ダークエルフのショタがインポのペガサスと人形遊びする話(#えるどれ)

インポでバランスをとったからセーフ(独自理論) えるどれシリーズの過去のエピソードまとめは見やすいWikiからどうぞ
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帽子男 @alkali_acid

なおウィストはぼこぼこに剣術人形に負けた。 「あわわわ…クレノニジちゃん!?」 「んー。ペドはん。剣術やったら、お人形に女のひとのかっこさせん方がええわ」 黒海豹が助言する。 「なんでなんだな?!かわいいんだな!」 「うちの一族は女のひとと戦うんはあんま得意やない」

2020-06-25 22:30:56
帽子男 @alkali_acid

カミツキは相変わらずばかばかしいという態度だったが、ウィストが戦闘というより競技であっても、剣術に興味を示したのは歓迎する風だった。 「あんな。剣術も体術も上手になったら、怪我させんで揉めごと避ける役に立つと思うわ」 「…そう…かな」 「少なくともあんま魔法に頼らんで済む」

2020-06-25 22:36:22
帽子男 @alkali_acid

ウィストが布と細い木の芯で作った痛みの少ない道具で剣術人形相手におっかなびっくり型を演じるのを、黒猫は黙って眺め、黒海豹はにこやかに聞き入る。 「ええ音やな」 「ヴ」 「…せやけど…やっぱヤミノカゼよりウィストの魔法は強いわ」

2020-06-25 22:39:31
帽子男 @alkali_acid

いつの間にか黒犬もそばに加わって見物する。 「ワフ…ワフッ」 「ほんまや。あのけったいなお札。最後は誰もヤミノカゼに逆らえんようにする呪具まで使っとったはずやのに、ウィストの力はもうあのちっこい体に戻ってきとる」 「ウウウ…」 「ほーん今…魔法を抑えとるのは…ヤミノカゼやのうて…」

2020-06-25 22:41:35
帽子男 @alkali_acid

”ウィスト自身だ” 黒犬アケノホシはそう仲間に囁く。 ”あの子の成長が遅いのに気づいてるね” ”妖精の血のとちゃうん?” ”ああ。それもある。でも何よりウィストが、黒の乗り手としての力を増すのを押しとどめようと必死なせいだよ。本人は気づいてないみたいだけど”

2020-06-25 22:43:34
帽子男 @alkali_acid

”なしてウィストはそないしよるんやろ” ”…きっとヤミノカゼが願ったからだ。影の国や九つの指輪や…力あるもの同士の角逐に無縁な生き方を” ”ほな、何もかもヤミノカゼ喜ばすためにしとるん?” ”まるで…呪いだね” ”あんだけ苦労して呪い解いて、子供に別の呪いかけとったら世話ないわ”

2020-06-25 22:47:08
帽子男 @alkali_acid

ミチビキボシはアケノホシの尾っぽを甘噛みしてから、呟く。 ”せやのに結局ウィストはヤミノカゼの策無にしかけとる。ワテらも手伝っとるし” 黒犬は前肢で黒海豹をつついて転がす。 ”子が親の願いに逆らうのもうちの一族の倣い” ”んー仙女はんとはあかんわ” ”それは繰り返させない”

2020-06-25 22:52:54
帽子男 @alkali_acid

黒き獣の思惑をよそに、幼げな黒の乗り手はまたしても剣術人形に得物を叩き落され、涙目で降参していた。

2020-06-25 23:02:55
帽子男 @alkali_acid

乗客が賑やかに過ごすうち、夜見路号は曙の大地の北岸に到達し、広大な砂漠を突っ切って走った。 ウィストは猫と犬と小鳥と蝙蝠と海豹を連れ、二人の貴人と一人の傀儡師とともに停留した機関車の外へ出て、屋根にのぼって満月を仰ぎ、闇の風が吹き渡るのを聞いた。

2020-06-25 23:06:15
帽子男 @alkali_acid

「ダリューテさん…元気かな…カミツキは…会いたい?」 頭巾の仔がかたわらの黒猫に尋ねると、すでに相手はうとうとしている。 「また寝てる…」 「トシヨリ!トシヨリ!」 黒歌鳥が起こさないよう小声で囀る。

2020-06-25 23:08:13
帽子男 @alkali_acid

黒犬はたてがみに月光を浴びながら伸びをする。 そばでは肥満漢が感極まったのか意味もなく片手で逆立ちをしている。眺めていた二人の美丈夫もやがてならった。 太陰の輝きを浴びつつ、細い影二つ、太い影一つが倒立したまま砂丘に伸びる。

