイナイ!」 不機嫌そうに甲高く鍋釜武者は答える。 「…カミツキ」 呼ぶと黒猫がうっそりとあらわれ、前肢で足払いをかけた。 たちまち甲冑がすっころぶ。

2020-05-27 22:42:15
帽子男 @alkali_acid

一瞬ばらけかけた胴と手足と頭の隙間から小鳥の頭がのぞき、蝙蝠の翼が出て、犬の尻尾がこぼれ出るがすぐにそれぞれひっこみ、またよたよたと鍋釜武者は立ち上がる。 少女は短く溜息をついて呟く。 「…出ちゃだめって」 「デテナイ!ナカニイル!」 「…どういうこと…」

2020-05-27 22:44:51
帽子男 @alkali_acid

どうやら黒蝙蝠チノホシの工夫によって、何でも入る魔法の合切袋を内部に組み込んだまま動く人型のからくりを作り出したらしい。 「ピョロロ!アンググホウシキ!ダッテ!」 「何それ」 「ワカンナイ」

2020-05-27 22:46:27
帽子男 @alkali_acid

鍋釜武者は力強く武骨な指で白銀侍女と握手をかわすと勢いよく腕を振って、がちゃんがちゃんと帰って行った。 「なにしにきたの…」 「ヴナ…」

2020-05-27 22:48:32
帽子男 @alkali_acid

二日目もいよいよ終わりに近づき、日も暮れなずむ。 だが盛り上がりは衰えるどころか高まる一方だ。 何せ燃波派による一大行事、「灼熱紅蓮あざらし爆発四散大花火」がいよいよ海上で鮮やかな光と熱の大輪を咲かせるからである。

2020-05-27 22:50:40
帽子男 @alkali_acid

「今回はクレノニジさんがとりわけお若いということもあって、はたして打ち上げ船に同乗していただくべきか迷いましたが…ご本人がぜひとのことですので」 燃波派の青年が説明しながら桟橋を先導して歩く。 「聖火は我々の本山がある赤炎谷からここまで手から手へ渡されてきました。今は火種として」

2020-05-27 22:56:03
帽子男 @alkali_acid

「あちらにしまわれています…」 青年がうやうやしく示した先には、燃え盛りながら回転する海豹の浮彫が入った小箱が一つ、同門の手に捧げ持たれている。 「クレノニジさんはあちらをお運びいただき、海上での着火の際に花火師にお渡しいただきます。実際の打ち上げは専門の職人が…」

2020-05-27 23:00:44
帽子男 @alkali_acid

そこへ杖をついた老婆がよぼよぼと近づいてくる。 「おばあさん。こちらの桟橋は今貸し切りで」 慌てて燃波派が止めに入るが、媼は意に介さない。 「来るぞ…来るぞえええ…恐ろしいものが…恐ろしいものが来るぞえええ!」 それどころか、おどろどろろしい口調で寄って来た巡礼達を脅しつける。

2020-05-27 23:02:22
帽子男 @alkali_acid

「またイルカかい?」 「いいや違う…もっともっと…恐ろしいものだぞええ…!!」 まくしたてるだけまくしたてた老婆は満足したように引き上げてゆく。 ウィスティエはしばらく黙ってからおずおずと問うた。 「やめ…てもいいですか?」 「いえ!迷信深い女性の話など気にする必要はありません」

2020-05-27 23:04:17
帽子男 @alkali_acid

「そう…でしょうか…」 白銀侍女はどう考えても不吉な兆ととらえて落ち込んだが、燃波派は今日のために積み重ねてきた準備を無駄にするつもりはさらさらないようだった。 「恐ろしいものなんか。せいぜいイルカですよ」 そううそぶいて。

2020-05-27 23:07:19
帽子男 @alkali_acid

だが実際は違った。 恐ろしいものは近づきつつあった。 はるか遠い大洋の果ての海溝から。 なじみ深いあざらしの偶像が海に近づいたのを嗅ぎつけて。

2020-05-27 23:08:50
帽子男 @alkali_acid

それはに、白銀后の使いあざらしとして知られる海妖精イテルナミが、遠い昔に黒の乗り手の一人のともに眠りにつかせた異形。 「深きもの」と呼ばれる種族のしもべとして作られたが、やがて手に負えなくなった怪物。しかして深きものが狭の大地から去る際、置き去りにしていった遺物だった。

2020-05-27 23:13:19
帽子男 @alkali_acid

かつて海溝に妖精の大宝玉が沈んだ際、眩い輝きによって永劫のまどろみから抜け出し、世界を蹂躙しかけた存在。 海妖精の長上と黒の乗り手の命がけの行いが完全な覚醒を阻止したが、もはや見張りを担うはずだった深きものはなく、長い歳月を経て再び活動を再開したのだった。

2020-05-27 23:16:52
帽子男 @alkali_acid

さて「ウィストの狭の大地あっちこっちシリーズ」 次回は「んー。あいつワテの前の体を仕留めたやつやな。ほなウィスト。ちょこっと力貸してや」 乞うご期待。

2020-05-27 23:25:53

次回の話

まとめ 剣と魔法の世界で奇祭「風雲あざらし祭り」が行われる話5(#えるどれ) ミチビキボシ。出すとすぐ暴走するからな。 3828 pv 4

シリーズ全体のまとめはこちら

まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21949 pv 167 2 users

前へ 1 ・・ 5 6