『武蔵国ノ巨人(おおひと)鬼ヶ島ヲ追捕セル事』 ぷりめ文書

異類婚姻譚のその後を描いたお話です。
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@ぷりめ @prime46502218

今となっては昔のことだが武蔵の国に という者がいた。彼の父は妖怪と契って子をなしたといわれていた。 16歳となった日、父は彼を呼んでいった。世に出て、己の運命をつかみ取る日が来た。お前はただの生まれではないのだ。彼は承知しているといった。 彼は身長3メートル半、体重250キロあった

2020-05-24 15:26:27
@ぷりめ @prime46502218

母について、当時のことを知る村人が噂するのを、彼は聞いたことがあった。身長3メートル半、体重250キロあって、こぶしやひじやひざが骨か牙のように硬くなっていたと。 それを聞いて、自分の母のことだと彼は悟った。自身とそっくりだったからである。彼は村人に詳しく話をせがんだ。

2020-05-24 15:29:31
@ぷりめ @prime46502218

村人は父に口止めされていると言って、地に伏して見逃してくれと頼んだ。彼はそれ以上聞けなくなった。 その見た目にもかかわらず、彼は内気で人付き合いの苦手な性格に育った。子供同士の喧嘩もしたことがない。死ぬからである。大人も恐れて下手に出る。死ぬからである。彼は孤独だった。

2020-05-24 15:32:34
@ぷりめ @prime46502218

父は初めて母について話してくれた。昔、武蔵の国のこの里に、天から城が降ってきたという。その城の中から出てきたのが母だった。 城を警戒していた若侍であった父は、お互いに一目で相手こそ人生を共にすべきものであると悟った。父は朗々と名を名乗り、母は右手を掲げた。

2020-05-24 15:36:30
@ぷりめ @prime46502218

やがて、しかるべきことがあって子が生まれた。彼はその部分について詳しく聞きたがったが、父ははぐらかした。 彼が生まれた後、母は父に、恐れていた時が来たといった。かの城の救難ビーコンなる物が船を呼び寄せ、母は帰らねばならぬ身となってしまった。母は珠と剣を残し涙に袖を濡らしつつ去った

2020-05-24 15:41:40
@ぷりめ @prime46502218

母が言い残したように、父が剣と見えたものを珠にかざすと、様々な事柄が朗々と語られた。テクノロジイなる種種のからくりについて、戦の方法について、星系間船のからくり、様々な法と裁判について。読み上げる声は母の声であった。聞き覚えた彼は、知恵もまた国で最もすぐれた若者に育っていた。

2020-05-24 15:45:54
@ぷりめ @prime46502218

彼は仕官すべく城を目指した。城の殿様は分け隔てなく人を取り立てることで知られていた。 その日、自分の山城で街道の風景を眺めていた殿さまは、わが目を疑った。その男の身長はどう見ても隣りの人間の倍あった。殿様は家来に諮り、家来も倍あるように見えると答えた。 彼が城に来たので皆驚いた。

2020-05-24 15:50:39
@ぷりめ @prime46502218

殿さまは家来を使わして彼を詮議し、心身ともに秀でた若者であることを確かめた。 しかし、家臣一同の会議は紛糾した。身長3メートル半の者が、仮に殿に目通りを願って、いきなり暴れだしたら止めようがない。仮に素手でも暗殺されてしまう。もっともな言い分だったので殿さまも迷った。

2020-05-24 15:55:20
@ぷりめ @prime46502218

そこで、知恵者の家老が言った。彼に一つ仕事を任せてみよう。うまくいけば取り立ててよいと判断できようし、失敗すれば門前払いしても殿様が彼を憎んだと思われまい。家臣一同は家老の知恵をほめたたえ、ちょうど兼ねてから懸念であった海賊の島、通称鬼ヶ島を臣従させることにした。

2020-05-24 15:59:08
@ぷりめ @prime46502218

彼は鬼ヶ島退治に向かった。彼は抜け目なかったので支度金と旅費を要求した。城の今年度予算案になかったので、言い出した家老が自腹を切って渡した。家老の人望は知恵だけでなく、こういうところから生まれるのである。 彼は共と漁師村まで行き、船を雇って鬼ヶ島に向かおうとした。

