びっくりするのでユートピア（レミ+咲）

ハチ🐾 @hachisu716

レミ「駄目そうだった」 霊「変な想像させないでよ……」 霊夢が若干苦々しげにどこかよそを見る。 魔理「お前がシミュレートするとは意外。照れてんの」 霊「はっ」 鼻にしわを寄せて笑う霊夢に、魔理沙がけらりと笑う。

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魔理「なんかさー、もう今ので驚かなきゃ、なんでもダメって気がしてきた」 椅子の背に身体をあずけ、片腕をその背の裏に回したはすかいな姿勢をとった魔理沙が、片手で紅茶をぐいっと飲む。 魔理「なんかもう、お前が自分のためになんか仕掛けてきたって時点で、たぶん喜んじゃうだろ、あいつ」

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あいつ、お前のこと大好きなんだから。 特に掛け値なしの気持ちで魔理沙がそう言うと、レミリアはちょっと目を丸くして、それから口をすぼめて、きょろきょろと視線を動かす。最後に、すぼめて力を入れていた口唇が緩んで、へへ、と照れたように笑う。

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そういうところに、妙に愛嬌あるからダメなんだよ。と魔理沙は思った。面倒でなるべく静観している霊夢も思った。咲夜のように、多少屈折した愛情でも受け入れて「愛されてるんだなあへへ」と照れ笑いするような、どこか隙のある、大らかな主だからこそ、一度懐いた猛犬は、底しれない愛情を見せるのだ

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うーん、とそれぞれにまた一応の思案の沈黙が降りる。 レミリアがレミリアである限り、咲夜に何をしても驚かない（どころか、すごく喜ぶ）というのなら、レミリアが咲夜を驚かせるという企画自体が、根本から不可能だ。 そんなことを考えながら、しばらくして。 霊夢が、あ、と声をあげた。

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魔理沙とレミリアがそっちを見る。 思わぬ注目を集めてしまった霊夢は、いや、と大したことじゃないんだけど、と肩をすくめた。 霊「思ったんだけど。レミリアがレミリアである限り驚かないっていうんなら、レミリアじゃなけりゃいいんじゃないの？」 魔理沙がん？という顔で片眉をあげる。

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魔理「わたしらがやるってことか？　レミリアが自分で驚かせたいのに、わたしらがやったら意味ないだろ。それはそれで驚かしかた分かんないし」 レミ「わたしが変装して、ってこと？　馬になるのはいやだよ。他のものをかぶったところで驚かなさそうだし」 魔理沙とレミリアがねえ？と顔を見合わせる

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ううん、そうじゃなくて。と案外息が合うらしい妙に仲のいいふたりに、霊夢は首を振った。 霊「レミリアって、なんか、その気になれば姿を変えられるって言ってたでしょ。なんていうか、もっと根本から。例えば、子どもから大人の姿みたいに」

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きょとんとして大きな紅色の眼をぱちぱちとさせていたレミリアは、ああ、と合点がいく。 レミ「そうだ。そんな話もしたっけ……そうだね、昔はよく大人の姿になって、パブに行ったよ。なんせ幻想郷と違って、年端もゆかない子どもが酒精を嗜むのには、やさしくない世界でね」

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そうだった、そうだった、とレミリアは小さな掌で、ぽんと小さな拳を受け止める。 レミ「美鈴とそれで何軒も回って、外へエールを飲みに繰り出したり。そんなこともあったね。懐かしいなあ。今はその必要もなくなった。とんとしなくなった悪ふざけさ。あの頃は美鈴もわたしも、若かったな」

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霊「そう、それなのよ」 人の年齢に当てはめれば１０にも満たないような小さななりをして、これで齢５００年。案外思い出の多いレミリアの話が長引きそうだったところに、霊夢が口を挟む。 霊「こっちに来てからはその姿になってないってことは、最近雇った咲夜も見たことないんじゃない？　どう？」

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魔理「っていっても、別にこっちに来てから咲夜を雇ったわけじゃないんだし、咲夜が見た可能性自体はあるんじゃないのか？」 レミ「あー……いや、…………」 顎にゆるく握った拳を縦にあて、考え込むレミリア。

