久しぶりの快晴だった 続いた長雨と在宅勤務のせいで鬱々と気分が落ち込んでいた時の雲ひとつない快晴 気分転換に散歩に出掛けた 買い物帰りの老夫婦と挨拶をした 不意に、外出自粛でしばらく会えなかった君に会いたくなった そうだ、今年は海に誘おう、花火も行こう こんなにも楽しみな夏は久しぶりだ
2020-06-17 18:03:31とある国の結婚式を取材した この国では必ず人前で仮面をつけるという慣習があり、恋人の顔を見るのは結婚式が初めてなのだ カメラは持ち込み出来ないので、私の記憶だけが頼りである 愛を誓い合い、仮面を外した2人の照れたような初々しさは、この国のカップルの特別特典なのかもしれない #140SS
2020-06-16 18:01:56私が仕える姫は大変綺麗な方でございます 容姿も家柄も良い姫の元には沢山の文が毎日来ますが、必ず1通しかお読みになりません それも明日には終わりです なぜって入内されるのですから 今日は朔の日、なのに姫の部屋は灯がありません 障子を開けますと、1枚の着物が残されているだけなのでした #140SS
2020-06-15 18:18:09誕生日プレゼント何がいい? 深夜の電話で彼氏に聞かれた うーん、あ、口紅欲しいな さも今思いついたような調子で返事をする 口紅かあ…そんな高いもんだっけ? 値段じゃなくてね、それをプレゼントしてもらうことに意味があるの 送ったURLのタイトルは、花嫁リップ 気づいてくれるかな? #140SS
2020-06-14 18:03:14最近君の幻覚を見る 街中やカフェ、会社など色々なところで、君に似た女性を目で追うようになった 長い黒髪なんてありがちな髪型なので、原因は恐らく匂いだ 恥を忍んで同僚に問うと、流行っているという香水を見せてくれた 石鹸の香り、という文字で謎が解けた 一緒に暮らしていた頃の君の匂いだった
2020-06-13 18:03:49ある囚人の懺悔を聞いた 彼は人狼殺しを生業としており、この町で人狼の一家を殺したと 人ならざるものの彼らは町で評判の家族で愛されていた、対して人間の自分は町中に嫌悪され殺されると 逃げた子供が将来殺しに来るのが怖い、だから明日死ねることが嬉しいと 囚人の瞳には安堵の色が浮かんでいた
2020-06-12 18:14:33近所に五感で味わう絵本屋が出来たので行ってみた 絵本はカウンターに並び、壁際の本棚には更に沢山のものが詰まっていた 花の妖精が放つ香りや嵐の日の潮騒や竜から放たれる炎の熱さなどを一通り堪能して、1冊だけを買い店を出た 後日もう1冊買おうと向かうと、そこはもうコンビニになっていた #140SS
2020-06-11 18:19:30快晴の真夏日、ビルの日陰で不思議な猫に出会った 語りかけるような目でこちらを見つめるそれは、黒いような青いような不思議な宝石の首輪をしていた 「君、私を助けてくれるかい」 猫が人間の言葉を話す事への驚きよりも私の心身を捉えて離さないのはその宝石だった それは宇宙の始まりだった #140SS
2020-06-10 18:33:20この島には長い橋があった どれくらい長いかというと、橋の先が水平線に消えてしまうくらい おばあちゃんが子供の頃にはもうあったのに、橋を渡った先がどこへ繋がるのかは誰も知らなかった だから、決めたんだ、夏休みの自由研究 謎を解くにはぴったりの快晴の日、私は橋を駆け出した #140字小説
2020-06-09 18:13:03妻が病に冒された 体内で宝石が生成される奇病だ 宝石が身体の中で大きくなると、嘔吐感を感じて吐き出さねばならない 砂金程度の大きさとはいえ、鉱物であるそれらは妻の体内をぞんざいに傷付ける 嘔吐を繰り返す妻の背をさすりながら血に濡れた地球で最も硬い鉱物の粒を心の底から憎んだ #140字小説
2020-06-08 18:14:29布団に入って1時間、眠れない日もある そういう日は、間接照明だけ点けて好きなことをやると決めている 温かいミルクを飲みながら読書したり音楽を聴いたり、動画を見たりボーッとしたり 満たされた心持ちになってきたら ほら 眠くなってきたんじゃないかな? 明日もきっと頑張れるね おやすみ #140SS