2020-05-24 16:03:01
@ぷりめ @prime46502218

しかし、漁師たちは渋った。彼がデカいのである。 体重が250キロあると聞いて、船が沈むと漁師はいった。浜の漁船は皆、帆柱もないような小舟なのである。 そこで彼は、船を二艘借り受け、しかるべく縄で繋いで航海用カヌーをこしらえた。母譲りの知恵である。漁師たちは驚き、彼に船を差し出した。

2020-05-24 16:06:44
@ぷりめ @prime46502218

彼らは鬼ヶ島へ船出した。供の者がカヌーの真ん中で太鼓を叩き、浜で雇った漕ぎ手が櫂をこぐ。まるで南洋の征服王のような姿であった。ただし、彼は船をつないだ床の真ん中で這いつくばっていた。重心が高いと転覆の恐れがあったからである。これも母の珠からたまわった知恵である。

2020-05-24 16:11:47
@ぷりめ @prime46502218

鬼ヶ島は、見たことのない船が近づいてくる、人型の鯨をのせている、と物見の報告を受け一笑に付した。 しかし、実際に彼の一行が上陸してくると笑い事ではなくなった。何せ身長3メートル半の、ひじやひざが牙のように硬くなった男がのっしのっしとやってくるのである。海賊たちは砦に引きこもった。

2020-05-24 16:14:00
@ぷりめ @prime46502218

いかに城攻めするかと、兵士たちは口々に聞いた。 彼はまず、城を包囲させてから、逃げ遅れた海賊に別々に尋問した。どちらの海賊も、砦に食料はあまりない、泉があって水源は裏山にある、と言った。 彼は、どうやって船を作っているか尋ねた。海で這いつくばって見た限り木の多い島には見えなかった。

2020-05-24 16:18:11
@ぷりめ @prime46502218

海賊は、すべて奪った船だ、この島には多少心得のある者はいるが本格的な船大工もおらず、また太い木が生えないのだ、船はこの入り江にある分で全部だ、といった。 彼はそれを聞くと、捕らえた海賊たちを解き放って砦に追いやり、砦の水源に毒を投げ込んで、全ての船を砦から見えるところで焼いた。

2020-05-24 16:22:13
@ぷりめ @prime46502218

母の珠が語る数々の教えは、後世の者ならば合理的思考と呼ぶであろうものを彼に与えていた。 七日後、海賊たちは降伏した。徹底抗戦を命じていた頭目の首を捧げ持っていていた。彼は海賊のうち主だったものを捕虜とし、残りの者には浜の村にあった食料を与えて、別命あるまで島を出ることを禁じた。

2020-05-24 16:28:55
@ぷりめ @prime46502218

海賊たちを連れて、彼は城に戻ってきた。殿様や家老は、経緯を聞いて彼の知恵に驚き、そうしたことはだれに教わったのかと問うた。彼は答えた。母に、と。 彼は晴れて仕官かなった。彼の家は長く続いた。世の流れで幾度か家名は関わり、浮き沈みありつつも、その後裔を名乗る者は明治の代まで続いた。

2020-05-24 16:34:05
@ぷりめ @prime46502218

埼玉県巨人ヶ浦や、神奈川県大斉(おおひと)村(現在は横浜市)にも、身長が人の倍あった者の伝説が残る。マレビト信仰やダイダラボッチ伝説とも混じり合いつつ、それらは今に続いている。(了

2020-05-24 16:39:41
@ぷりめ @prime46502218

@hiromotoyuuou あの宇宙人ですね。なんて迷惑なやつ。

2020-05-24 16:49:44
@ぷりめ @prime46502218

@ZTbWr2Eg9PF5fSh 両親は父150センチくらい対母3メートル半ですからやり方はわかりますが、彼の奥方は……。 ゴリラみたいに体格のわりに生殖器が小さい種族なんでしょうか。 いや、そもそもなんで異星の生物と子供作れるのか……。

2020-05-24 16:56:03