ダークエルフのショタがインポのペガサスと人形遊びする話(#えるどれ)

インポでバランスをとったからセーフ(独自理論) えるどれシリーズの過去のエピソードまとめは見やすいWikiからどうぞ
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帽子男 @alkali_acid

かっとカミツキの双眸が限界まで開かれ、逆に瞳の奥では剣呑な光が極限まで細く鋭く絞り込まれる。 刹那、闇色の死の矢となって標的の急所を抉ろうとした小さな殺し屋に、しかし相棒の少年は無我夢中で飛びつき、宙で抱き留め、そのまましゃがみこんだ。

2020-06-25 21:35:51
帽子男 @alkali_acid

「やめて!やめて!」 そのままウィストが必死で訴えるのに、カミツキは猫なりに愕然とした表情で見つめ返す。 「やめ…え?どう…したの…カミツキ」 「ヴナ…」 「あ、ごめん…抱かれるの…嫌なのに…」

2020-06-25 21:37:19
帽子男 @alkali_acid

少年があわてて降ろすと、黒猫はとことこと床を歩いてから、いきなり暗い稲妻のような迅(はや)さで連れの背後をとる。 ウィストは今度はまったく反応できず、当惑して瞬きするだけだった。カミツキは首を傾げ、ふんと鼻を鳴らしてから、また寝台によじのぼって元の位置にうずくまった。

2020-06-25 21:39:30
帽子男 @alkali_acid

「モゥエ…モゥエ…」 「あの、ペドさん…安静に」 「大丈夫なんだな…どんどん生きる力が沸いてきたんだなな。推しの間近にいられるって…こんなに素敵なんだな…白銀后は…この世で一番の歌姫なんだな…でも…ペドには決して近づけなんだな…なのに…クレノニジちゃんは…」

2020-06-25 21:41:40
帽子男 @alkali_acid

しかし卓越した癒し手の施療もあってか、肥満漢は完全に回復しているようだった。一定の距離を保ちつつ見守る幼げな看護役に、もはや近づこうとはせず、息を荒らげつつも汗ばんで話しかける。 「はぁはぁ…お、お願いがあるんだな」 「な、なんですか」

2020-06-25 21:44:41
帽子男 @alkali_acid

「ぺ、ペドを…クレノニジちゃんの…おともにしてほしいんだな!きっと役に立つんだな!」」 「え…あの、ふつうのひとは…ちょっと…あぶないから…」 痩せっぽちの男児が断ろうとすると、肥満漢はまた捨てられた犬のようなまなざしで見つめる。 「推しの側にいられたら…死んでも構わないんだな」

2020-06-25 21:46:50
帽子男 @alkali_acid

「え…いや…死なない…ほうが…」 「このペドロフスコ。クレノニジちゃんに比べればごみ同然なのは解ってるんだな…でも驚天傀儡師と呼ばれた自負は少しぐらいあるんだな。クレノニジちゃんの次回公演に大道具から小道具まで何でも作るんだな」

2020-06-25 21:50:26
帽子男 @alkali_acid

「ええやんか。ウィストの汽車に乗ってもろたら」 のんびりした声が横合いから割って入る。いつのまにか黒海豹が床を滑走し、少年の片方の踵に鼻先をくっつけて止まったところだった。 「ワテはええ匂いの、ええ男やと思うで。ペドはん」 「…でも…危ないから…」 「ウィストが守ればええやんか」

2020-06-25 21:53:15
帽子男 @alkali_acid

「ま、守る?む、無理…」 「せや。今までだってウィストは色んなひとやらものやら守っとったやんか。あと世界とか」 「え、してない…」 「さよ?ほなええわ。ほんでも折角一緒にいたいて言うとるええ男を、守れんから言うて何や別れたらつまらんのとちゃう?」 「…は、へ…へ?」

2020-06-25 21:55:27
帽子男 @alkali_acid

ペドは流暢に人語を解する海豹とウィストを交互に見やり、また奇声を発する。 「モゥエエエエエエエエ!!!」 もうこのでぶのツボがどこにあるのか解らない。

2020-06-25 21:56:20
帽子男 @alkali_acid

「はぁはぁ…猫さんだけじゃなく…とどさんとも仲良しなんだな!?」 「あざらし」 「あしかとたわむれるクレノニジちゃんもかわいいんだなあ!!!」 「あざらし」

2020-06-25 21:57:04
帽子男 @alkali_acid

黒蝙蝠が少年の肩に降りて、何ごとか囁く。 「ええ?そ…そんなの…」 「こ、蝙蝠さんとも仲良しなんだなあ!?」 肥満漢がまたやかましくわめく。床では黒海豹が微妙に心外そうなまま転がっている。

