ダークエルフのショタがインポのペガサスと人形遊びする話(#えるどれ)
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以下本編
◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失われたものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のエピソードまとめは見やすいWikiからどうぞ! wikiwiki.jp/elf-dr/
2020-06-25 20:38:02さて妖精の騎士の宿敵、黒の乗り手は、海底の街での一戦を終え、傷ついた市邑の修復を済ませると、魔法の汽車に乗って出発した。 街が築かれた岩礁の外へ出ると、黒の乗り手の眷属である黒蝙蝠の工芸と黒歌鳥の呪歌が一つに合わさって輝きと響きを発し、波の下に音と光の谺(こだま)を広げた。
2020-06-25 20:41:06海底の街はまるごと、掌に収まるほどの大きさの青真珠に収まり、紫蝶貝の殻に入り、さらに揺らめく緑の珊瑚の下に置かれた。 いずれも本物そっくりだが、巧緻な技を持つ職人の手が作り上げた細工だ。
2020-06-25 20:44:53「水底の砂や岩、甲殻や魚骨からあ朽ちず曇らず傷もつかぬ品々を生み出すとは、まこと黒の鍛え手の奥義は妖精のも及ばぬほど」 客車の窓から水底の景色を眺めていた乗客がぽつりと告げる。くすみ赤みがかった肌に尖り耳が目立つ、ほっそりとした体つきの貴人。向かい合って瓜二つの人物も座っている。
2020-06-25 20:48:21「黒の歌い手の雅歌の不思議さも感に堪えぬ。千尋万斤の水をば揺らめかせ、潮の流れも御し、かの宝を熱をもってもアあk里をもっても、音をもっても気づかれぬようにした」 双子の片割れが同じ方を眺めながら応じる。 「海底の街はとこしえに人間から隔てられたか」 「妖精にすら辿り着けやも」
2020-06-25 20:52:56「んー…そうでもないわ」 ひょこりと二人の間に黒海豹が頭を出した。見えぬ目を宙に遊ばせつつ、鼻先をぺとっと窓硝子に押し付ける。 「おとーはんとホウキボシに頼んで、ちょこっと仕掛けつけてもろた」
2020-06-25 20:54:57「おやミチビキボシ殿」 「いかなる仕掛けかうかがいたいもの」 貴人達はそれぞれ両側から話しかける。するとずんぐりした海獣は鰭をぱたつかせながら答えた。 「近くで妖精の魔法が使われよったら、海底の街は応える」 「なるほど」 「それは妙案」
2020-06-25 20:57:15「海妖精のイテルナミはんの魔法芸がこの岩礁のそばの波の上でも、波の下でも披露されよったら、きっと海底の街はまた目覚めるわ」 ミチビキボシの言葉に、公達は首を傾げる。 「だが海妖精はことごとく西の果てへ去った」 「しかり。二度とは戻らぬだろう」
2020-06-25 20:59:40「んーそんでも、あそこは海妖精の古巣やし」 ふごふごと窓硝子にくっつけた鼻をうごめかしながら、黒海豹は応じた。それからふとまた虚ろな双眸を瞬かせる。 「お?鯨よりおっきなもんがこの汽車のそばを泳いでいきよる」 「ほほう。我等の目にも見えぬが」 「ミチビキボシ殿の耳には捉えられるか」
2020-06-25 21:02:36「羽車が水掻き回しとる。潜水艦鸚鵡貝号や。かっこええなあ。ナモのおねーはんとガウドのおにーはん無事帰りついたらしいわ」 科学万能の時代にあっても、まだ世界に一隻しかない水の中を航る巨艦が軽快な速さで真上を通り抜けてゆく。 魔法の汽車は大気ならぬ大洋にも響く汽笛を発した。
