「社会学者が『銀英伝』を書き換えろと言っている」というデマに踊らされ総攻撃にかかる『銀英伝』ファンたち。

　「暴走」しているのはどっちなのやら。おそらく、この件に反発した『銀英伝』ファンの多くはこの件を「社会学者」が「ジェンダー問題」で「既存の名作を書き換えろと言った」と判断し、そこから過去の出来事を連想して激情に駆られたのだろう。

　しかし、くり返すが、だれも「作り直せ」とか「書き換えろ」とは言っていないのである。今後作られる（かもしれない）新作で、原作におけるその場面を原作及び旧アニメとはべつの描写にしたらどうか、時流からしてそうせざるを得ないのではないか、と言っているに過ぎない。

　この「せざるを得ない」という表現に問題はあるにせよ、冷静になって考えてみればこれがこんなに炎上するほど過激な意見だろうか。だれにも強制していないという一点で、過去に起きた類似の事件とは決定的に違うという一点を念頭に置いてほしい。

　また、個人的には「未来の話だから」、「架空の話だから」どんな描写だろうと良いのだ、という意見にも賛成しない。

　設定上、何千年未来の話だろうが、それを見るのは現代のぼくたちだ。やはり現代のぼくたちに共感できる描写であったほうがいらぬ批判も受けず、人気も出るだろう。

　ただ、重要なのは、それを「ポリコレ」としてだれかに強いられるいわれはないということである。そして、今回はだれも強いていない。

　ぼく自身のものを含め、元ツイートに対する異論はいくらでもあるにせよ、それらはべつに絶対的正解ではない。ただ冷静に礼儀正しく議論すれば良いだけのことだ。

　だから、デマに踊らされて感情的になる前に、少しだけ冷静になって、べつの角度から自分の意見を見てみてほしい。それは、本当に客観的な事実を元にした考えだろうか？

　社会には色々な意見があるのであり、それが自分の意見と違っていても尊重する態度がないのであれば、だれかに自分の意見や表現を尊重してほしいと望むこともできないのでは？

　ぼくたちが生きているのは、自由で多様な言論が存在する民主主義社会なのだから。

「半数が味方になってくれたら大したものさ」

「私はあなたの主張に対してアンチテーゼを提出しているにすぎません。一つの正義に対して、逆の方向に等量等質の正義が必ず存在するのではないかと私は思っていますので」

（ヤン・ウェンリー）