【春を歩く】福間健二 #k2fact289
菜の花畑で思い出した歌に何を確認すべきか。わかりません。こわれた池をめぐる父親の歩行にこの隔たりで何を試みるのか。わかりません。だが、パンデミック。こんなとき、近づいてくる赤い箱の要求は受け入れる。サングラスをしないこと。女性になること。そよ風が快いなら。(春を歩く1)#k2fact289
2021-03-25 12:13:51女性になる。男性にとってばかりではなく、この世のあらゆるもの、生まれたときから傷つき、内側に空洞をもつものは、この実験が必要だ。春を楽しむためには。工事のつづく旭通り、貧弱な秘密よりも少女のジャンパーだ。三小通りを右に折れて女性郵便局員に聞くまでもない。(春を歩く2)#k2fact289
2021-03-26 09:22:29春のトカゲを追う百々子さんとその継母の千代さん。非平行的な、生きるための嘘と実現しないプラン。その同時性のなかに見えていた矢印が消えてサクラが満開ということだ。大学通り。異常事態宣言解除後の夕焼け。まだ帰りたくない靴で踏む境界ブロック。お父さんはいない。(春を歩く3)#k2fact289
2021-03-27 10:47:01その靴、ニューバランスじゃないのは惜しい。まだサングラスをしていること以上に。そよ風、明るい時間だけにかぎった漂泊、だまされたふりをするという仕事。気持ちいい夢は中断。百々子さんにもらった山椒の実をどうするか。彼女は考える。ネギ醤油をかけた豆腐の上に。(春を歩く4)#k2fact289
2021-03-28 08:55:38言い方わるいかもしれないが、天気よくてサクラ咲いてラジオから聞こえる工夫のないフレーズのようにおばさんたちが舗装の上に湧いて出てくる午後の回想。答のわかっている問題を解く。解き方がだれとも違う彼女、その男の子時代の手足は父や母になれない旅人の見るちぎれ雲。(春を歩く5)#k2fact289
2021-03-29 14:31:08銀座、新橋、そのあたりの人混みにいるはずだったが、気がつくと静かな中庭の居酒屋、縁側カフェ、その隣の薬局など、そうか、東アジアだと思って移動するうちに脱いだ靴が見つからない。裸足で外を歩きまわるとあとで千代さんに叱られる。それがいやなのでこの夢は終わる。(春を歩く6)#k2fact289
2021-03-30 17:13:58靴をなくす春を、体を折って逃がすようにして、彼女は目ざめる。服従とすすり泣きの低温期、うって変わった男の子時代、その罰ではないとしても放置された眠り姫時代もすぎて、これから必要になるのか。はげしい上下運動。相手のいること。なら、タンバリン叩ける人がいい。(春を歩く7)#k2fact289
2021-03-31 11:58:35裸足の少女が継母らしい人に叱られている。売りたいもの、売ってはいけないもの。問題に触れるおとなの手。その力は弱いほどいいと言って。雨、死、鳥、むりに連結させなくていいと言って。春の窓へのそんな願いと関係ない漂流物に埋まりながら男たちは夢見る。裂けるために。(春を歩く8)#k2fact289
2021-04-01 14:05:29裂ける。飛びちらす。弱い力を使えないからそうなる。製糸工場の前を通って、懐かしい路地だ。なにか踏んだ。踏みつぶすほどには踏まない。矢印の力と同時に反対の力にも乗るのだ。女性になる。その第一歩は弱い力、本当は弱くないこの力を使う快感からだよね、老乞食さん!(春を歩く9)#k2fact289
2021-04-02 18:16:18失礼。トンネルの果ての、サクラの木の下の無意識を踊る死体の始末に困る春だが、若いお父さんとまだ対決していない。どうぞ、逃げてください。上昇、疾走、下降。女教師、女泥棒、女性詩人。呼び方は気にしない。自粛中の弱い力でも、やることちゃんとやる植物は天才だ。(春を歩く10)#k2fact289
2021-04-03 10:21:50