- kankancank28207
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怪談の現代風
「あの猫のせいで娘は結婚できない」 大坂のとある商家のあるじは、飼っている雄猫の処遇に悩んでいた。年頃の娘は評判の器量良し、婿入りした者はいずれ店を継げるとあって、本来なら縁談に困るはずなどない。 それが叶わないのは、長年家にいるブチの雄猫が娘のそばを片時も離れないせいだ。
2020-09-16 08:32:30娘が生まれる前からいた猫は、娘がどこに行こうと犬のように傍らにぴったりくっついている。そのさまは我が子を守る親か妻を守る夫かのようだ。 「あの家の娘は猫に魅入られいる。あの家は猫憑きだ」 かような噂が流れ、婿に入ってもよいという者は現れなかった。 「猫をこのままにしておけない」
2020-09-16 08:36:32一族協議の末、猫を処分してしまうことになった。 ところがそれを察したか猫は行方をくらましてしまう。 その夜、あるじがふと目を覚ますと、枕元に猫がうずくまって底光りする目でかれを見ている。 あろうことか猫は口をきいて、 「われが娘のそばを離れなかったのは理由がある」
2020-09-16 08:39:51「娘は生まれたときよりこの家の、歳古りた鼠の化生(ばけもの)に狙われている。愛着があるこの家なれば、娘を害させるに忍びず、夜昼となく守る役をつとめてきた」と。 あるじはおおいに驚き、「その鼠をなぜ獲らぬのか」と猫に問いただす。猫答えていわく、「向こうのほうが強い」と。
2020-09-16 08:46:18「われは齢四十年。鼠の化生は百年である。猫と鼠とはいえ、一匹にては討ち取ること能わず。 大坂は島之内、河内屋市兵衛のもとに虎猫がいる。その虎猫も通力を持つ者なれば、河内屋にいって虎猫を借りてきてほしい。合力すれば鼠を倒せよう」と。 あるじがはっと目を覚ますと猫の姿はすでにない。
2020-09-16 08:50:53半信半疑ながらあるじは島之内に足を運んだ。河内屋の門内をのぞくと本当に縁側に虎猫がいる。 河内屋に事情を話し、物は試しに猫を借りてよいか、とあるじは頼んだ。 河内屋はおおいに奇妙がりながらも、身元確かなあきんどのことなればと了承した。 あるじが帰るとすでに店に虎猫がいる。
2020-09-16 08:54:29明日人づてに猫を届けてもらうはずだったが、そばで聞いていた虎猫が先回りしていたのである。たしかに尋常な猫とは思われない。 おまけに姿を消していた店のブチ猫が現れ、虎猫と話し込むように顔を寄せ合って鳴いている。 その夜、ふたたびブチ猫があるじの枕元に現れた。
2020-09-16 08:57:26「われと虎猫を二階に上げ、鼠の怪を討たせよ」と。 猫たちが二階に上げられて二日後の夜、突如として恐ろしい叫喚がひびきわたり、家屋がきしむ。明らかに獣同士の争う音。震えながらあるじと妻、娘は騒ぎが収まるのを待った。 やがて音は絶え、あるじはおそるおそる二階に上がった。
2020-09-16 09:02:34猫の倍はある巨大な鼠がそこには死んでいた。 鼠の喉笛にブチ猫が食らいつき、毛皮を血に染めてこれまた息絶えていた。 虎猫は瀕死であったがこちらは生きており、手当てして回復を待ち、河内屋へ厚い礼とともに送り返した。
2020-09-16 09:05:56あるじは娘を守ったブチ猫のために人と変わらぬ墓を立て、手厚く葬り、子々孫々恩を忘れず供養していくようはからったという。 江戸時代の怪談書『耳袋』収録の話。
2020-09-16 09:08:03化け猫や化け狐のこういうお話いいよね。 拙作宣伝、こっちは狐の異類婚姻譚。 ncode.syosetu.com/n7565bp/
2020-09-16 12:46:07面白い!
@cmaoyan もしかすると、虎猫はまだ若いから、ぶち猫がトドメをかって出たのかな···、とも思いましたにゃ(ねこ一期、涙を拭いながら)それに娘御を守るのは、ぶち猫の想いだから···ううっ、なんて!にゃっこいい!(ねこ一期泣き崩れる)
2020-09-17 03:54:41@yui1maria3313 省きましたが実はあるじが見つけたとき虎猫は鼠の腰にしがみついて牙をたててるんですよね。喉笛に食らいついてるブチ猫は鼠の牙に頭部をやられて死んでるので、より危険かつ確実に刺し違える部位への攻撃をブチ猫が担当したのはありそうです
2020-09-17 06:43:03@cmaoyan ブチ猫氏は哀れにも闘いで落命…🥺 大阪にもう一匹くらい神通力をもった猫氏がいたなら…あるいはみな助かったかもしれませんね😢
2020-09-16 15:23:16@Exodus_Solidus 相討ちになったからこそ壮烈で美しい話となっている面もありますが、死んで欲しくなかった人も多そうですね·····
2020-09-16 15:30:18@cmaoyan うちの街にも、難破船から海岸に流れ着いた猫を助けた住職が、旅の僧に化けた化け鼠に狙われているのを、その猫と隣の猫によって退治されるって話が残っていますね。猫、鼠ともに塚があって祀られています。
2020-09-16 17:44:30@yatsude_katsu 茨城の十三塚の話とはまた別なのかな。各地に似ていてちょっとずつ違う伝承があるのは面白いですね。
2020-09-16 17:49:13