ストレイトロード:ルート140(57周目)
- Rista_Bakeya
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古い日記の持ち主はあまり屋敷の外に出なかったらしい。黙読した藍の感想は「退屈」から始まった。「でもここだけ違う。お祭りか何かあったみたい」調べてみると、著名な政治家が遊説でこの地域を訪れた日付と合致した。月日だけの記述に年が加わるだけで事情が見えた。これは飛行できた時代の記録だ。
2021-06-27 19:42:08隠し扉から地下室までの通路にヒントが落ちていた。薬の袋、臭い消しのハーブ、部屋の端から漏れ出た黒い染み。「人がいたのね」答えに気づいた藍が言葉を止めた。まだ空に怪物がいなかった時代、そう呼ばれ人目から隠された彼らは、恐らく病や別の困難を抱えていた。予後は決して良くなかっただろう。
2021-06-28 18:46:38森の方で爆竹のような銃声が轟き、鳥が一斉に飛び立った。自首を拒み逃げた男かと尋ねると藍はうなずいた。「お望み通り、仇に出会えたみたいね」怒りか焦りに任せて武器を乱射する姿が容易に想像できた。だが相手は固い表皮を纏っているはず。もし群れに突っ込んでいたなら、無謀どころの話ではない。
2021-06-29 22:04:56麓の村では水だけを補給し、より大きな街に着いてから調査を始めた。藍はネット上を漂う噂を、私は公的な記録を。だが疑惑の団体は十数年の間に離合集散を繰り返しており、正体に至る情報は結局掴めなかった。「絶対バレない自信があったから、ろくに片付けもしないで逃げたとか?」唸るしかなかった。
2021-06-30 19:12:03「見てて」藍が階段の装飾に手をかけた。「わたしじゃなくて、あっち」しきりに階下を指すので従った直後、背後でギシギシと音がした。回り始める歯車を連想しながら見ていると、離れた壁の一部がひとりでに上へ移動し、地図にない空間が現れた。彫刻に紛れた仕掛けが隠し通路の扉と連動していたのだ。
2021-07-01 18:53:49「保護したからには飼うしかないだろう!」鶏小屋の主が建てていたのは怪物を匿う「小屋」だった。だが牛馬や鶏のようにはいかないはず。懸念を伝えようとして、藍に袖を引かれた。「もういるのよ。ケガした子が」「だいぶ元気だしここにも慣れた、何なら乗れる」彼は実演してくれた。派手なロデオを。
2021-07-02 18:47:56警察の目を掻い潜って建物を脱出し、すぐその地区を離れた。車中で藍は見慣れない端末を操作し始めた。依頼人の学者が連行された隙に端末を持ち出したらしい。「趣味で集めた音声データの中に証拠を隠したんだって」ほとんどは話芸の達人が残した語り聞かせの記録だという。だから声を抑えて笑うのか。
2021-07-03 18:48:44プランターに小さな苗が並ぶ。どれも同じ草花の葉や茎だった。「挿し芽といって、種がなくても株を増やせるんだよ」先日の騒ぎで貴重な植物を集めた植物園が被害を受けた。生き残りを各地に移送する作戦を私達も手伝うことになり、まず藍に一鉢が収められた箱が手渡された。「この赤い芽、今動いた?」
2021-07-04 19:12:36140文字で描く練習、2844。挿し芽。 提供: @raaaaaaaaaaaa14 恒例のリクエスト週、ありがたいことにいつもよりお題が集まったので、ちょっと長めに展開します。
2021-07-04 19:12:36街路樹の一本に登る少女がいた。藍が風で注意喚起し、滑り下りた背中を私が受け止め着地させた。「あれを取りたいの」枝に引っかかる赤い風船、ではなくショルダーバッグ。落としたそれを運良く発見したが、大人さえ手が届かない。「どうしてあんなところに投げちゃったの」「違う。中で何か動いてる」
2021-07-05 18:54:27140文字で描く練習、2845。ショルダーバッグ。 提供: @yumemiya_kuku バッグの木登り。 在来種の仕業ならまだいいけれど。
2021-07-05 18:54:27「大変なことになっとる、このままではあかんと思ったわ」賑やかな酒場を一際大きな声が圧倒した。藍の顔がひきつる。うるさい、と叫びかけて我慢したようだ。「ちょうど目についたちんちんのやかんを、こう、投げつけた!」立ち上がった男が実際に振りかぶり、木の器を投げた。怪物ではなく私の方へ。
2021-07-06 19:37:58140文字で描く練習、2846。ちんちんのやかん。 提供: @H_tousokujin ※「とても熱い」という意味の方言 突然の名古屋弁。ということは台詞固定、では誰の発言?そして他の部分をどうしゃべらせる?……というのが二大悩みどころ。 結果、やっぱり不自然なしゃべりかも。すみません。
2021-07-06 19:37:58街道を上るとき、その場所には仮囲いしかなかった。下りの車窓からは立派な屋根が見える。怪物の足場にされたという建物の修復工事は佳境を迎えていた。「元通りですね」「いいわねー、順調そうで」運転中で隣を見られなくても、藍が口を尖らせていると分かる。予定では彼女の作戦も佳境のはずだった。
2021-07-07 21:03:17山から押し寄せる怪物の群れを突然の落石が塞き止めた。居合わせた風の魔女は関与を否定した。「だったらこれは誰の奇蹟なのか、ああ、まさか」集落の住民が口々に祈りを捧げたり歓声を上げたりする中、藍は彼らの後ろを見ていた。走って遠ざかる少年がいた。「祭り上げられたくない気持ちはわかるわ」
2021-07-08 18:47:33宿に着いてから藍の機嫌が悪く、まともに会話もできないまま個室に籠られてしまった。しばらくして様子を見に行くと、彼女は机に伏してうたた寝していた。手元の端末にテキストが表示されている。『あれは騒ぎにしたいだけの記事だから反応したら負け!そっ閉じして寝よう』そっと外に出て扉を閉じた。
2021-07-09 18:56:28