北海の死闘!― 潜水艦鸚鵡貝号よ伝説の海底都市を追え1(#えるどれ)

いい匂いのいい男 いい匂いのいい男 いい匂いのいい男
3

シリーズ全体のまとめはこちら

まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21924 pv 167 2 users

前回の話

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷が解放されて騎士となり失われたものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 奴隷時代のまとめは以下からどうぞ togetter.com/li/1533610

2020-06-08 21:02:20
帽子男 @alkali_acid

妖精の騎士の宿敵である黒の乗り手は、邪教の奇祭に潜入して無事、眷属たる黒き獣のうちの一匹、黒海豹のミチビキボシを麾下に加えた。 獣はそれぞれ失われた故郷、影の国へ通じる鍵となる魔法の指輪を携えている。 指輪の数は九個。 獣の数は九匹。 すで五個と五匹までは集め、残りは四個と四匹。

2020-06-08 21:06:05
帽子男 @alkali_acid

黒の乗り手は科学文明が支配する現代において、かつての夜馬や翼ある獣にかえて、鉄の馬、汽車を駆る。 美しい着彩と象嵌を施した機関車に鍛冶屋の工房を思わす炭水車、硝子の天蓋を備えた薬草園に診療室のついた客車、防音と響音の行き届いた演奏車もあれば、撞球台や的当を備えた遊戯車もある。

2020-06-08 21:09:19
帽子男 @alkali_acid

科学技術を礎に置くとはいえ、やはり魔法使いたる黒の乗り手が作り上げただけあって、外見よりも中身が広く、車両はまるで生きもののように自ら増える。 主たる頭巾の少年ウィストは今、車両の一つにある診療室の椅子に座り、眷属である黒犬と黒海豹に囲まれていた。

2020-06-08 21:11:26
帽子男 @alkali_acid

”どやろ。アケノホシ” 流線形というにはややずんぐりした体つきに鰭を備えた海獣ミチビキボシが、三角の耳にふさふさの尻尾を持つ陸獣アケノホシにそう尋ねる。 ”ウィストの中には無数の強大な魔法が渦巻いて絡み合い、一つ一つを切り離して捉えるのは難しい”

2020-06-08 21:13:32
帽子男 @alkali_acid

”せやけどはよ何とかした方がええわ。どっからかウィストの中に潜り込んだ魔法の一つは、獣鬼魔道の杖。厄介さで言うたら、ワテらを縛っとった闇の女王の指輪とおっつかずや。ほっとくとウィストどころか世界中を巻き添えにしてしょもないことになるわ” ”そのようだね。だからこそ…”

2020-06-08 21:17:23
帽子男 @alkali_acid

声なき声で黒海豹と会話をかわしてから、黒犬は少年の手に鼻面をこすりつける。 一瞬だけ身を強張らせた頭巾の男児は、しかし勇を鼓して獣の顎の下あたりをおずおずと撫でる。 アケノホシは目を細めてから、すぐまた離れた。

2020-06-08 21:20:06
帽子男 @alkali_acid

”だからこそこの子は、身の内に魔法の杖を封じ込めているんだと思う” ”ほわー…” ”財団?とかいう連中の言葉を借りれば、ウィストは自分の体に、危険きわまりない遺物を収容している。言わば生きた安置所という訳さ”

2020-06-08 21:22:05
帽子男 @alkali_acid

”ウィストがわざと杖を体に入れとるん?” ”意識してではないかもしれない。でもこの子の魔法への嗅覚…とくに災いを呼び起こし、人を傷つけるような魔法への嗅覚はきわめて鋭い。自分の体の中にしか収容できないものだけを取り込んでいると思う” ”…んー…せやけど…獣鬼魔道の杖はなー”

2020-06-08 21:28:41
帽子男 @alkali_acid

黒海豹は床を転がりながら焦点の合わぬ目を宙に遊ばせ、時々黒犬にぶつかって身をこすりつけてじゃれながら考え込むようすだ。 アケノホシは尻尾でぱたぱたミチビキボシの頭を叩きながら続きを待つ。 両手で頬杖をついて眺めていたウィストが小さくくすっと笑う。

2020-06-08 21:31:49
帽子男 @alkali_acid

”獣鬼魔道ちゅうおひとは、たとえ杖だけでも、そう簡単に収容されんわー。指輪の呪いや狂毒がワテらを内側から蝕んだみたく、ウィストを中からちょこっとずつ変えてく気する” ”そうかもしれない…ただウィストの方が、杖を蝕み、変えてゆく可能性もある” ”ほわー。せや。ワテも似たようなことあったわ”

2020-06-08 21:35:23
帽子男 @alkali_acid

”ウィストが僕とまた一つになってくれたら、この子の中にある杖をもっと調べて取り出したり、もっと安全に封じ込めたりする手が打てるかもしれないが、今外から診て解ることは限りがあるね” ”ええけど…せやったら当分仙女はん…今はアンググには近づけられんわ”

