柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 『内臓館とマダム・ストラテジーヴァリウスに関する報告書/第二話 百手のマサとウォーモンガーたみ子、内臓館を訪れる 』

これはアロハ天狗によるSFパルプアクション剣豪エンタメ・マーダーパンク小説「柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」のtwitter再放送ログです
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柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

ソーダを啜りながら、気まずそうにマサが答える。「貴方の出禁扱いは解いていませんが…こうして通された理由はおわかりで?」「十兵衛」手持ち無沙汰のたみ子が口を挟む。 18

2020-11-12 19:33:21
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「あなたには聞いていませんが、そういうことです。あれの刀を止めた、それも二度とあれば、出禁入店の特例も認めましょう」「それはどーも…出禁は出禁なんスね」「それで、本日はどんなご用事で?あなたのご依頼なら多少の無理はお聞きしましょう」 19

2020-11-12 19:38:19
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「わざわざ聞かなくても、アンタなら客が何を言うかは全部読めてるんでしょ」たみ子が更に口を挟む。この館に入ってから、彼女はあからさまに不機嫌になっていた。「そうだとしても、お客様との会話は楽しむことにしていますの」 20

2020-11-12 19:43:21
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

クリームソーダを飲み終わった。グラスの下に溜まっている赤黒い塊は見なかったことにして、マサは答えた。「剣が要り用でして、十兵衛を斬れる剣が」「それは”多少ではない無理”に当てはまりますわね。うちで一般に取り扱っている武器は神殺しまでですの」「無いんスか」 21

2020-11-12 19:48:19
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

マサの落胆を見て、マダムの顔に少しの苛立ちが浮かぶ。「無いとは言っておりませんわ、お譲りする方を選ぶというだけ」「アーシこいつ嫌い」たみ子はもうテーブルに頬杖をつき、脚をブラブラさせてふてくされている。「イチイチ勿体ぶりやがって、クソウゼえ…」 22

2020-11-12 19:53:21
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

壁の柱を指でつついて、指がズブズブと沈み込んでいくのに肩をビクッとさせる。この館は木も石も全てが”肉”の擬態に過ぎない。マダムはたみ子を一にらみだけして、マサに話を戻す。 23

2020-11-12 19:58:20
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「一振りだけございます、柳生十兵衛をも斬る可能性のある忌み刀、八丁念仏。持ち帰りたいというなら、それにふさわしい剣士かを証明していただきましょう」「町田で僕以上の剣士は早々いないと思いますけど」 24

2020-11-12 20:03:22
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「”早々いない”なら確かにそうかもしれませんね。ただ私はベストだけを探していますの」 マダムが手を叩いた。彼女の背後の壁だったところが溶けるように開き、奥の空間へと続く。「自信があるなら、戦いぶりを見せていただきましょうか」立ち上がり、二人を招く。 25

2020-11-12 20:08:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「オッ、ドンパチか!?任せろ」ようやく退屈から解放されたたみ子が目をキラキラとさせた。「あなた、私の話を聞いてらして?あなたは私と上から観戦です」「ウッゼエ~~~~~」 26

2020-11-12 20:13:21
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奥まった空間は内臓館の外観からは考えられないまでに広く、上下二層、観戦スペースと闘技場に分かれている。マダムとたみ子は上へ、マサは下へと別れる。 マサが闘技場の中心に立ったのを確認して、マダムが手を叩いた。ずるり。 27

2020-11-12 20:18:20
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石床が歪み、マサを取り囲むように人影が現れる。その数、五。いずれも内臓館を訪れ、そして館に取り込まれた町田屈指の剣客達だ! 28

2020-11-12 20:23:17
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礼無小僧のへし切長谷部は水月。マウンテン・キングの斬馬刀は首筋に。邪鬼の飛苦内はマサの眉間に狙いを定め、達磨之助が取り出したるは分銅鎖。 そして  九龍夢幻流免許皆伝 “白きラクーン”の笑み。 「へえ」 マサが笑った。 29

2020-11-12 20:28:20
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「ふう」 マサは刀を治めた。「ヒュウッ、やっぱアイツ強いな!無傷どころか返り血一つ浴びてねえや」たみ子が椅子に立ってはしゃいだ。 マサの足元には剣士たちの亡骸が五つ転がっている。それは見る間にずぶずぶと溶け落ち、再び石床に吸い込まれていく。 「わかってもらえましたか」 31

2020-11-12 20:38:19
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マサがマダム・ストラテジーヴァリウスを見上げてほほ笑んだ。「ええ、確信しました」マダムが笑みを返す。「『百手のマサ』…あなたに十兵衛を斬ることはできませんね」マサの笑顔が消えた。「なんでだよ!さっきの戦いもノーダメだったじゃん!」たみ子が横から抗議の声を上げる。 32

2020-11-12 20:43:20
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「わからないならそれで構いませんよ。それなら、むざむざ十兵衛に斬られるよりは二兆億利休様の元へでも向かわれては?己と向き合うには彼と語らうのが最も良い、と方々の噂でございますが」 33

2020-11-12 20:48:19
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マダムがどこからか一振りの刀を取り出す。その刀身は光を吸い込むように黒く、一切の輝きを持たない。 34

2020-11-12 20:53:22
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「折角はるばるお越し頂き、無駄な運動もさせてしまって申し訳ございません。これは”ウーラノスの楊枝”と呼ばれる、国外からの漂着物を加工した刀。ひどいなまくらですが、折れず、曲がらぬ頑丈さだけは右に出る刀がありません」マダムはそれを階下のマサに投げ渡した。 35

2020-11-12 20:58:17
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「せいぜい身を守る刀くらいは差し上げましょう。貴方にはそれがお似合いです。それではお気を付けて、お帰りくださいな」 36

2020-11-12 21:03:19
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「ンっだよ!あのババア!」石を蹴りながらたみ子が毒突く。「アータもアータだよ!言われたなりにあんなナマクラ大人しくホイホイ受け取って帰りやがって…」「これはこれでいい剣ッスよ、僕の戦い方には合ってます」 38

2020-11-12 21:13:16
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「アータの戦い方に合ってるかはどーでもいんだよ、そのナマクラで十兵衛ブッ斬れるかが問題だろが」マサは答えない。たみ子はふてくされ始めた。「ムカついてるくせに無理やり自分で自分納得させやがって…一目瞭然だろが、ヘタレかよ、コイツ…」 39

2020-11-12 21:18:18
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

日が暮れてゆく。町田の廃ビル街を血の色の夕陽が照らし、そしてそれらもすぐに、深紫の夜が覆い尽くしていく。「どーすんだよ!このまま十兵衛ブッチめに行くか?それとも一回戻るか?」「そうッスね、一回態勢を整えてから…」 40

2020-11-12 21:23:19
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

その時、足元から地響き、轟音。そして不快な浮遊感。視界が傾く。「たみ子さん、マズい!《《区画整理蟲》》だ!」大量の羽音と共に、付近一帯の市街が宙に浮いた。 41

2020-11-12 21:28:21
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

町田は都内でも屈指の新陳代謝の良い街として知られる。住民の死亡率と流入率が極端に高いのも一因であるが、区画整理蟲による強制的な都市計画もその一つだ。 「クソッ、素人でもやらねえぞ!蟲の活動に巻き込まれるなんて!」 42

2020-11-12 21:33:22
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「市役所が壊滅してたんです!交通封鎖がされてなくても不思議じゃない!迂闊でした!」手近な建物にしがみつきながら、二人が叫ぶ。 43

2020-11-12 21:38:13