柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 『SIDE:柳生十兵衛』

これはアロハ天狗によるSFパルプアクション剣豪エンタメ・マーダーパンク小説「柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」のtwitter再放送ログです
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柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

左腕の端末を操作すると、背負っていたバックパックが展開し、金属製の巨大な翼とブースターがその姿を現した。バックパックの一部がヘルメットと酸素マスクに変形し、頭部を覆い隠す。 51

2020-11-17 22:18:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「いいか、十兵衛との距離を維持しつつ、常に三次元機動に徹しろ。高度を一定に保つな。射程は俺たちの方が長い。勝ち目は十分以上にある。ヴァルチャー・スクアッドの本領を見せてやれ。アルファ、アウト」 通信を切ると同時にその羽を大きく羽ばたかせ、エルンストは離陸した。 52

2020-11-17 22:23:18
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

その直後にヨルンも、それに続く。 町田の各地から、エンジンの輝きと共に男たちが飛び立つ。 53

2020-11-17 22:28:18
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 『SIDE:柳生十兵衛』 (後編)

2020-11-18 18:03:17
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

柳生十兵衛は歓喜した。人の群れを見つけたと思ったらその道すがら、不意に戦闘が始まったからだ。そう、町田に来てから、一方的な殺しこそ時々は楽しんでいるが、戦闘らしい戦闘は考えてみればこれが初めてだった。 「距離を保て!射撃のタイミングを合わせろ!」 55

2020-11-18 18:08:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

エルンスト同様に金属の翼を背負った男たちが、十兵衛を中心とした半球軌道を高速で飛行する。「3,2,1,Fire!」号令に合わせて、手に持ったライフルから、電磁レーザーが瞬間的に照射された。 56

2020-11-18 18:13:20
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クリティカルポイントを狙ったレーザーは、しかし十兵衛の肩や脚など非致命部位を貫くに留まる。「外した!?」「偶然だ、チャージ後にもう一度狙うぞ!」数秒のチャージの後、ヘッドアップディスプレイ上の射撃ステータスが[READY]に変わる。 57

2020-11-18 18:18:20
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「行くぞ。弾道に隙間を作るな、再射撃!」しかし、致命部位を狙って網の目のように計算されたレーザーを、十兵衛は異常な角度に身体を歪ませて回避する。「馬鹿な、レーザーの弾道が読めているのか!?」「怯むな!回避行動を取るなら、当たれば効くということだ!続けるぞ!」 58

2020-11-18 18:23:20
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十兵衛は初撃で受けた膝の傷をさすりながら上空の男たちを睨む。「痛えなあー…チクショ!」右腕を斜め上方に向けて振り抜き、剣の軌道の延長線上、半径数百メートル内にある全てが無差別に両断される。しかし、その斬撃は飛行する男たちに届く前にその威力を弱め、消失した。 59

2020-11-18 18:28:21
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「あれ?届いてない…ていうか届いても当たってないか、これじゃ」そのままあっけらかんと呟いた。 60

2020-11-18 18:33:22
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ヴァルチャー・スクアッドにとってそれは予想外のことではない。予め観測した十兵衛の攻撃半径から十分な距離を彼らは保っていた。その手に構える多目的ライフルのレーザーモードの有効射程は、その外側からの狙い撃ちをして余りある。「異常な斬撃だな」 61

2020-11-18 18:38:19
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「だが、ここまでは届かん、事前の観測通りだ!距離を詰めさせるな!」ヴァルチャー・スクアッドが再度の攻撃態勢に入ろうとしたとき、十兵衛が再び構えた。「もう一回…よっと!」再度の斬撃。上空を飛ぶ彼らにはその剣は届かない。 62

2020-11-18 18:43:18
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だが、斬撃で根元から切断された廃ビルが崩落し、周囲に粉塵を撒き上げる。 「まずい、粉塵だ!」「レーザーが拡散するぞ、威力を保てん」「奴はレーザーへの対処法を知っているのか、それとも偶然か?」無線が乱れ飛ぶ。「粉塵が収まるまで射撃中止だ!向こうの攻撃も届かん!」 63