2020-06-25 21:06:16殷々と尾を引く音色に尖り耳の双子は眉を潜めるが、しかし嫌がっているというほどではない。 「ほわー…ワテもこの汽車に名前ほしいわ…お船とちゃうけど…あった方が楽しいやんな」 おりよく左右非対称の翼を持つ黒蝙蝠が客車に入ってきて、椅子の背に慎ましく止まる。 「あ、おとーはんの羽音や」
2020-06-25 21:08:58海獣はうれしそうに告げると、飛獣のいる方向に見当をつけて振り返る。 「おとーはん。この汽車に名前つけてええ?」 「キキ」 「ほんまあ?ほな考えよ…んーと」
2020-06-25 21:10:09双子の貴人はつい身を乗り出してそれぞれ口を挟む。 「しろがねの凱歌号はどうか」 「まてまて。白銀の栄光号はいかが」 「晩虹の輝き丸も捨てがたいぞ」
2020-06-25 21:12:07黒海豹はふんふんと鼻を鳴らしてから、器用に床を転がって回転する。 「しろがねの凱歌号はあかんけど。ほかはええな。せやウィストにも聞こ」 また並の海豹離れした速度で匍匐を始め、時々どうやってかすいっと滑走させすると、驚くべき素早さで別の車両へ向かう。黒蝙蝠と双子もついていく。
2020-06-25 21:14:38ウィストと呼ばれた少年は、寝台車にいた。 怪我をした知人を看病するためだ。海底の街での戦いの巻き添えになって重傷を負い、汽車に運ばれて手当を受けたのだ。 「もう、起きられるの…すごい…です」 「…うう…クレノニジちゃんが看病してくれるなんて…感激なんだな…」
2020-06-25 21:17:20ほとんど脂肪に埋もれた首に包帯を巻いた肥満漢が、甲斐甲斐しく世話を焼く男児にうっとりと応じる。 「まるで邪神のために業を積んだものがだけがたどりつけるという、あの冥府にいるみたいなんだな」 「…そ、そうですか…」
2020-06-25 21:19:10でぶの青年はひとなつっこく、やせっぽちの少年に間合いを詰めようとし、相手がすすっと遠ざかったのに気付くとつぶらな瞳に悲哀の色を浮かべる。 「く、クレノニジちゃんは、このペドが嫌いなんだな?…ごめんなさいなんだな」 「いえ…あの…」
2020-06-25 21:22:15「か、カミツキが…心配して」 少年は腕をあいまいに動かしながら、黒猫と肥満漢の間を遮るように立つ。 「ぺ、ペドさんは、ふつうのひとだって…いったんだけど」 「ひょっとして…クレノニジちゃんは…猫さんと仲良しなんだな!?…も…モゥエエエエエエエエ!!!!!」
2020-06-25 21:25:57ペドは突然奇声を発して贅肉を震わせた。 「ひっ」 ウィストが後退ると、相手は早口でまくし立てる。 「わかったんだな!猫さんは、クレノニジちゃんの騎士なんだな?それで、悪いやつが近づかないか見張ってるんだな?」
2020-06-25 21:27:49異常に呼吸を荒らげながら、肥満漢はぼってりした指をわきわきと動かす。 やせた少年は怯えつつも、また患者の容態がよくないのではないかと見習い看護婦らしい心配を含んだ眼差しを返す。 「黒猫の耳や尻尾のついた人形を…作りたいんだな…あえて破れたりちぎれたりした意匠を入れるのも」
2020-06-25 21:29:45「あ、あの、あんまり興奮しちゃ…」 「んほほほほ!んほほほ!ぶひひひ!ぶひぃいい!!」 説いても無駄のようだった。すでに向かいの寝台にうずくまっていた黒猫は四つ足で立ち上がり、破れ耳とちぎれ尻尾をぴんと立てている。 すぐにでも攻撃に移りそうな気配だ。
2020-06-25 21:31:13「だめ!だめ!カミツキだめ!ペドさんはだいじょうぶだから!」 「ぶひひぃ!」 「で、ですよ…ね?」 「もちろんなんだな!できないんだな…ペドには!クレノニジちゃんに危害を加えるなんて!できないんだな!…でも…でもやっぱり結婚してほしいんだなあああ!!!!!!」
2020-06-25 21:31:59