人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず3(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

魔参は音程を外した方の乳房を、無造作に握って罰を与えると、何度か哭かせて調節し、上手に囀った方の髪を細い根で優しくくしけずってやる。すんすんと人なつっこい子犬のような鼻の鳴る音が漏れる。 「や…やめ…」 ウィストはつい頭を抱えてうなだれる。

2020-08-05 22:28:40
帽子男 @alkali_acid

「わた」 「しのっ」 「すぎぃっ」 「なぁっ」 「よ…う」 「にき…」 「するぅっ」 魔参は巧みに玉座に組み込んだ人間を演奏しながら応じた。

2020-08-05 22:29:13
帽子男 @alkali_acid

半裸の少年は震えながら、霧吹きの中身を宙に撒いた。 ”匂いで…話せます” ”ならばそうするがいい” 魔参は玩弄を止めなかったが、二人の女の口には再び根が潜り込み、喜悦と悲哀の咽びを封じた。

2020-08-05 22:31:39
帽子男 @alkali_acid

ウィストはわななきつつ、こわばった指でまた霧吹きの中身を撒く。 ”魔参よ…どうか…人間を…解き放って下さい…” ”解き放たない”

2020-08-05 22:34:20
帽子男 @alkali_acid

魔参はにべもなかった。 "人間のやり方、畑は私に力を与えた。もっと多くの人間を畑に植え、もっと多くの実りをもたらす" "あの…人間…ぬきで…" "人間からは良い人参が育つ。そなたはどうだ"

2020-08-05 22:36:55
帽子男 @alkali_acid

"あ、遠慮します" "財団の、学者、が教えた。参界の外には、遺物、があると。そなたは遺物。人間より多くの実りをもたらす" ”えっと” 天馬がぱっと飛び出して魔参の前に立ちふさがる。小さな体だが、闘志は十分だ。

2020-08-05 22:39:34
帽子男 @alkali_acid

ウィストはちっぽけな相棒が無茶をしないよう祈りつつ、急いで霧吹きを動かす。 "に、人間ぬきで人参をいっぱい育てる方法を教えます。農芸と言います。詳しい人、知ってます" "そなたを苗床にしてから知識を得てもよい"

2020-08-05 22:41:55
帽子男 @alkali_acid

"ほ、ほかの人です。人…というか竜…とか犬とか…ここにはいません。呼んでこれます。事情を話せば" "そなたの仲間はどこにいる。何株いる" "えっと参界の外にいます。七匹です。あと…ちょっと…" "七株の仲間はいずれも、そなたと同じ遺物か" "はぇ…はぇ…"

2020-08-05 22:44:56
帽子男 @alkali_acid

魔参はゆっくりと玉座から根を引き抜き、前へ進み出た。 "苗床には、しないでもよい。もう少し仲間の遺物について話せ" "はぇ…は…" 霧吹き空になった。少年が焦って中のようすを改めたり、振ったりしていると、根菜の首魁はねをうぞめかせ、とうとう何かを得心したようだった。

2020-08-05 22:47:26
帽子男 @alkali_acid

"神参ほどではない。せいぜい天参" 「はぇ?あの…ちょっと待って…」 だが魔参は待たなかった。一瞬にして根を疾らせて間合いを詰め、無数の腕で獲物を捉えようとした。だがそのこととごとくを妖精の乙女の人形が拳と蹴で押し戻す。

2020-08-05 22:49:37
帽子男 @alkali_acid

魔参は、奇妙な護衛に手を焼きつつ、なおも対話を続けようとする標的に根を向け、強い匂いを発した。 「ぅっ…」 ウィストは頭をふらつかせて膝をつく。 "人間だな。別の品種ではない"

2020-08-05 22:51:43
帽子男 @alkali_acid

魔参は特別に調合した芳香で少年の意識を朦朧とさせ、ついに、からくりの娘の守りの隙を突いて根の檻にからめとると、続けざまに本命の獲物を捕えた。

2020-08-05 22:53:18
帽子男 @alkali_acid

"だが私の苗床にふさわしい…あるいは仙参の兎よりも" 無数の髭根が暗い膚に食い込み、血を味見すると、さらに深くを抉ろうと全身をまさぐり、やがて耳と鼻と口の穴から侵入を開始する。