2020-06-25 23:10:41
帽子男 @alkali_acid

左右非対称の翼を持つ黒蝙蝠が飛び立ち、天の円盤を背に踊ると、すぐ黒歌鳥が加わって互いを巡る輪舞に興じる。 黒海豹が跳躍して沙海に音もなく着地すると、ごろごろと重力に逆らって砂丘の一つを転げ上がっていく。何が楽しいのかはよく解らない。

2020-06-25 23:13:14
帽子男 @alkali_acid

「ヴナ…ヴ…ニャヘ」 「寝ながら笑ってる…」 不意に老猫が妙に人間臭い寝顔をするのに、傍らの男児はつい気をとられる。 「変なカミツキ…」

2020-06-25 23:14:40
帽子男 @alkali_acid

魔法の汽車は再び走り始める。動力はというと、海底にたまっている空気に反応しやすい物質を、目に見えないほど細かな穴の多く開いた塊に吸わせた、不思議な石炭まがいの燃料を炉にくべている。一個放り込むだけで何日も熱を発し続ける。

2020-06-25 23:18:18
帽子男 @alkali_acid

地上や海上のどんな移動手段にも勝る速さで、夜見路号は安息の国へほぼ直線の道程を辿りつつあった。

2020-06-25 23:20:32
帽子男 @alkali_acid

車内に入ったウィストは、再び歌楽に工芸に武術に航海にとあれこれ教えたがる禽獣に付き合いつつ、合間には独りになって、いったいどれだけの長さがあるのか解らない編成を散歩することもあった。 迷いそうになると、膝丈よりも小さな人形を床に置く。妖精の乙女そっくりのうわべをしたからくり。

2020-06-25 23:24:36
帽子男 @alkali_acid

ほとんどは驚天傀儡師と黒蝙蝠が設計したが、両者に技能において遠く及ばない教え子も、組み立てはできる限り手伝った。 「ヒカリノカゼ、すすめ」 人形は優雅に歩き出す。 「わ…」 見守っていた頭巾の仔は掌を合わせて仄かな笑みを浮かべる。

2020-06-25 23:26:56
帽子男 @alkali_acid

少年があとをついて歩いて行くと、見慣れない車両に入る。 「ほんとにこっち?」 たおやめのうわべをした小さな傀儡は、迷子防ぎの役目を与えてあるはずだが、どうも持ち主に似て道を見失いやすいのだろうか。

2020-06-25 23:28:46
帽子男 @alkali_acid

あたりはどこか厩舎のような風情で、干し草の匂いがする。 「ちゃんと…帰れるのかな…」 人形はくるりと振り返り、お辞儀をして止まる。 「ええ…困る」 「困る?なぜデース」

2020-06-25 23:30:11
帽子男 @alkali_acid

けだるげに誰かが尋ねた。あわててウィストが頭を上げると、翼ある馬が一頭、干し草の山に横倒しに寝そべっている。あんまり馬らしくない投げやりさだ。 「ホワーイ…おっとやっぱりどうでもいいデース」 「???」

2020-06-25 23:31:26
帽子男 @alkali_acid

「あの…」 少年はおずおずと声をかける。ほかにも乗客がいたとは気づかなかった。そういえば海底の街で見かけただろうか。猛禽の翅と奇蹄類の四肢を持ち、黒海豹と同じく人語を解する生きもの。 おそるおそる観察すると片目が義眼のようだ。 「あのう…こんにちわ」 「終わりデース」 速い。

2020-06-25 23:34:44
帽子男 @alkali_acid

会話の打ち切り方に一切無駄がない。 「ごめんなさい…」 立ち去ろうとするウィストに、翼ある馬はふとうっすら瞳に光を点して呼び止める。 「その人形…なかなかグッドデース」 「はえ…」

2020-06-25 23:36:23
帽子男 @alkali_acid

「ユーが作りましたか?」 「はえ…ちょっとだけ」 「そうですか…でも意味ないデース」 ごろり。 急に話を打ち切って馬は寝た。

2020-06-25 23:37:00
帽子男 @alkali_acid

「はぇ…失礼します…」 頭巾の仔は人形を抱き上げると、いそいそと通り抜けようとする。そばを過ぎる一瞬、暗い膚とあどけなさを残しつつもすでに幽玄の美を浮かばせつつある容貌に、雄駒のまなざしは再び煌めいた。 「待つデース」

2020-06-25 23:40:31
帽子男 @alkali_acid

「はえ?」 また振り返るウィストに、厩舎の客はだるそうに話しかけた。 「その人形はグッドですが…ボクならよりベターにできマース…いえ…ベストな人形に」 「あ、いいです…」 「了解デース。終わりデース」

2020-06-25 23:42:07
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