女神の庭の殺人ゲーム3（#えるどれ）

帽子男 @alkali_acid

”そいつぁ参った” 「どっちとも言えないこともしたって。とにかく一杯、色んなことをしたって。でもみんな一生懸命だったって」 ”へえ…妖精の旦那さん方がそんなことをねえ” 「黒の渡り手は悪いことがちょっと多かったって」 ”ちょっとですかい？” 「うん。でも一番長く書いてあった」

帽子男 @alkali_acid

「んなー！その話またにせん？」 黒海豹がごろごろと転がるのを、黒蜘蛛が糸でからめとっておとなしくさせる。 ”もぞもぞして目ざわりなのじゃ” 「堪忍やー」

帽子男 @alkali_acid

「光の風は…ダリューテさんのことでしょ」 ”お察しの通りでさ” 「それで…九代目は…ウィスト」 少年はゆっくりと溜息を吐き、一瞬指で膝を握りしめたが、すぐ肩の力を抜いた。 「うん…うん…そう…うん」

帽子男 @alkali_acid

ヤミノカゼは嘶いて続ける。 ”さてこっから本題だ。ダリューテの姐さんが呪いを断ち切って指輪の力は消えた。手前ども指輪の幽鬼も綺麗さっぱりいなくなるはずだったが、どうもそうなっちゃいねえ” ウィストは睫を伏せる。 「…九代目が…まだ、生きてるから」

帽子男 @alkali_acid

”指輪がまだ形をとどめてるせいかもしれねえんでさ。あれを完全に片付けるにゃ、作られた滅びの亀裂に放り込まなきゃいけなかったが。三代目と四代目の時に色々あって亀裂がゆっくり冷えて閉じてく術を使っちまったもんで、そうもいかなくなったんで” 「うん…」

帽子男 @alkali_acid

”影の国へ至るには当代の黒の乗り手のあんたさんが、指輪を取り戻し、そこに力を注いで、再び蘇らせる必要がある” 「呪いは…？」 ”呪いも蘇るかもしれねえんでさ。全部じゃねえでしょうが。何せもうダリューテの姐さんは囚われの身じゃねえし” 「…そっか…」

帽子男 @alkali_acid

頭巾の仔はまた手で布地を抑えて考え込んだ。 「もし…呪いが…蘇っても…ダリューテさんは…負けないよね」 ”難しいとこで。強さじゃいつだってあのお人はぴかいちだが、情に流されやすいとこがありまさ” 「じゃあ…指輪は…蘇らせない方がいいのかな…」

帽子男 @alkali_acid

黒馬は返事をしなかった。 またぬいぐるみになっていたからだ。 ぽかんとする少年に、黒海豹は髭を震わせ、鼻をうごめかせてから、口を挟む。 「んー。ほかの兄弟が言わんからワテ言うわ。隠し事てあんまええ感じせんし。あんな、指輪を蘇らせんかったら、ヤミノカゼは真っ先に消える思うで」

帽子男 @alkali_acid

「ぇっ…」 「黒の指輪。おおもとの呪いの指輪は、ヤミノカゼん中に封じられとる。ほんで腹空かせて、ウィストの魔法どんどん食っとる。せやから幾らカミツキがちょこっとずつ力を分け与えても、またぬいぐるみになってまう」 「だって…じゃあすぐ直に魔法をかけて…」

帽子男 @alkali_acid

「それがつまり、指輪を蘇らすことになる。闇の女王（めのきみ）が指輪の主だったように、今度は闇の男王（おのきみ）が指輪の主になってな」 「っ…」 「ほんでな。アンググ…ダリューテはんを縛る鎖の役割を果たしととった白の指輪。金剛石のはまった、対になる呪いの指輪は、多分…」

帽子男 @alkali_acid

盲目の海獣は鰭でびしりと頭巾の仔の胸のあたりを指示した。 「ウィストの中に封じられとる。ヤミノカゼも無茶しよるわ。せやけど呪いの復活を阻止する確実な手段が、八代目と九代目、いっちゃん強い黒の乗り手二人の体を張った封印やったんとちゃうか」

帽子男 @alkali_acid

黒き仔と黒き獣は静寂のうちに、古い魔法が再び目覚めようとしているのをそろって感じ取った。 一族がからめとられ、断ち切るのにあれほどの時と犠牲を要した、禍々しい呪いが。

帽子男 @alkali_acid

さて「ウィストの狭の大地あっちこっち」シリーズ、 次回は「夜見の国に築かれた最初の"安置所"。決して開かぬ冥皇の宝蔵にこそ、究極の"遺物"が眠るんだ。ガミエル。やっと君に約束したものをあげられるよ。時の支配者。唯一にして大いなるものさえ霞ませる、最強の精霊を」

帽子男 @alkali_acid

乞うご期待。