掌小説語り~自作つぃのべる集~86

自作ついのべるのまとめです。 2020年6月分。
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リュカ @ryuka511

枯れ井戸の底に刺さっていた派手な剣は、おもちゃではなかった。井戸に落ちた猫を助けに下りて、その剣を見た瞬間、全身が総毛立った。猫も最大級の警戒を見せている。伝説の暗黒の剣が、なぜここに。早く誰かに知らせないと。だけど僕の身体は勝手に動いて剣に手をかける。だめだ、止めーー #twnovel

2020-06-01 00:38:47
リュカ @ryuka511

愛し合う我々の唯一の障害は、互いの種族だった。周囲の理解など元より不要、文化や嗜好の違いは時間をかけ理解してきたが、寿命だけはどうにもならない。共に人として歩む道もあった。だが種の誇りは互いに捨てられなかった。愛に勝ったそれは、君の死と共に永遠に越えられない障害となった #twnovel

2020-06-01 22:10:15
リュカ @ryuka511

棺に銀の杭を打ち込む。貴方が二度と目覚めないように。世界は貴方の存在を許さないから。貴方の身体が灰塵と化し崩れた音を、確かに聞いた。棺を開ける勇気は無かった。震える手で杭を抜く。同じ杭で命を絶っても、同じ所へ行けないかもしれない。それでも。貴方を愛した私も許されないから #twnovel

2020-06-02 23:16:48
リュカ @ryuka511

君はこれ以上ないくらいに傷ついた。君を傷つけるものなんか見なくていい。ここには優しいものだけを集めたから、もう見えるものしか見なくていいよ。僕の作った箱庭の中で、君を愛で包んであげる。今日はもう眠るといい。箱庭の外の事、とりわけ君を傷つけた輩の末路なんて、知る必要はない #twnovel

2020-06-03 23:21:45
リュカ @ryuka511

「ついて来るな」「私の勤めですから」若殿は視察と称し城下へ遊びに行く。お世継ぎの身であると自覚して頂きたいものだ。帰城を説く橋の上、感じた殺気。咄嗟に腕を引き抱き寄せる。眼前に刺さった矢に流石の若殿も青ざめた。「御身はお守りします。が、どうか不用意な行動はお控え下さい」 #twnovel

2020-06-04 23:57:11
リュカ @ryuka511

世界にはこの島以外に何も無いと言われている。水平線の向こうには、本当に何も無いのだろうか。魚や鳥達は、何も無い世界をただ巡っているのか。何の為に?魚に問う。この波はどこから来るのか。鳥に問う。その瞳に何を映したか。答えはまだ、返ってこない。答えを知るべき時が来たら、きっと #twnovel

2020-06-05 22:52:53
リュカ @ryuka511

鬼が封印されている洞窟を浪人は見据える。封印は村人の噂通り綻び始めており禍々しい気配を放っている。鬼を封印したのは彼の祖父であった。その後朝廷に取り入った祖父を嫌い家を出た彼は、術者としては未熟である。だが放っておけぬと小太刀を握る。稀なる力は人々の為に使ってこそだと。 #twnovel

2020-06-07 01:18:56
リュカ @ryuka511

個々ではあんなにも弱い人間が、なぜ群れをなすと魔王軍を手こずらせるのか。撤退の報告に魔王は苛立ちを隠せない。何が人間達を奮い立たせるのか。降伏すれば楽になるものを、なぜ無謀な戦いを続けるのか。人間達が度々口にする「希望」、魔王には理解し得ないものが、不思議と眩しく思えた #twnovel

2020-06-07 22:37:15
リュカ @ryuka511

未熟者の分際で、貴方を守るなどと粋がった結末がこれだ。刃に貫かれた胸は致命傷だと自分でも分かった。誰かが叫び差し伸べた手は間に合わず、甲板から落ちる。青い視界に広がる赤。『また、逢えるかな』この期に及んで未練がましい自分に笑えてくる。来世なんてあっても、同じ末路だろうに #twnovel

2020-06-08 22:37:45
リュカ @ryuka511

戴冠式は滞りなく進み、騎士は感極まっていた。大きく強くなられた。即位までの険しい道のりを思い返せば、まだまだ安心できない。傾きかけた王国を背負う若き王をお守りするのが、私の務め。私情を挟むな。新王即位に歓喜する民衆へ手を振る王に、決意を新たにする。好意は深く胸の中に秘め #twnovel

2020-06-09 23:19:45
リュカ @ryuka511

なぜだろう、この扉の向こうを知っている。魔王城に侵入するのは初めてなのに。静まり返った広間。罠に嵌って戦士が捕われて、先に行けと言われーー「勇者!」ふいに手を引かれ我に返る。戦士が首を振る。「惑わされるな」「あぁ。ありがとう」 #twnovel 同じ末路は辿らせない。今度こそ、勇者に勝利を

2020-06-10 23:21:35
リュカ @ryuka511

陥落させた街を見回る将軍は、聖堂で祈りを捧げる少女を見つけ嘲笑った。「今更、祈りになんの意味がある。神の加護とやらより我々の力が勝ったのだ」少女は振り返り将軍を見据える。「私達は力に屈しません」その静かで強い眼差しに将軍は僅かにたじろいだ。「祈りは希望であり、兆しです 」 #twnovel