2020-06-25 21:59:02
帽子男 @alkali_acid

「あの…う…わかった…ぺ、ペドロフスコさん…怪我が治るまで…汽車に…いて下さい…それと、できれば…人形のことを…この…チノホシって…蝙蝠に…教えて下さい」 「人形!人形について知りたいんだな?う、うれしいんだなあ!!ペドのすべてを教えるんだな!」

2020-06-25 22:00:54
帽子男 @alkali_acid

なしくずしに驚天傀儡師ペドロフスコは汽車の乗客となった。 ちなみに汽車の名前は、夜見路(よみじ)号と付けられた。

2020-06-25 22:06:31
帽子男 @alkali_acid

ペドは見た目によらずなかなか博識で、人形だけでなく機関車など機械工学全般に詳しかった。なんでも学問の都の工学の府を出ているという。 「めんどくさいから飛び級したんだな」 「すごい…」 「すごくないんだな。あそこにペドが求めるものはなかったんだな」

2020-06-25 22:08:03
帽子男 @alkali_acid

肥満漢は、ウィスト以外の乗客とはすぐなじんだ。黒き獣ともうまがあうようだった。 特に黒蝙蝠のチノホシとは意気投合した。初めは人間が動物に人形作りを教えていたが、やがて立場は逆転した。 「し、師匠と呼ばせてほしいんだな」 「キ…」 「そういわず!お願いするんだな!」

2020-06-25 22:10:12
帽子男 @alkali_acid

チノホシは迷ったすえにペドロフスコの弟子入りを受けた。 ひとつには海底の街から連れてきた傀儡師の作品、勝手に動き回り喋る人形の群の面倒をみるのに、協力が必要だったからでもある。 「うつわ!もっと!すぐれたうつわ!」 「娘達!しゃべるようになったんだな!」

2020-06-25 22:11:51
帽子男 @alkali_acid

肥満漢は、筆談や少年の通訳を介して黒蝙蝠と意思を疎通し、どこか以前とは変わった少女のからくりをそれぞれ入念に手入れしつつ、より完璧なものへ作り上げると誓った。 「人形作りの道に終わりはないんだな。指の関節一つとっても改良の余地は無限にあるんだな」 「キキ!」

2020-06-25 22:14:10
帽子男 @alkali_acid

ペドがチノホシと一緒に、夢中になってからくりについて語り、また部品をいじり、図面を示していると、いつのまにかウィストもすみっこの方に座って真剣に耳を傾けている。 「…?クレノニジちゃああん!」 「ひっ…」

2020-06-25 22:15:37
帽子男 @alkali_acid

傀儡師が注意を向けてくると、頭巾の仔はたじたじとなって退却する。 だが作業と研鑽に打ち込んでいるとまた近寄ってきて、おずおずと質問をしたり、工具に触る許しを求めたりする。

2020-06-25 22:16:49
帽子男 @alkali_acid

「さすがに蝙蝠さんの一番弟子なんだな。クレノニジちゃんならきっといい傀儡師になれるんだな」 「え…むりです…器用じゃないし」 「?そんなことないんだな。クレノニジちゃんの小さな指はすっごく…すっごく…ちっちゃ…かわ…かわいいんだな!モゥエエエエ!」 「ひっ…」

2020-06-25 22:18:06
帽子男 @alkali_acid

ペドは人形をいじっていない時は、のこのことウィストの尻について回り、音楽室のある車両では黒歌鳥のホウキボシによる歌唱と奏楽の指南を受けたり、鍛錬室のある車両で黒海豹ミチビキボシの教導を受け、体術の型と呼吸を学んだりした。

2020-06-25 22:21:21
帽子男 @alkali_acid

黒猫のカミツキは初め、やたらかさばる新たな乗客を無視した。 だが小さな殺し屋が、ずるずると木剣を咥えてひきずりながら、男児に近づくのを目にした青年は、けげんそうに尋ねた。 「猫さんは何をしてるんだな」 「あ、剣術の…稽古…したいって」 「剣術なんだな?」 「た、戦いは…あんまり…」

2020-06-25 22:24:27
帽子男 @alkali_acid

「剣術…確か学問の都で女子がよくやってたやつなんだな」 「!あれは…かっこよかったかも…知ってるんですか?」 「工学の府付属の女子は激弱だったから、ペド様のところに注文が来たんだな。剣術が使える人形を作ってほしいって」 「!?そ、そうなんですか」 「でもすぐバレて失格だったんだな」

2020-06-25 22:26:10
帽子男 @alkali_acid

黒猫はうさんくさそうだったが、驚天傀儡師は、勝手に喋り動くやようになった少女人形から剣術に興味があるものを募って改造を施し、少年の稽古台として役立つようにした。 「これで猫さんの役に立てたんだな」 「…フンッ」

2020-06-25 22:28:27
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