- Apple_Mystery11
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声をあげたのはグレースだ。その声に皆がお互いを見合わせる。誰も持っていないようだ。 その様子を見て、グレースが何かを言いかける前に、デアダームが穏やかな口調で言った。
2021-04-14 21:15:55「こちらに懐中電灯はご用意してございますが、このように弱い光ではあそこまで届かないと思います」 「ミスター・デアダーム。貸してくれ」
2021-04-14 21:16:26やってみようと、マシューがデアダームから懐中電灯を借りる。試しにカチカチと点灯してみるが、電池があまり無いのか確かに弱々しい光だ。
2021-04-14 21:16:45階段を上がり精一杯手を伸ばして光を当てたが、やはり届かないと独り言を呟いたマシューの傍で、ミクニリィがハッキリとした口調でそう言った。…彼女は懐中電灯に向かってそう言ったはずだが、心做しか懐中電灯を持つ彼の方が嬉しそうなのはきっと気のせいだろう。
2021-04-14 21:18:23さて、謎が解けたのはいいものの、「すべき行動」をあの高さまで届く光源がないことで制限されてしまったこの状況に、誰もが頭を悩ませてしばらく。
2021-04-14 21:19:38沈黙の続いた玄関ホールに、やはり穏やかな────しかしほんの少しの冷淡さを孕んだデアダームの声が響いた。
2021-04-14 21:20:08「ステルプレーナ様。貴女様なら出来ますでしょう。何を躊躇っておられるのですか?」 「…!」
2021-04-14 21:20:44ビクリと肩を震わせた白髪の少女に、皆の視線が集中する。不思議そうに眺めてくる全員の視線に耐えきれなかったのか、ステルプレーナは近くにいたジェフェリーに「もう1回肩車してください」と小さく声をかけた。
2021-04-14 21:21:39ジェフェリーがそう言いかけたその時、ふっと目を閉じ深呼吸をひとつして、再び目を見開いた彼女の色の違うそれから、青色と紫色の光が放たれる。懐中電灯よりも強く、そして長く広いその光は、一直線に時計へと向かった。
2021-04-14 21:23:01その様子を誰もが息を呑んで見守る中、数秒。 玄関ホールの真ん中から石のぶつかり合うような音がしたかと思うと、すぐに「うわわっ」と男性の声がした。
2021-04-14 21:24:10ステルプレーナに向けられていた視線は一気に中央に向く。見ると玄関ホールの真ん中に小さな台座が現れ、傍らでエイムズがシルクを軽く持ち上げていた。どうやらシルクのいた真下からそれが出現したようで、間一髪それを彼が回避したようだ。
2021-04-14 21:25:06小さくお礼を告げたシルクをそっと下ろし、エイムズは突然出現した台座に目を向けた。 2mか1mの正方形の台座の上にはガラスのカバーがかけられており、その中にはいくつものワイドバングルが置かれていた。綺麗に並べられているそれには、よく見ると番号が振られている。 それが2組ずつあるようだ。
2021-04-14 21:27:08「それが皆様がこれから生活されるお部屋の鍵でございます」 「これがですか?」 「はい」
2021-04-14 21:27:31ガラスケースが開かれた機械音を聞きながら、ワイドバングルを指差してエイムズは問う。そのうち何人かは手に取って見ているが、怪しさあまりに近寄りもしないものなど様々だ。
2021-04-14 21:28:13デアダームはエイムズの言葉に頷く。そしてひとつを手に取ると、彼にそっと渡した。彼の手に握らされたワイドバングルには、「No.16」と書かれている。そうして同じ番号の書かれたものを、そばに居たシルクにも手渡すと、デアダームは微笑んでほんの少し声を張り上げた。
2021-04-14 21:29:02「ワイドバングルの裏には皆様のお名前が彫ってあります。自分のお名前の彫られたワイドバングルをお取りください」
2021-04-14 21:30:41その声を聞き、各々がバングルを手にし始める。手の届かない少女のために、バングルの裏を見せて名前を確認させる探偵もいた。 そうしてしばらく、全員にワイドバングルが行き渡った頃、デアダームは仕切り直すように正面の扉に立って穏やかな笑みを浮かべた。
2021-04-14 21:31:30「先程も申し上げた通り、そのバングルはあなた方のお部屋の鍵でございます。そちらをつけて同じ番号の書かれた扉のドアノブをひねることで、鍵が開く仕様になっておりますので、無くさぬよう肌身離さずつけることをおすすめいたします」
2021-04-14 21:32:40「…また、お部屋は同じ番号の書かれたバングルを持つ方々…2人で1つとなっておりますので、ご了承くださいませ」
2021-04-14 21:32:58その言葉に同じ番号を持つ探偵と少女はお互いに顔を見合せた。既に嫌がる声さえあるが、問答無用といった様子でデアダームは笑う。
2021-04-14 21:34:46「これからはその番号で、ペアになって行動していただきます。お食事等、お席の決まっているものはその番号を目印にしてくださいね。また後々スケジュールをお話いたします」
2021-04-14 21:36:20「───そして、探偵の皆様。 ご覧になられたでしょう。 こちらにおられるお嬢様方は全員、あのように「人ならざる異能」を持つ者たちでございます。謎を解きこの館から脱出する上で、きっとお役に立つ日が来るでしょう」
2021-04-14 21:37:43