エプシュタインのMMT批判本をレビューする(レイの本と比較しつつ)
- motidukinoyoru
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WrayのWhy Minsky Matters? (2016) と、EpsteinのWhat's Wrong with Modern Money Theory(2019)を読み比べていると、Epsteinの方が明らかに後発の本であるにもかかわらず、Wrayの本に比べて激しい周回遅れの議論を展開していることに驚愕と憤慨の念を禁じ得ない。 あまりにも認識の齟齬が大きすぎる。
2021-06-19 21:33:30Epsteinが「MMTは金融不安定性を無視している」という藁人形批判を展開するより遥か前に、Wrayは「なぜミンスキーがマネー・マネージャー資本主義の安定化のためにEmployer of Last Resort(MMT流ではJob Guarantee)が必要と考えたのか」を理論的に詰めている。 議論の次元の差が著しい。
2021-06-19 21:35:51Epsteinが「低金利はバブルの温床。それを肯定するMMTはどうかしてる」と喚いている間に、Wrayは「金融部門は利上げetcの金融制約を回避する金融革新に邁進してしまう。何なら割引窓口融資からインターバンク市場への移行を許してる時点で不味い」みたいな議論してて、制度の観察力が段違い。
2021-06-19 23:15:19MMT(特にカンザスシティ・アプローチ)において、財政的ファインチューニングないし呼び水政策が「完全雇用以前でのインフレ」を惹起するとして批判され、その文脈でJob Guaranteeが提唱されるのは周知の通り…のはずが、EpsteinはMMTをファインチューニング論と混同して批判していてもはや意味不明。
2021-06-20 09:54:06米ケネディ→ジョンソン大統領の系譜にある「貧困との戦い」政策は、実質的に投資優遇を通じて雇用・労働者へのトリクルダウンを期待するものになっていた。これは資本、高技能労働者優遇となり、また金融不安定性も惹起すると考えられる。 これに対して対抗的にELRないしJGが提唱されるという構図。
2021-06-20 10:39:40途上国経済に関するEpsteinのMMT批判は本当に珍妙極まりない。 Epsteinの論法はこうだ: 変動相場制にしても国際資本移動による揺動は免れない(でも、引用しているエビデンスは、『固定相場制よりはマシ』というMMTの結論に整合的なものばかり)ので、資本規制を強調しないMMTは間違いであり、
2021-06-20 19:27:03(続き)変動相場制が政策スペースを最大化するというMMTの主張は欺瞞であり、"MMT的政策”はアメリカにしか適用できない。。。 全体的な論理に無茶がありどこから手をつけたものか悩ましいのだが、とりあえず、変動相場制を採用した場合、ソルベンシーリスクがないことはどの国でも事実であろうから、
2021-06-20 19:28:43(続き) 自国通貨建て決済を変動相場制下で行う限りデフォルトリスクは0であるとするMMTの主張は、当然アメリカ以外の通貨主権国では成立することになる。 問題になるのは、そもそも政策スペースが最大化されたとして途上国や最貧国では得られる財やサービスに制約があることであり、また、
2021-06-20 19:30:20(続き) キャピタルフライトなどによって為替および金融不安が惹起されることであるだろうが、そのことは変動相場制による政策スペース最大化の話とは関係がない。 国際金融規制の望ましいあり方については、別途語るべきであり、Wray(2016)も補足的に触れるのみであるし、それが正しい対応であろう。
2021-06-20 19:32:38当然Wrayは、途上国や最貧国がより望ましい生産・経済体制を希求するにあたり、貿易を管理すること、資本移動を規制することが妥当となりうることを留保している。 Epsteinは、言及が限定的であることそれ自体に憤っているようだが、”全て”を語らなければ不合格とするのは流石に狭隘すぎるであろう。
2021-06-20 19:35:16Wray(2016)の以下の文言通りの感想である: 『正直言って、ネパールは変動相場制にした方がよいのかどうか、私には分からない。世界の最貧国の多くにとって、為替相場制度はさほど重要な問題ではないのではなかろうか。MMTの批判者は、このようなケースを指してMMTが間違っている証拠だと言う。……
2021-06-20 19:37:54…. 彼らは、貧しい国々が直面する問題の解決策を見つけてみろと我々に迫る。MMTが、途上国が直面している複雑な問題に対して単純な解決策を見つけられなければ、とにもかくにもMMTは間違っていると言う。まったくもって奇妙な主張である。』
2021-06-20 19:38:23以降でWrayは以下のように論じている: ・通貨主権・変動相場制下で途上国政府は自国通貨建てで購入できる全ての資源にアクセス可能だが、逆に言えばそれだけであり、望むもの全ては得られない。 ・固定相場制にした方が輸入は増やせるかもしれないが、不完全雇用や外貨デフォルトリスクに直面する。
2021-06-20 19:41:18確かにEpstein(2019)の主張通り、途上国の為替・金融的安定のためには、資本規制は重要そうに思える。途上国の生産力を育成するにあたり、貿易管理や産業政策の強調は妥当になりうる。 しかしそれは、Wray(2016)でも当然確認されている点である。 本来、批判点には出来ないポイントのはずだ。
2021-06-20 19:47:49で、「それはそれとして」、変動相場制が途上国の政策スペースを最大化し、少なくとも政府のソルベンシーリスクを0にする(外貨債務を抱えた自国銀行を救済する、などとなったら話は別だが)という命題は成立する。 Epsteinは、この点を正面から論難することを巧妙に避けているようにすら見える。
2021-06-20 19:52:24これも不思議なのだが、Epsteinは「開発途上国と新興国において変動相場制はうまく機能しない」と断言する一方で、続いて引用するエビデンスは一般に、変動相場制が(固定相場制よりも)国際資本によるショックを比較的軽減することを示している。それでもゼロにならないからEpstein的にはダメらしい。
2021-06-20 19:55:14俗な物言いをすれば、MMTが実質的に主張しているのは、「固定相場制なんかよりも、(雇用やソルベンシーリスク、政策スペースにおいて)変動相場制の方がマシ」ということである。 途上国それ自体の(特に貿易上の)生産力不足や国際資本移動による問題は別の議論のはずで、混同されてはならない。
2021-06-20 19:59:36失礼、これはWray(2015) (金ピカ本の方の)の文言であった。 twitter.com/motidukinoyoru…
2021-06-20 20:08:44Epsteinは、「変動相場制のもとで通貨主権国の政策スペースは最大化される」というある種自明の論理が理解できていないので、「MMTはハードカレンシー国、特にアメリカにしか適応できない。そしてアメリカの基軸通貨国としての地位はこれから不安定になるので……」という無為な議論に沈んでいく。
2021-06-22 18:43:58基軸通貨ドルに関するEpsteinの論説は、いくつもの混乱が見られる。 Epsteinは(MMTが主張するような)FRBの低金利政策により、①海外のドル借入が増加し、そして②総需要膨張→インフレによる経常収支赤字膨張→ドルの基軸通貨地位の瓦解 が生ずるとしているが、
2021-06-23 10:29:53海外部門によるドル借入と支出が増幅するなら、むしろ海外からの収入がある程度確保され、経常収支赤字は抑制される。 無論、これは不安定であるため、海外の信用不安により、むしろドル建て純資産需要が増え、それを満たすためにアメリカはさらなる経常収支赤字計上を強いられることになるが、 pic.twitter.com/3N8s1bUtgm
2021-06-23 10:33:33