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そんな彼ら彼女らの中にも、まあたまには変なやつがいる。 そう、たとえば。 ゴーグルをつけてバイクで世界を旅して回る、現女王の娘とか。
2021-01-15 18:34:53もちろんエルフがいた時代にゴーグルもバイクもないので似たようなものを例えに使った。 実際ゴーグルは魔法の冠だったしバイクは彼女が旅の相棒として手ずから彫り上げた木馬があまりにド下手くそで無理やり風の魔法で浮かした結果なんとなくそんな感じに見えるだけです。
2021-01-15 19:05:34名前をルファヴァインというそのエルフは変わり者で、跳ねっ返りで、手癖が悪い。エルフらしからぬ妖精みたいな女。 宝物庫からかっこいいものをくすねて旅に出た。
2021-01-15 19:46:02「じゃ行ってきまーす!」 待てぇコラこのクソガキ、といった罵声を振り切り西の森から愛馬に跨りかっ飛んでいく先は人間の町。宝石のはまった冠を目までずり下げると勝手に伸縮しぴったりとおさまる。視界の方も魔法でむしろ遠くまで見通せる。
2021-01-15 20:13:18「上手く動かなかった時は焦ったけど、風を切るのもいいものね!」 彼女は前向きだった。もはや魔力にものを言わせて無理やり飛ばしていることもそのうち忘れるだろう。
2021-01-15 20:15:08町が近付くと木馬を降り、魔法でそのあたりの茂みへ隠してから町へ入る。今までも何度か来ているので慣れたものだ。 人間側は慣れないけど。
2021-01-15 20:22:54「やっほー人間」 「えっ、エルフだ!?」 「おいおい冗談もそれくらいに…エルフじゃねーか!」 「エルフ!?エルフナンデ!?」
2021-01-15 20:25:04「別に初めてじゃないでしょ、いい加減慣れなさいよ」 「いやでもエルフだし…」 「エルフは気に入らなかったら獣扱いして気に入ったら妖精に変えちまうんだろ…?」 「人間ってバカねぇ…」
2021-01-15 20:27:52「いーい?会ったことない怖いエルフより今会ってるかっこいいエルフのことを覚えて、短い命を楽しく生きるのよ。わかった?」 「えっ、優しい…」 「人間くんに優しいエルフじゃん…」
2021-01-15 20:31:07このように、世界を旅した彼女は各地で伝承となる。 全てが全て後世に伝わったわけではないものの、この町にもいくらか逸話を残した。
2021-01-15 20:41:49例えば彼女がこの旅で最初に残す伝承は。 「あーお腹空いた。人間ー、あれ食べに来たよ。獣の骨の汁に麦の粉固めたやつを浮かべて豆の芽だけもりもりにしたやつ」 「あいよっ!」 エルフ、町の屋台で人間の料理を気に入る。
2021-01-15 21:21:13そして。 「ごちそうさまー。変な料理なのになんでこんな美味しいんだろう…」 「姐さん、先ほど森から便りがありやしたよ」 「え?」 「ツケは払ってやらんとのことです」 「……無念。嫌がらせ失敗」 エルフ、無銭飲食す。
2021-01-15 21:30:06「エルフの姐さん、姐さんはなんでぇまた森から出てきたんだい?」 屋台の店主が尋ねると、皿洗いに勤しみながらルフは答えた。 「んー。エルフはこのまま行くと滅びるらしいのよ」 「はぁ!そりゃ大変だ。これまたどうして」
2021-01-17 01:33:42「母様が言うには、「長く栄えた種族はいずれ滅びの災厄が訪れる。そういう仕組みなんだ」って。で、そんな仕組みが気に食わない私はそれを止めてやろうと思ったわけ」 「ははぁ、人間には見当もつかない大きな話だ。…その辺で構いませんよ」 「いいの。実家へ嫌がらせができない以上タダ食いだわ」
2021-01-17 01:40:37ツケが効くならタダ食いするつもりだったあたり既に当時のエルフのイメージとしてマズいところがあるのですがそれを先読みした母親もいるのでどっこいどっこい。多分そういう血統。
2021-01-17 06:07:41「じゃあね人間。また来るから」 「へい、お待ちしてますよ」 無事負債返済を終え、今度こそルフは旅に出る。 果たして彼女はエルフを滅びから救えるのか。そもそも訪れる滅びとはなんなのか。 いつかの明日に続く。
2021-01-17 13:32:51海に漂う彼女は元々普通の人間だった。 いや、どうだろう。何せまだ生まれていなかったのでこうして漂う前の記憶も名前もない。 彼女の母親は彼女を身篭ったまま発狂し狂信者の一派へ加入、仲間に入ったその日に巫女として大船から海へ入水(ダイブ)した。 迷惑な話である。
2021-01-17 13:42:13何の因果か文字通りの水子となってしまった彼女を拾ったのは二匹の人魚。 雌同士で日々をぬめぬめ絡み合って過ごすタコとイカのつがいだ。 人魚は性別の壁が薄い…というわけでもない。単に彼女たちが異種性愛者で同性愛者でついでに、 「ねーえ、人間って雌同士でも子供が作れるらしいわよー」
2021-01-17 14:41:29変な分大らかで、哀れな生贄の水子をくらげの人魚ということにしてよく面倒を見た。 思い込みの強い二人だったのでほんとにくらげだと思っていた節もないではないが、まあふよふよと漂っていきそうになる義理の娘をしっかり抱き締めて可愛がる生活は幸せだったのだろう。
2021-01-17 17:11:29別れに最も抵抗したのも彼女たちだった。 「嫌よー!この子を置いていけないわー!」 「お別れするくらいなら一緒に水揚げされるわー!」 「いや、お前らは刺身にされるのがオチじゃん…その子は賢い、少なくともお前たちよりは上手く生きていくよ」 「「どういう意味ー!?」」
2021-01-17 17:36:18「お母さん、お母さん」 「この子も寂しがってるわー!」 「離れたくないわー!」 「最後にー、お歌を聴かせてくださいー」 「「…ッ!!」」
2021-01-17 17:41:05いくら温かな涙を流したところで海は冷たく、潮に流れ溶けていくのみ。 それでも、確かにそこには親子の情があったのだ。 妙な親子の絆は歌で結ばれ、彼女はくらげの人魚として生きて、やがて死ぬ。 しかし彼女は常に大好きな歌へ寄り添って、その仮初の命を全うしたのでした。
2021-01-17 17:45:23