【切るのではなく】福間健二 #k2fact292
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2021-04-24 17:53:41この日、細胞の揺れが止まらない。助けてくださいの虫、何から生まれる。てのひらに空の廊下を歩いてきた新資料としずかな毒。アジアの川、なにかになりきるという宿題。どういう春だったらよかったのか。セージ、もう少し大きくなったら天ぷらにしてもらって食べる。(切るのではなく2)#k2fact292
2021-04-25 11:21:14路地の人影にも、四月の箱から出てくる小人たちは信号を送りたい。抱いてほしい、だとしても、叩いて昼の現実に戻る手は、できることがありすぎて迷う。早いうちのキャベツ。むしろ背負うものがあってこその、速度。バスを見送った。妥協でなく予感の容れものになる。(切るのではなく3)#k2fact292
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2021-04-27 16:34:42指はどこから指なのか。油断するな、突出以前の萌芽。一度盗まれたものは返されてもなにか戻っていない。新緑とバランスわるい立ち方の人たちの、午前十一時半。来ているはずの昼食。消えているはずの火。大丈夫かなと思いながら救急車の音を聞く耳はどこから耳なのか。(切るのではなく5)#k2fact292
2021-04-28 13:47:42雨になったが、いまはあがっている。インサイド、どうしてもアフリカが座らない。抗議するそれ以上に、胸椎の動き。省略できない、濡れた赤い滑り台とカモミールの黄色い花。なら、青い鳥も、と滴ぬぐう構成。吟遊詩人にあこがれたころのジャンプがまだ着地していない。(切るのではなく6)#k2fact292
2021-04-29 10:30:13首都、割れた爪を気にしながら。神田で山手線に乗り換えて新橋に着いた。信じられないかもしれないが、死因をさぐる目が誘い込まれる花園がある。お父さん、ちゃんとトイレ行っておくのよ。家族の心配をする人の内幸町。普通に仕事している人もケンカしている人もいる。(切るのではなく7)#k2fact292
2021-04-30 17:57:29五月になった。大事にしたい、まだ動く部分。ほんの少しだけ積極的に、街。ただそのまま歩く。きょうの夕食どうしようという生活が作品である。うれしいが、そんなこと思っていなかった。春の甘さを許そうとして揺れる液体の、言い分。さする。手で察するだと教わった。(切るのではなく8)#k2fact292
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2021-05-03 18:49:00