2020-11-18 18:48:19
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

エルンストが素早く指示する。「エコー!お前たちの赤外線スコープで奴を追え。粉塵に紛れて脱出させるな」「ガッチャ!」エコーチームの片割れが、固有装備の赤外線スコープを有効化させ、十兵衛を追う。煙幕の中に、黄白色に光るシルエットが映る。 64

2020-11-18 18:53:20
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「十兵衛の輪郭を確認!動いていません…何を…?」十兵衛の腕に光点が光った。そう思った瞬間、赤外線スコープごと、その頭部は弾け飛んだ。 「何だと!?」相棒の死に動揺した声が響く。「動きを止めるな!ランダムに動き続けろ!」「粉塵の中から…やつもレーザーを持って…ガッ!」 65

2020-11-18 18:58:13
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

今度は、別の隊員の胸が貫かれた。 「違います…!あれは奴の”突き”です!ヤツの”斬撃”ではなく、”刺突”が飛んできています!」ヨルンの泣きそうな声が、無線チャンネルに響いた。 「突きだと…精度も射程も斬撃とは比較に…ガッ」 66

2020-11-18 19:03:21
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「奴はどうやってこちらを見て…グァッ」「グェ」「ギッ」急速後退するヴァルチャー・スクアッドの隊員達が次々と、噴煙の中からの長距離刺突で撃墜されていく。「この距離でも墜とされるのか!?」「射程の底が知れん…!高度を取っても無意味だ!建物を影にしろ!」 67

2020-11-18 19:08:14
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生き残った部隊の面々は高度を下げ、廃高層ビルの影に隠れる。「どこまで意味があるかわからんが…」エルンストは歯噛みした。十兵衛が未知の遠距離攻撃を有するリスクは織り込んでいたが、ここまでの射程と精度とは。 粉塵が晴れていく。 68

2020-11-18 19:13:18
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「フーッ!突きで剣気飛ばすなんて初めてやってみたけど、案外イケるもんだな!ひい、ふう、みい、たくさん…オッ!当てずっぽうだけど結構当たってるじゃん!流石オイラだぜ!」 69

2020-11-18 19:18:20
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十兵衛の大声が周囲に響く。それはハッタリによる威嚇ではない。ただの素朴な感情の発露であり、度を越した大声も十兵衛の素だ。硬質の轟音が響く。奴の刺突が仲間の更に一人を、建物ごと貫いた音だ。エルンストは大きく息を吐いた。 70

2020-11-18 19:23:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

今や射程の優位は完全に逆転した。十兵衛が再びビル切断で粉塵に隠れれば、むしろこちらが一方的に”狙突”を受けるだけだ。手詰まりだった。こうした結果になるリスクは全員が承知して、そして下した決断だ。後悔は無かった。分の悪い賭けに出て、そして負けただけだ。 71

2020-11-18 19:28:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

それでも、十兵衛の足止めとしては十分すぎるほどの時間を稼いだ。奴が数千人の避難民を虐殺する様子を指をくわえて見ているより余程マシだった。それはテスラ科学振興財団本体が重視する科学者倫理とは全く別の心の在り方だ。 72

2020-11-18 19:33:21
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

邪魔者は殺し、屍肉を漁って研究材料を得る。”命”と”死”に最前線で触れ続けてきたフィールドチーム、ヴァルチャー(禿鷹)の矜持だった。 だが、ヨルンを連れて来たことだけは心を咎めた。エルンストは、離れたビルの陰にうずくまるヨルンの姿を見た。 73

2020-11-18 19:38:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

ここからでもわかるほどに震えていた。 まだそこまで腹が据わっていなかったか。非難や軽蔑ではなく、単なる事実として彼はヨルンをそう評価した。資質も熱意もある。やがては良い研究者となるだろう。だが、まだ若すぎ、経験が足りなすぎた。連れて来た己の失敗だった。 74

2020-11-18 19:43:20