2020-06-08 21:37:46
帽子男 @alkali_acid

”どうして?僕はウィストだけは…あの人を傷つけたり苦しめたりしない…幸せにできると思うのだけど” ”いつものあれや” ”ええ!?でも指輪の呪いはもう…” ”ウィストも、ヤミノカゼが呪われとるうちに作った子や。呪いの爪痕は残っとる。そこに杖がはまり込んで、悪さしようとしとった” ”そうか…”

2020-06-08 21:39:59
帽子男 @alkali_acid

”なんや獣鬼魔道の杖も、闇の女王の指輪と、性の似たとこあってな。雄と雌をくっつけて子作りさせようとする…単純な分丈夫で、ウィストがどんだけ杖をおとなしゅうさせても、そこんとこを変えるのは難しい思うわ” ”そういうことなら…あまり余裕はないね”

2020-06-08 21:43:48
帽子男 @alkali_acid

黒犬は元気よく吠えて、頭巾の男児の周りを駆け回った。 ウィストはアケノホシの鳴き声に尖り耳をひくつかせて、やがて答える。 「呪い…魔法の杖…ダリューテさんに…近づいちゃ…だめ…うん…わかった…近づかない…」

2020-06-08 21:45:29
帽子男 @alkali_acid

「ウィスト。えろう申し訳ない。その杖を持ち込んだんわワテや。何とか取り出すさかい辛抱してや」 「あの…呪いって…僕が…ダリューテさんのこと…す…す…」 少年が口ごもると、黒犬が足を止めて舌をたらし、黒海豹が鰭で腹を叩く。 「好き…に…な、るとか…」 「ま、せやな」 「…なんだ…」

2020-06-08 21:47:59
帽子男 @alkali_acid

「じゃあ…いい呪い…かも」 ぽつっとウィストは呟いた。ぎょっとしてアケノホシとミチビキボシが強張る。 「ワフ!ワフワフ!」 「あかん!あかんあかん!」 「ち、近づくないよ…影の国いったら…もう会わないし…でも…」

2020-06-08 21:49:11
帽子男 @alkali_acid

少年はおずおずと微笑んだ。 「ダリューテさんが…好きに…なれたの…すごく…う、うれしかったし…ずっと怖くて…だけど…仲良く…なれたらって…」 「あんな。自分やなくて呪いがこしらえた気持ちや」 「うん…自分だけだったら…多分…こんな風に…思うの…無理だし…だから…」

2020-06-08 21:51:35
帽子男 @alkali_acid

「ダリューテさんを…好きになれる呪いは…ちょっと…いい呪い…かも…」 黒犬はいきなり甲高く遠吠えし、黒海豹は激しく床を転がりまわった。 「んなー!んなー!」 「ワフ!ワフ!ワフワフ!」

2020-06-08 21:53:27
帽子男 @alkali_acid

「あんな…ウィスト…ちょこっと聞いてや」 「うん?」 「例えば…やけど、…呪いのせいで、ある人を好きになってもうて、せやけどそれを認められんくて…ちょこっと似とるけど別の誰かを好きになろうとして…ほんで…相手を…あかん…ウィストにする話やないわ」 「…え、じゃあ聞かない」

2020-06-08 21:55:46
帽子男 @alkali_acid

盲目の黒海豹は暗い膚に尖り耳の少年の膝に乗っかる。 「重い…」 「聞いてやー」 「…どっち…」 「聞いてや」 「じゃあ…いいけど」 「相手にむちゃひどいことしてもうたら…ほんでも…ええ呪いやろか…」

2020-06-08 21:57:02
帽子男 @alkali_acid

「え…えっと…けど…呪いのせいでひどいことしたの?」 「…んー…んっ…いや厳密に言うとそうでもないちゅうか…まあ…九割ワテやけど…」 「?」 「ワテ…のせいです…」 「えっと…ごめん…好きになったのは呪いのせい?」 「…多少ある…」

2020-06-08 21:59:20
帽子男 @alkali_acid

「…好きになったのは…いいこと…だと…思う…」 ちょっともじもじしながら少年が答えると、黒海豹は髭をひくつかせた。 「…せやろか…」 「ひどいことしたのは…よくないと思う…何したの?」 「…何やろ…喧嘩…」 「そう…」

2020-06-08 22:02:21
帽子男 @alkali_acid

ウィストはどこか優しげな、でもちょっとうっとうしげなまなざしでひっついてくるミチビキボシを見下ろした。 もはや、黒海豹が魔法で獣になる前は船長として部下をとりまとめていたとか、そういう自慢話への尊敬は欠片も残っていない。 「…重い…」 「落ち着くわー」

2020-06-08 22:04:04
1 ・・ 6 次へ