2020-06-07 18:17:57今日は楽器の日なんだって 隣に座る彼女が言う へえ、なんで? 6歳の6/6に芸事を始めると上達するって言い伝えがあるらしいよ え、じゃあ日本限定じゃん でもさ、遠い異国の土地で数ヶ月ぶりの演奏を、今日聴けるなんてロマンチックに感じない? 確かにね 会場が暗くなり、コンサートが始まる
2020-06-06 20:02:18同窓会で昔の彼女と隣になった 当時とは見違えるほど、可愛く魅力的になっていた 「久しぶり、元気だった?」 彼女の楽しそうな笑い声と相槌に僕もつられて、ビールが進む 「昔と雰囲気違うけど、メイクが違うからかな?」 「ありがとう、今の彼氏がね、たくさん褒めてくれるの、可愛いって魔法よね」
2020-06-06 18:14:39幼くして逝ってしまった我が子の、月命日の墓参り 先月までは2人で、今月からは1人で どこからか童謡のシャボン玉が聞こえる あの子と彼がよく歌っていたっけ お墓は綺麗に掃除されて、シャボン液と吹き棒が供えてあって 泣きたくなった私はたまらずシャボン玉を吹いた シャボン玉は空高く登っていった
2020-06-05 18:21:36眼鏡姿の君に恋してた 幼馴染の私しか知らない姿だったから 似合うよって何度言っても頑なに学校ではコンタクトなのに、ある朝から眼鏡になった 揶揄うつもりで訳を聞くと「彼女がお揃いにしたいっていうから…」 耳まで真っ赤にした彼の目線の先には、黒縁眼鏡が似合う女の子がこちらに手を振っていた
2020-06-04 18:17:41その国では毎晩のように花火が上がる 自国ではたまに見る程度なので、羨ましい限りだ チェックインの間、店主に尋ねる 「毎日こんなに沢山の花火が見れるなんて幸せですね」 「この国ではその日に亡くなった方を天に送る為に花火を打ち上げる慣習があるんですよ」 花火の音は深夜まで鳴り続けていた
2020-06-03 18:07:55彼と私は所謂歳の差夫婦だ だから2人の誕生日の間の1ヶ月が大切だったりする 「歳の差なんて今更気にしても仕方ないのに」 「お黙り、歳の差は狭いに越したことはないのです」 私の悩みなんてどこ吹く風の彼に意地悪を言ってやろう 「3年間担任してた生徒とキスをする免罪符が少しでもほしいのですよ」
2020-06-02 18:21:12喧嘩をした日の夜はどうにも眠れない、後悔と不安が醒めた頭に浮いては消えを繰り返してる 白んできた空が見えた日なんかはこの世の終わりを願いたくなる なんて謝れば許してくれるかな、次会う時どんな顔すればいいんだろう メッセージの送信ボタンは押せないまま、貴方のトーク画面を開きっぱなし
2020-06-01 18:07:50「遠距離恋愛なんて無理だと思ってたの、毎日話せないなんて恋人の意味ないでしょう?」 画面の先で笑う彼女に僕は苦笑いだ。 遠距離恋愛歴半年の僕らの関係がすこぶる順調なのは、快適な映像通信システムの賜物である。 「銀河3つ分離れていても隣にいるみたいに話せるなんて、科学の発展に感謝ね」
2020-05-31 18:48:59「星座は毎日引かなきゃいけないんだ。だって、朝には太陽の光が消しゴムみたいに全部消しちゃうんだから」兎耳の上司が困り顔で僕に説明する。 なんともロマンチックな話だが、その実業務は過酷だ。何せ、毎日広大な夜空に星座を描かなければいけないんだから。 「星図士」今日からの僕の職業である。
2020-05-30 18:47:41ずっと神様に囚われているあの子を、俺なら助け出せると思った。 念入りに準備を重ねた、あの子を神様の手の届かない、海の向こうへ連れ出す計画。 全て首尾よく進んでいたのに、どうして船を目の前にして、君は俺の手を離してしまったのか。 乾いた目で船を見送る君の気持ちが俺には分からないまま
2020-05-29 23:38:55