kawaitoshio archive 2017

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川井俊夫 @toshiokawai1122

クソったれめ。考えていた以上に手強い。ゴミの山。暗闇。鼠の糞。獣の小便。虫の死骸。蜘蛛の巣と埃。床板が冷たい。大気がやたらと水分を含んでいて、糞まみれの上着一枚じゃそろそろ限界だ。夜明けを待って、写真だけ撮って帰ろう。こいつは嫌な予感がする。

2017-01-04 04:39:54
川井俊夫 @toshiokawai1122

少し休憩が必要だ。俺だってもう四十だぞ? 何日も風呂に入らず、朝から晩まで車で走り回り、廃屋や民家の片付けをしまくるのは無理がある。足腰もガタガタだし、車もへこたれそうだ。悪夢。いや、生の実感がある。俺は社会の敵、群れの簒奪者、泥棒みたいな稼業はとことん向いている。最高だ。

2017-01-06 12:51:11
川井俊夫 @toshiokawai1122

肉と米を食い、風呂に入り、12時間ぶっ通しで眠った。また身体が動く。俺はどうしようもないほど頑丈に出来ている。嫌になるくらいにな。 話を整理しよう。

2017-01-08 11:41:48
川井俊夫 @toshiokawai1122

俺が今月中に終わらせなきゃならない仕事は二つある。一つめは民家の片付け。別にコレクターの遺品整理でもなけりゃ資産家の古美術品の買取でもない。ただの婆さんのマンションの片付けだ。ひたすらゴミを捨てまくる。だが大当りってのは、何処から出てもおかしくはない。可能性はゼロじゃないわけだ。

2017-01-08 11:46:57
川井俊夫 @toshiokawai1122

宝クジよりはマシな確率だ。俺はクジを買う側、婆さんはクジを売る側。それだけの話だ。金は1円も取らない。俺はクジが当たるのに賭ける。婆さんは大喜びだ。片付け屋に頼んだら、何十万も請求されるんだからな。俺は粛々とゴミを片付けまくる。半端な量じゃない。車で十何往復も必要だ。

2017-01-08 11:50:43
川井俊夫 @toshiokawai1122

この仕事で俺をイラつかせるのは、婆さんの娘婿の存在だ。素人のくせにアレコレ欲を出してくる。 いいか、よく聞け。どんな家からでも大当りが出る可能性はある。ボロアパートでも豪邸でも廃屋でも団地でも建売住宅でもな。何処から出るかは誰も分からない。プロでも神でもだ。

2017-01-08 11:55:16
川井俊夫 @toshiokawai1122

だがな、その大当りの「道具」が何なのか、それはわかるんだよ、俺には。一応それが商売だからな。だからその百貨店で買った安物のマイセンや、死んだ旦那が東京の蚤の市で買った伊万里、備前、楽茶碗、下手くそな扁額、掛軸なんかは、全部ゴミなんだ。アンタがいちいち欲を出して確認する必要はない。

2017-01-08 11:59:20
川井俊夫 @toshiokawai1122

婆さんは女だから、古いブランド物のハンドバッグや装身具を娘に渡してやりたいだけだ。それは俺が見つけたらちゃんと渡してやる。娘婿のボンクラは黙って昼寝でもしてりゃいい。婆さんの介助とかな。 もう一度言うぞ。 大当りはどんな家からも出る可能性はある。だが、そんなもんは見りゃわかる。

2017-01-08 12:06:01
川井俊夫 @toshiokawai1122

億が付くようなモンは限られている。大抵は紙だ。古い洋画か抽象の絵画、中国の巻物。そんなもん、見りゃわかるに決まってんだろ。数千万、数百万、これは焼き物でも可能性はある。元の染付、清代中期、龍の五爪のバチっとした奴だ。もちろん宝クジよりマシだってだけで、そこら中にあってたまるか。

2017-01-08 12:11:16
川井俊夫 @toshiokawai1122

中国磁器の話をしようか。清代中期ってのは、骨董って意味じゃ若い。つい最近みたいなもんだ。だが、数百年、千年近くにも及ぶ中国の焼物の歴史の中で、遂に頂点を極めた、究極の完成度を誇る、最高の出来栄えのものだ。それはそのまま世界一を意味する。世界一の磁器。それが清中期の官窯磁器だ。

2017-01-08 12:15:31
川井俊夫 @toshiokawai1122

そいつを探してる(確率はクソほど低いが)俺に向かって、そこらの蚤の市で買った伊万里や土産物の九谷なんかを指差して「こんなのは、そこそこ値のするものとちゃいますの?」じゃねえんだよ。このクソボッコのボケナスが。扁額だと? そいつは亡くなった婆さんの亭主の恩師の遺墨だろうが!ゴミだ!