2020-08-05 22:55:17
帽子男 @alkali_acid

さらに下からもほっそりした脚を這いのぼって、臍や不浄の穴や幼茎に根は迫った。 "そなたに根を張り、私は神参を超える" 「ぅご…ぶ…ぅ…んっぅ」

2020-08-05 22:56:54
帽子男 @alkali_acid

暴れ狂う妖精の乙女の人形をよそに、とうとう闇の仔が完全に根に貫かれるかに思えた刹那、虹色の光が華奢な肢体からあふれた。 たちまち虜囚の輪郭はより丸みを帯び、あどけなさの残る面差しにはより可憐、いや妖艶な色さえ浮かぶ。

2020-08-05 22:59:59
帽子男 @alkali_acid

真珠のような歯列が勢いよく閉じ、口腔に入り込んだ根を齧り取ると、そのまま咀嚼し、嚥下する。生の人参の味にも応えたようすはない。 「…くく…ぐぐ…ぐぐぐぐぐ…ぐぐぐぐ!!!」 少年から少女へと変じた黒の乗り手は、沼地の水の泡立つような笑いをこぼした。

2020-08-05 23:01:47
帽子男 @alkali_acid

双眸には最前とは打って変わった悪意の光がある。 「人参が獣鬼(オーク)のまねごととは…ぐぐぐ…実に愉快…ぐぐぐ…」 ”遺物の力か。すべて吸い尽くそう” 「吸い尽くす?ぐぐぐぐ…ぐぐぐぐ!!!」

2020-08-05 23:04:03
帽子男 @alkali_acid

少女は根を掴むと、またひと齧りした。 「人参…お前の野望も…お前の種族も…ぐぐぐ…わしがもらうてやろう…かけらも残さずな」 ”神参に勝る力を…私に” 魔参はおおいかぶさるように、ウィストだったものに挑みかかり、相手は抗うそぶりもなく受け入れた。

2020-08-05 23:06:22
帽子男 @alkali_acid

一人と一株の影は溶け、一つに合わさる。 「おお…これが…ぐぐぐ…これが…魔参の…黒の乗り手の力…」 後には裸身に、根を絡みかせ、食い込ませた少女が立っていた。 「くくく…ふふふ…ははは!!神参!今こそ!!人参族の頂点の座をかけて挑まん!!」

2020-08-05 23:09:22
帽子男 @alkali_acid

人参娘が腕を一振りすると、暗黒の人参塔は鳴動し、変形を始める。 二人の女を組み込んだ玉座も、からくりの天馬を封じ込めた檻も、塔の頂からはがれ落ち、ほかの無数の根とともに一つの塊に丸まってはるか下方へと滑り落ち、地中深くに潜り込んでいく。

2020-08-05 23:11:39
帽子男 @alkali_acid

身軽になった暗黒の人参塔は、おお見よ、根を大地から引き抜き、三本あるいは四本の足を動かして歩き始めたのだ。 四階建ての建物よりも背の高い大根すら、ついに進軍を開始した巨参の中の巨参たる人参塔からすれば、ちっぽけな露払いにすぎない。

2020-08-05 23:14:12
帽子男 @alkali_acid

「神参を苗床とし!私は参界の真の王となる!しかしてのちは、人界に攻め込み!!東も!西も!北も!南も!いや世界の壁の向こう、虚無の暗黒のかなたまで!人参畑とするのだ!!」

2020-08-05 23:16:06
帽子男 @alkali_acid

暗黒の人参塔は、参界の中央にそびえる生きた山、山参(さんじん)をめがけてまっしぐらに吶喊していた。 今まで沈黙を守ってきた山参も、ついに大地の一部となったとほうもない図体をおののかせると、頂近くから光輪を背負った無数の根菜を飛び立たせた。

2020-08-05 23:18:58
帽子男 @alkali_acid

天参。 偉大なる神参に側仕える高貴なる不死の人参である。 天参の群は空中でそれぞれ隊伍を組んで、近づく暗黒の人参塔を迎え撃つ陣形を整えようとしていた。

2020-08-05 23:20:39
帽子男 @alkali_acid

一方で、丘と陵(みささぎ)の彼方からは、いかなる大根よりもさらに純白の皮をした人参が一本、同じく白い馬参に乗って駆けてくるところだ。 たなびく髭はもはや灰ではなく白だが、賢明なる読者諸氏には正体に察しはついただろう。 そう。兎に齧られたはずの古人参。仙参である。

2020-08-05 23:23:11
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