2020-06-12 00:21:38
リュカ @ryuka511

スラムの教会を訪れたシスターは、聖書を朗読し愛を説いていた。教会で雨を凌ぐ男達は嘲笑う。「君の愛なんて誰も求めちゃいないさ 」「私がお伝えするのは神様の愛です」「もっといらねぇな」「俺らが欲しいモンをくれたら、君の話を聞いてやるよ」「あんたには一生わかんねぇだろうがな」 #twnovel

2020-06-13 00:55:10
リュカ @ryuka511

闇夜の僅かな灯りを頼りに、少女は筆を手に文をしたためる。年頃の少女にとって恋することは、己の身上だけでなく、一族の命運をも左右するものであった。御簾越しの月明かりが、片恋の切なさの如く夜風に揺れる。綴った恋歌は心情を表すには遠く及ばず、己の至らなさに嘆息を漏らした #twnovel

2020-06-13 22:49:28
リュカ @ryuka511

#好きな小説の題から始まる140字 哀しい予感はいつも私の人生につきまとっていた。それは予感だけで終わってはくれなかった。知らない方が良かった秘密。有り得ないと思っていた別れ。銀幕の出来事のような裏切り。予感が現実となった時、いつしか私は笑うようになった。この程度の事、なんくるない。

2020-06-13 23:05:43
リュカ @ryuka511

勇者が乗った船は嵐に沈んだ。孤島の城で、魔王は行方不明の勇者を待つ。まだ一度も刃を交えていないのだ。こんな事なら自ら勇者を討ちに出るべきだったと悔やむ。憎むべき宿敵であると同時に、対等に戦える好敵手である。私はいつまでもここにいるよ。たとえ亡者となっても、私を討ちに来い #twnovel

2020-06-14 22:38:23
リュカ @ryuka511

少年は藁にも縋る思いで魔除けの石を買った。するとその日、彼を虐待する母親と暴力や暴言を浴びせる同級生が次々と死んだ。「助けてくれてありがとう」少年の笑みに応えるように石は艶めく。以来、周囲の人々は少年を恐れた。だが彼は満足だった。魔除けの黒石に宿った悪魔だけが、彼の親友 #twnovel

2020-06-16 00:35:02
リュカ @ryuka511

神の御前で誓う永遠の愛。君の「I do」の直前、僅かな沈黙に君の本心を見てしまった。まだあいつが君の心にいて君を惑わせている。だけど君は僕と永遠の愛を誓った。もう君の人生は、心は、僕と共にある。あいつは僕らの正当な愛を妨害する悪魔だ。惑わされないで。僕が君を悪魔から守るから #twnovel

2020-06-16 23:12:47
リュカ @ryuka511

広い駐車場に、平手打ちの音が響く。君は涙目で僕を睨み無言で立ち去ってしまった。明らかに僕が悪いのに、言い訳ばかりで謝れなかった。数日後のお祭りへ君と行く約束は、果たされないだろう。君を泣かせたのに、追いかけもせず溜息ばかり。こんな僕より、君に相応しい誰かがきっといるはず #twnovel

2020-06-18 00:10:30
リュカ @ryuka511

子供達は「かみさまの名前は呼んではいけない」と教わった。人に名前を呼ばれたら、かみさまでいられなくなってしまうのだと。それは淋しいと1人の子供は思う。その子は、他の子供が家族から名前を呼ばれるのを羨んでいた。かみさま、淋しいでしょう?いつかその名を知り、呼んでもいいですか? #twnovel

2020-06-18 22:39:49
リュカ @ryuka511

この両手が羽になったなら、震える君の下へ飛んで行けるのに。だけど、君を抱きしめた僕をどうしようと君の自由だ。身を委ねてくれたらもちろん嬉しいが、掻き毟ってくれても構わない。それは気付くのが遅すぎた僕への罰だ。あまりにも傷ついた君にとっては、愛さえも凶器になりかねないから #twnovel

2020-06-19 23:02:24
リュカ @ryuka511

「兄さん、無理しないで」心配そうな妹に微笑む。「今日は満月で調子がいいんだ。お前こそ大丈夫か?」曖昧に頷く妹に、青年は時間が無いと察した。子供の頃、不治の病から自分を救ってくれた吸血鬼を探している。彼にとってはただの気まぐれかもしれないが。同じ病に罹った妹を救ってほしくて #twnovel

2020-06-21 00:25:38
リュカ @ryuka511

ここは私のいるべき場所ではないのかもしれない。自然が豊かで静かな村。優しい両親、純真な友達。幸せな人生。なのに、淋しさがつきまとう。#twnovel ここは私のいるべき場所ではないのかもしれない。空の見えない騒々しい街。不仲な両親、上辺だけの友達。虚しい人生だと思うのは、逃げ出したいだけ?

2020-06-21 22:06:07
リュカ @ryuka511

君を救出しようと夢中だった。襲撃が止んで静かになって、徐々に平静を取り戻す。破壊したといった方が相応しい有り様。これを全部俺がと今更ながら震え、首を振って感情を閉ざす。もう障害は無くなった。君と引き換えにした理想郷などいらない。終末へ向かうこの暗黒の世界を、君といきたい #twnovel

2020-06-23 00:01:00
リュカ @ryuka511

幼い頃から、魔王を討つ救世の英雄と定められた貴方を助けたかった。貴方の傷を癒すしかできないけれど、たった1人で戦う貴方を救いたかった。けど貴方は、魔王軍の猛攻などものともせず突き進む。貴方と共に行く為に修練を積んだのに。私はまだ、貴方の隣には足りないのだと、思い知らされる #twnovel

2020-06-23 23:16:18