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レミ「……どうだろう。メイドをちゃんと雇ってからは、そんな風に繰り出した記憶はないような気がする。なんせ、人間を雇うなんて初めてだったし、わたしが家を空けて何があるか分からなかったし」 それに、十六夜咲夜と名を与えたその人が、可愛くて仕方がなかったから。

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人間といるより、妖怪と過ごすほうがウマが合うほど、妖怪に思考が馴染んだ人間。いや、妖怪である自分ですらも、突飛に思い、面食らう人物。 そんな人が面白くないはずがない。 今までどんな生き方をしてきたのか。 好きな食べ物は？ 好きな色は？ どんなことが趣味？ カードゲームは嗜む？

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どんなことができる？ お酒はたくさん飲める？ 煙草（シガレット）は喫（の）む？ どの店のフィッシュ＆チップスが好き？ 調理用林檎（クッキングアップル）はどの程度煮込んだのが好き？ トーストにバターは塗る？ それともマーマイト派？

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聞きたいことはたくさんあった。 共にしたいことなら、なおあった。 咲夜が来てからのレミリアは毎日うっとりと愛しの姫に声をかける王子様よろしく、 あるいは、生まれて初めて飼う仔犬に自身がはちきれんばかりの尻尾を振るように愛情を注ぐ小さな男の子のように、

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咲夜に語りかけ、愛を謳う詩人のように、咲夜へと向かう心を伝えた。 そうして熱心に熱心に、あまり心から笑わない──生きるための手段として、必要ならば社交的な笑顔を突然ラジオの周波数でも切り替わるように向けることはあったが──咲夜にくっついて、ついていって、言葉を交わすうち。

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なんだか。 ……なんだかいつでも、隙あらば自分を、問わぬ手段で驚かせて愉しむ、やけに茶目っ気たっぷりで、妙に剽軽なメイドが出来上がってしまっていた。 ……なんだかなあ？ と今に意識を戻して、レミリアは首を傾げる。 どうしてこうなった。 前はあんなに、心が遠かったのに。

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なんだかよく分からない。 だけどなんだか、とてもいい感じになったと思う。 きっと楽しいんだろう。わたしを驚かせることが。 だから、きっと楽しいんだろう。わたしたちと共に生きる、今が。

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懐かしく眼を細めたレミリアが、思わずくすりと笑う。 レミ「……そうだねえ。たぶん、咲夜が来てからは咲夜のそばを離れなかったと思うな。だから、咲夜の前ではこの姿を変えたことはないかも。そうか、もうそんなに前のことか」

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過ぎた年月の中で移り変わっていったものを懐かしむレミリアに、霊夢が頷きながら口を挟む。 霊「そうだと思った、なんとなく。だからね。レミリアが、急に大人の姿になって咲夜の前に現れたら」 魔理「……咲夜はびっくりする？　レミリアだけど、レミリアじゃないから」

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隣で無意識にレミリアと同じようなポーズをとっている魔理沙が、顎に拳を当てたまま考え込んで首を傾げている。 魔理「……それ、ありだな。一番可能性あるかもしれない。レミリアっぽいんだけどレミリアじゃないってのがポイントだな。あいつには一番ききそう」 どうよ、と魔理沙がレミリアを見る。

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レミ「……うーん最近やってなかったから、ちゃんとできるかなあ」 と、レミリアが言った瞬間。 ふと、風が吹いた。 ひゅ、と突然吹いた強い風に、魔理沙が飛ばされそうになった帽子を目線で追いかけ、はっしと掴む。 思わず霊夢も目で追って、それを見た。 そして、ふたりが視線を戻すと。

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そこには、誰かが座っていた。 レミリアが先ほどまで座っていた場処に。 先ほどまでの魔理沙と同じように、ゆるく握った拳を縦にして顎にあて、わずかに首を傾げるように座っている、そのひと。 歳は人間にして20代半ばほどだろうか。

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フリルのたくさんついた、誰もが思う、いかにも「お嬢様」らしいドレスを着たレミリアとは違い、そのひとは白いブラウスに、臙脂のベストを着込んだだけの、シンプルな出で立ちだ。下はスカートではなく、細い脚の形に合わせた、ほっそりと黒いパンツ姿だ。