黒騎士が竜殺をする話。1

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江口フクロウ@眠み @knowledge002

黒い騎士ってかっこいい。なんかわからんけどみんな好き。

2021-02-14 07:15:37
江口フクロウ@眠み @knowledge002

元がかっこいいやつにはかっこいい要素を盛っても許される。 黒髪。目つき悪い。前髪が鬱陶しい。ギザ歯。皮肉屋。狡猾。一匹狼。戦鎚使い。

2021-02-14 07:25:27
江口フクロウ@眠み @knowledge002

聖教の名の下に竜殺を掲げる聖騎士団において黒竜と忌み嫌われた男。 白聖と呼ばれた英雄の影。

2021-02-14 07:28:26
江口フクロウ@眠み @knowledge002

初めての竜殺は同じ初陣の同僚を貪る竜を背後から。 と言っても、竜の中でも下の方、実質なんとか空飛べる蜥蜴みたいな劣竜をなんとか拾った槍で打ちのめした感じのあんまりかっこよくない戦果。 自分の武器は逃げる時に取り落とし、槍も所詮数打ちの使い古しで劣竜の鱗にさえ全く歯が立たない。

2021-02-14 07:35:38
江口フクロウ@眠み @knowledge002

美味そうなところを探ったのかところどころが齧られている同僚の死体なんて見たくもなかったが片付けに参加させられたし、もう最悪。 それから彼は騎士が持ちがちな盾と剣のセットや槍ではなく鎚を振り回すことにした。ボロの刃物より打撃の方が通りやすいし。

2021-02-14 07:39:36
江口フクロウ@眠み @knowledge002

一応評価はされたが死に物狂いだった割にあんまり褒めてもらえない。 どころか、彼の悪名が高まるにつれこのエピソードは「わざと同郷の同僚を見殺しにして竜を狩った」とまで言われるようになり彼の人間嫌いは加速する。同郷じゃねぇし。

2021-02-14 07:46:08
江口フクロウ@眠み @knowledge002

と言うか、そもそも初陣どころではない。訓練所が襲われたのだ。 仮にも聖教保有の施設が、聖なる守りなんぞ掲げていたわけではないが下級竜の群れに襲われて壊滅した。 彼の物語はそんな踏んだり蹴ったりなところから始まる。

2021-02-14 07:50:27
江口フクロウ@眠み @knowledge002

次の竜殺はまた劣竜。新兵としては破格の戦果ではあるが軽すぎるくらい軽んじられているのでそのうち彼自身気にしなくなった。後に気付くことながら重要なのはそこではなかったし。 それに、今回も死人が出た。

2021-02-14 07:59:40
江口フクロウ@眠み @knowledge002

地域柄色素の薄い髪が多い地域だからと真っ黒い頭が不吉がられるのはもはや聖なる教えもクソもないもんだ。 まあ今回は本当に見殺しにしたので半分当たりではあるけど。

2021-02-14 08:13:08
江口フクロウ@眠み @knowledge002

気に食わないやつではあったが殺すほどではない、勝手に死んだのを利用しただけで。 劣竜が人の死体を食うという習性を明確に意識したのはこれが最初だった。

2021-02-14 13:27:14
江口フクロウ@眠み @knowledge002

聖教の竜殺騎士になってから一年。 訓練所襲撃から丸一年生き残って彼はスレた。すっごいスレた。 聖教が自分みたいな孤児を拾って騎士への道を与えてくれるのは悪竜廃滅のためではなく竜から取れるものを売っ払うのが儲かるからであることを察したし、自分のように他者を利用して竜を殺すやつと

2021-02-14 18:17:29
江口フクロウ@眠み @knowledge002

何度もすれ違い殺されかけたし、生き残るたび悪評ばかり広がる。 仕方ないとも思う。

2021-02-14 18:22:26
江口フクロウ@眠み @knowledge002

生きていくには竜を、たまに人を殺す必要があるので仕方ない。 若者としては不健全ながら煙草も覚えて、そのいでたちはまさに憎まれっ子世に憚る。 鎧も黒くしちゃったりして。

2021-02-14 18:53:56
江口フクロウ@眠み @knowledge002

先輩にも頼られる。 「なあ、ウェル。すまないが手を貸してくれないか。名有りの竜が見つかったんだ」 彼の名はオーエン。三十も半ばまで生き残ってはいるものの、生来の生真面目と人の好さで黒騎士ウェルとは違う意味で出世に縁のない男。 これ以降出ない。

2021-02-14 19:07:51
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「どうしてもそいつを仕留めて名を上げて、告白したい女性がいるんだ…!」 「いけませんね、俺なんかに声かけるようじゃよっぽど困ってるらしい。いいでしょう!…ちゃんと『山分け』、ですよ?」 「あ、ああ!騎士の誇りに誓って!」 誇り、ね。馬鹿らしい。

2021-02-14 19:10:01
江口フクロウ@眠み @knowledge002

でも憎めない。彼は弱いし権威主義の聖教内でもどこの派閥に誘われるでもなく、ただ本気で他者のために戦っている男。ウェルを差別しない数少ない同僚なのだ。 見捨ててはおけまい。

2021-02-14 19:12:19
江口フクロウ@眠み @knowledge002

類稀な正義の人が自分のための戦いに挑むのなら、介添えやお付きくらいしてやろうじゃないか。 そんな情を見せたのがよくなかった。

2021-02-14 19:14:32
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「罪人クロムウェル・ラース。その魂に救済を希う最後の機会である。…浄告を」 「私は同胞殺しをしてはいません。断固として無実です」

2021-02-14 19:17:14
江口フクロウ@眠み @knowledge002

オーエンではない。彼に情報を流して唆した者がいて、竜の討伐に向かった先の宿で襲われたのだ。 相手は三人、少し歳上で顔になんだか見覚えがある。ああ、絡まれたことがあった。聖教の騎士の中でも位の高い、いわゆる貴族派の連中。

2021-02-14 19:23:02
江口フクロウ@眠み @knowledge002

親のツテで危険な仕事から一歩引きながら生きている連中でも武装すればいっぱしの脅威である、ということにして全員愛用の鎚で叩き殺した。 が、背後にはもっとたくさんの敵がいたわけだ。 自分が出頭して報告を上げる前に裁判は始まっていた。

2021-02-14 19:25:24
江口フクロウ@眠み @knowledge002

下っ端たるウェルが神聖裁判所などという高貴な場所に出入りするのは初めてだったが見物を楽しんでもいられない。現にこうやって引っ張り出される前に散々ぱら『事情聴取』が行われ、危うく処女まで散らすところであったが大袈裟に悶えることで死ぬかもしれないと思わせ手を引かせた。お手の物、だ。

2021-02-14 19:30:24
江口フクロウ@眠み @knowledge002

さて、腫れた顔でもとりあえず口角を上げ目を細め、にやーっと笑って見せる。 そうすると聴衆から飛んでくる野次のなんと心地いいことか。

2021-02-14 19:32:10
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「…ふむ。しかし、お前の鎚には血がついておりお前の取った部屋には鍵がかかっていたにも関わらず三人の骸があり、お前に呼び出されて三人が出かけていったという証言もある。三人が抵抗した痕跡も、その騒音も聞かれている」 「全く事実ではありません。私は無実です」

2021-02-14 19:35:52
江口フクロウ@眠み @knowledge002

全く、ではないが大嘘と余計な証拠がいくらでも混ぜられている罪状で神聖なお説教を食らうのは我慢ならない。せめて余裕ぶった顔をして聴衆を煽ってやろうじゃないか。

2021-02-14 19:39:28