「五代ゆう&榊一郎の小説指南」ライブ版?(前編)
- yukiminagawa
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五代ゆう先生が「人物の外見描写」について講義開始
「主人公の外見描写」は基本的に、たとえ一人称であってもちゃんとするものである、というのが小説の基本的ルールではありますが、たまに例外が出てきたりします。#sousaku
2011-06-25 00:46:38以前、HJさまより榊さんと編集氏との三人鼎談本として出した『五代ゆう&榊一郎の小説指南』という本がありましてhttp://amzn.to/jmaUkK #sousaku
2011-06-25 00:48:00現在は品切れみたいなので興味のある方はマケプレか古本屋で探していただくとと思いますが、私、またそこで「えー書かないとわかんない(笑)」とかふざけたことぬかして50枚の作例に140枚書きました。アホですか。ええアホです。#sousaku
2011-06-25 00:50:01で、まあそこに載せた140枚の作例にも前に書いたような描写や社会背景なんかの描写やガジェットが織り込まれているわけですが、ここで私、ひとつすごく変則的なことをしております。#sousaku
2011-06-25 00:51:32それは「主人公の容姿を書かない」。いや、正確には「書こうとしたんだけど視点になってくれるはずの人物がそれを言ってくれなかった」んですが。#sousaku
2011-06-25 00:52:16「神経と眼球ごと摘出するしかなかったわ。自分の細胞から再培養するのも、またプリオン化する危険を考えるとできなかったし。結局、昔ながらの大工仕事の出番よ。プリオン化した神経を取りのぞいて、#sousaku
2011-06-25 00:52:51視覚を電気信号に変換して脳の視覚野に直接送る配線をしたわ。あなたの姿だってちゃんと見えるわよ、プリースト」メタルの瞳が瞬いておれを映す。「そうね……黒くて、大きな影、人の形をした闇、それがあなた。まるでこの空間に開いた底無しの穴みたいだわ。#sousaku
2011-06-25 00:53:03どこへ通じているのかもわからない、見ていると吸いこまれそう。人間が、このシティに引きこもって視硝体に頼って生きていてさえ逃れられない、死と罪を呑みこむ奈落(タルタロス)。#sousaku
2011-06-25 00:53:18娯楽ホロの中のプリーストなんてしょせん虚構ね。本物のプリーストが、こんな風に見えるなんて思ってもみなかった」「人工眼というのは、ずいぶん詩的な視界を持っているんだな」#sousaku
2011-06-25 00:53:33「いいえ、今のはわたしの想像。わたしが見た、あなたの印象よ。ただ見えたとおりを言うんじゃ面白くないでしょう。マチューリンがあなたのこと、いい素材だと思わなかったのは不思議ね。彼、死にとりつかれてるの、聞いたでしょう」#sousaku
2011-06-25 00:53:47こんな感じで、私としてはこの少女のほうに「プリースト」(まあ捜査官というか刑事みたいなものだと思ってください)の姿を言ってもらうことで描写しようとしたんですが、なぜか彼女が言ってくれなかったんですね。#sousaku
2011-06-25 00:55:20で、なんでだろう、と考えてみるに、「この主人公には、(物語のテーマ的に)個人としての『顔』があってはならないからだ」という結論に(あとで)達しました。いや書いてるときはなんでいらないんだろうなーと思ってたんだけど。#sousaku
2011-06-25 00:59:33興味のある方には実際本に載ってるほうを読んでいただくとして、簡単に言うとこの話は、「非人間的なシステムで運営されている社会に翻弄される男と少女の悲恋」だったわけです。舞台とか設定はSFだったですが。#sousaku
2011-06-25 01:01:18で、「プリースト」として、その非人間的な社会の一歯車として動かされている主人公の「おれ」は、一種その非人間的な巨大システムの代理者でもあるわけです。#sousaku
2011-06-25 01:02:20そして、彼ら「プリースト」は、一度事件を解決してしまうと記憶と人格を消され、まったく別の人物として蘇らされる運命にあります。つまり、「今回の物語における彼の個人の顔、あるいは人格というものは、今このあなたの読んでいるこの物語の中にしか存在しない」のです。#sousaku
2011-06-25 01:04:14そういう社会システムの中でしか生きられない彼は、自分の顔を持つことも、固有の名前を持つことも(一時的なコードネームとしての呼称はあっても)本質的にできない存在なのです。#sousaku
2011-06-25 01:05:36そういう設定の主人公キャラクターなので、たとえ他人の目から見たものであっても、明確なキャライメージを抱かせるもとになる詳細な外見描写は不要なのです。なぜなら彼は社会のシステムそのものであり、ある意味では、彼ら自身を呑み込む暗い運命そのものであるわけですから。#sousaku
2011-06-25 01:07:26このあたりは小説指南の巻末対談で、榊さんや編集氏も加わってくわしい話をしてますので、もしお持ちでなければすいません。お持ちの方はまたご一読ください。#sousaku
2011-06-25 01:09:15ほかに「主人公の外見を書かない場合」として、現在ハヤカワから発刊中のクォンタムデビルサーガ アバタールチューナー」の冒頭部分があります。#sousaku
2011-06-25 01:10:13一巻をお手元にお持ちの方は確認していただければと思いますが、これ、最初のシーンでは主人公の外見はもちろん、まったく人称がありません。いわば「無人称文」です。#sousaku
2011-06-25 01:15:34「無人称文」というのは今考えた造語でほんとにそんな言葉があるのかどうか知りませんが、平たく言えば「俺」「私」「僕」「自分」という主語がいっさい存在しない文です。#sousaku
2011-06-25 01:17:11なんで主語が存在しないのかというと、このシーンのキャラクターたちは全員「自我がない」状態だからです。自我がなければ「私・自分」という概念を認識することもできませんから、そういう主人公の視点を通して書く「描写」は、必然的に「私」の出てこない文章にならざるを得ません。#sousaku
2011-06-25 01:19:38