人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず3(#えるどれ)
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大根のてっぺんから生えた青菜、いわゆる蘿蔔(すずしろ)から、翼を持ち空飛ぶ人参、翼参があまた舞い上がる。それぞれが獰猛そうな人参を抱えている。 「いかん!あれは暗黒の人参塔の…鬼参に狼参!魔参の精鋭だ!」
2020-08-05 21:32:37「毛皮をよこせ!!」 赤髪の乙女がもう一度、今度はせっぱつまったようすで要求する。 着ぐるみの少年はなおも逡巡し、ややあって糸目の少年に持っていた裘を押しつけた。 「ウンナさんに渡さないで…あと…ダングさんも使っちゃだめです」 「ウィスト…どういう…」
2020-08-05 21:34:55着ぐるみの少年は合切袋を落とすと、ぶるぶると震えてから、くるりと踵を返して、大根の方へ駆けていく。 たちまち狼参や鬼参、翼参がいっせいに襲い掛かる。
2020-08-05 21:36:38だがからくり仕掛けの小さな天馬が割って入り、乙女の姿の人形に変じると、すらりとした脚で鋭い蹴りを打ち込んで牽制する。 「待ってヒカリノカゼ…あの…えっと」 ウィストは獣除けの薬が入った霧吹きを握りしめ、瞼を閉ざすと、つっかえつっかえ上妖精語で何かを呟く。
2020-08-05 21:38:50虹色の輝きが掌から玻璃の容器に吸い込まれると、着ぐるみの少年は周囲に軽く一吹きする。 異形の人参の群は動きを止め、それぞれが土臭い匂いを発し始めた。 「…うう…ま、魔参のもとへ…連れて…いって…ください…っと…あ…やっぱりやめます…」
2020-08-05 21:40:36最後の最後で腰が引けたウィストにしかし、翼参の一本は急降下してひっさらうと、大根の葉の上に運び上げた。 巨大な白い根菜はゆっくりと向きを変えて、退却を始める。ほかの根菜も同様だった。
2020-08-05 21:42:36「うぃ…ウィスト…!?」 あっけにとられるダングに、ウンナが駆けよって叱咤する。 「はやく毛皮を!ダング様の恋人がさらわれる!」 「?拙の許婚はウンナ一人」 「もういい。来てくれただけで!だから」 「ウィストは拙の救い主にして天女なれど、我が伴侶はウンナなり」 「…っ」
2020-08-05 21:45:16告げてから急に頬を赤らめる少年に、乙女もまた目を伏せる。 「…ほんとうに…」 「ウンナに偽りを申したこと一度としてなし」 「…ダング様…俺…わたし…」 「そばにおれなかったこと、重ね重ね相すまぬなり…」
2020-08-05 21:46:47許婚同士がようやく素直になれたところで、少し離れた場所で胡桃の樹にしがみついた兎男が、遠ざかっていく巨大根の背をぼんやり眺め、状況を掴み切れぬようすでままやく。 「あ…あれ?え?いや…これは…どう…どういう?」
2020-08-05 21:48:27とりあえず大根の脅威は去った。 しかしウィストは、黒の乗り手は、暗黒の人参塔で恐るべき魔参と一人相まみえることになったのである。
2020-08-05 21:50:12◆◆◆◆ 「…帰りたい」 着ぐるみの少年はそう独り言ちると、家ほどもある蘿蔔(すずしろ)の葉の間にうずくまり、荒ぶる天馬のからくりを懸命になだめた。 周囲では鬼参や狼参が、髭根をうねらせ、油断なく捕虜を見張っているようだ。
2020-08-05 21:53:43大根は意外な俊足で野山を渡り、めったに疲れを見せず、たまに地面を割って根を差し込み、しばらく土に埋もれて滋味を吸えばまたもとに戻った。 少年はすばやく降りて、用足しやら飲み水探しなどをした。常に何本かの人参が監視して落ち着かないが、向こうがあまり近づけば天馬が警戒の羽搏きをする。
2020-08-05 21:56:43四日四晩。大根は進み続けただろうか。 とうとう大地から半ば抜けた人参らしきかたちをした黒ずんだ塔が前方に見えて来た。 暗黒の人参塔。石化した巨参(きょじん)の骸を素材に作り上げたという魔参の居城。
2020-08-05 21:58:21「…帰りたい」 正直ウィストは何でこんなことをしたのだろうと後悔しかなかった。 「…カミツキ…だめ…だめ…」 脳裏に七匹の黒き獣が次々に浮かぶが、助けを求めたくなる気持ちを抑える。なじみの猫、犬、小鳥、蝙蝠、海豹、長虫、蜘蛛。どれか一匹でも空の上から降ろせば、
2020-08-05 22:00:18参界は甚大な被害を受けるだろう。 人参も大根も残るかどうか。 「だめ…カミツキ達はだめ…ダリューテさん…」 かつては白き災と密かに考えていた、妖精の騎士の麗しいかんばせを脳裏に浮かべる。 「だめ…」
2020-08-05 22:02:10妖精の騎士はもっとまずい。 恐らく参界は灰燼に帰し、隣り合う人界にも災いが及ぶに違いなかった。 「もっと…平和な…」 穏便に助けてくれそうな人物を懸命に思い出そうとする。 「うう…」 いなかった。
2020-08-05 22:03:41ウィストと絆を結んでいる黒き獣も白き災も、まるで世の始まりの時代から抜け出してきたように、容赦のない力をふるう。 呼び寄せれば必ず取り返しのつかないことが起きる。 「やらないと…ひとりで…やらないとだめ…」
2020-08-05 22:07:57暗黒の人参塔の前で大根は膝、というか根をついた。 少年は白い根菜を降りると、鬼参に左右を固められたまま塔に入り、芋虫が食ったような丸い通路をたどって、傾斜を登っていく。 通路は螺旋を描いているようで、角度は急になっており、どこまでも上へ上へと続いている。
2020-08-05 22:11:35頂上につくころにはへとへとになっていた。 それでもやっと先へ行こうとすると、急に監視役が腕のような根を伸ばして遮る。 「はぇ…」 土臭い匂いが意志を伝えてくる。 ”おぞましき獣をかたどった皮を剥げ”
2020-08-05 22:13:20鬼参はつとめて気にしないかのようにふるまってはいたが、やはり兎の着ぐるみを相当おぞましく感じていたようだった。 「はぇ…ぇ…」 ウィストは仕方なく肌着姿になると、まとっていた紛いものの毛皮を丁寧に畳んだ。薄ら寒い。
2020-08-05 22:15:23「あの…やっぱり…ひ、日をあらためて」 この期に及んで一応申し出てみるが、しかし兎の格好をやめた男児に、急に人参族は横柄になり、根で突き飛ばすようにして通路から追い出した。
2020-08-05 22:16:40青天井の広間に、玉座がぽつんと一つ置いてある。 漆黒の人参、魔参はそこに腰かけていた。というか根を張っていた。 少年はぎくりとして視線を落とし、また上げる。主と同じく絡み合う根でできた奇妙な椅子には、二人の女が組み込まれている。
2020-08-05 22:18:23黄の肌をした裸身はみずみずしく、どこかよく熟れた果実を思わせる。たわわな乳房を蓄えた胸がかすかに動いており、生きているようだ。 ウィストは歯の根が合わなくなりながら、後退ろうとしたが、踏みとどまり、へたりこみそうになるのをこらえて一歩前へ出る。
2020-08-05 22:20:13「あの…はじ、めまして…うぃ、ウィストと言います…」 挨拶してから通じないかと思い、あわてて霧吹きを取り出す。 だが魔参は反応し、玉座そのものをきしませて応じた。 左右に侍らされた二人の女の口から根が抜け落ち、甘く爛れた吐息とともに嬌声があふれる。
2020-08-05 22:22:42みずみずしい肢体の腰から下で何かがうごめき、湿った穴という穴をいっぱいに押し広げながら攪拌して、濡れた音をさせる。 「ひぁ…よぉっ」 「こっ…」 「そっ…」
2020-08-05 22:25:18