2017-01-08 12:20:36
川井俊夫 @toshiokawai1122

一つめの仕事はそういうことだ。ゴミ掃除。脚の悪い婆さんの代わりに家を空っぽにする。婆さんは生まれて初めて関西を出て東京で長男と同居する。今のところクジは全部ハズレだが、俺は最後まで諦めない。俺にとってはゴミだが、婆さんにとって大切な何かもついでに探してやろう。手間は同じだ。

2017-01-08 12:26:11
川井俊夫 @toshiokawai1122

仕事の二つめ。こいつも厄介だ。北近江の山奥の一軒家。200年間増改築を繰り返し、土地建物の権利もコロコロ変わり、まったく正体不明だ。築100年を軽く超えてる部分もあるし、昭和に建てた部分もある。庭も広いし納屋や蔵、脱穀用の巨大なスペース、商売屋だった頃の倉庫、とにかく滅茶苦茶だ。

2017-01-08 12:34:05
川井俊夫 @toshiokawai1122

建物の中は全部調べた。ゴミしか残っていない。泥棒か骨董屋、或いは泥棒の骨董屋、コロコロ変わる土地建物の抵当者が持って行ったんだろう。 だが、奇妙だ。建物の貧相でオンボロな部分と庭の一部の豪華さがアンバランス過ぎる。増築した昭和のダサい住居部分の奥に何故か古い付書院がある。

2017-01-08 12:39:09
川井俊夫 @toshiokawai1122

蔵もそうだ。作りは立派なくせに農具しか入っていない。何もかもが奇妙で、調べてみる価値があるような気がする。予感だ。だが、今の時期の北近江は天気がクソみたいに悪い。晴れた日の明るい時間に全容を確認したいが、なかなかチャンスがない。

2017-01-08 12:45:26
川井俊夫 @toshiokawai1122

今日も明日も雨か雪だ。図面や資料がなくても床下や梁の上に登ればわかる事もある。礎石。古い基礎。少し高い所から見渡せば、作った人間の意図も分かるだろう。それがヒントになる。戦争中、誰が疎開していた? 何処に何を埋めた? 蔵の正確な築年数はどれくらいだ? 庭の石の産地は?

2017-01-08 12:50:40
川井俊夫 @toshiokawai1122

調べることは山ほどある。だが、天気がクソ過ぎる。敷地の外を綿密に調べるには晴れて霧もなく、明るい必要がある。そして遠い。家から二時間以上かかる。ようするにクソだ。

2017-01-08 12:53:33
川井俊夫 @toshiokawai1122

ついでに、石に詳しい奴を募集中だ。庭石や鑑賞石、鉱物の産地なんかだな。特にそういう趣味がなくても大学で地質を習ったとか、鉱物の組成からある程度種類や環境を推測できるくらいの知識のある奴だ。アドバイスを頼む。儲かったら金は払う。

2017-01-08 13:00:41
川井俊夫 @toshiokawai1122

妻が急に熱を出したから、救急病院へ。と思ったら俺の車は明日の朝一で大量のゴミを処理場に持っていく為に、助手席まで隙間なくゴミで満タンじゃねえか! ヘイ! タクシー! 完全に金の無駄だ! 俺は本当にこう、マヌケな星に生まれついたみたいだな。

2017-01-08 23:45:43
川井俊夫 @toshiokawai1122

というわけで妻はインフルエンザだったわけだが、別に俺にできることは何もない。予定通りゴミを捨て、山奥の廃墟を探索するだけだ。 ところで中国美術の伝統的な文様に、饕餮というのがある。魔除の怪物なんだが、枕元に置いておいたら逆に悪夢を見そうでなんか笑える。でも俺は好きだ。 pic.twitter.com/51LMWnzola

2017-01-08 23:56:21
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川井俊夫 @toshiokawai1122

嗚呼、マジで身体が限界だ。「レトロ感たっぷりのシャビーでオシャレなビンテージミルク缶、ガーデニングや傘立て、インテリアにいかが?」じゃねえんだよ! クソみたいな山奥の納屋の二階からその巨大なミルク缶とやらをドカドカ放り投げて、やけくそに車に積んでる俺の姿を想像してみろ! 死ね!

2017-01-09 23:30:03
川井俊夫 @toshiokawai1122

一つ投げれば3000円、二つ投げたら6000円、三つ投げれば9000円、四つ投げれば…と呪いのように呟きながら、ひたすら雨の中、無人の廃墟で作業をする四十男。クソったれの鉄屑が! 何がシャビーじゃボケ。こちとらもう腕が上がらねえんだよ!おまけに身体中蜘蛛の巣とネズミの糞だらけだ!

2017-01-09 23:37:03
川井俊夫 @toshiokawai1122

しばらくは婆さんのマンションに集中しよう。横着して全部ゴミに出したり、リサイクル屋に持っていくと何かを見落とす可能性もある。丁寧に、慎重にだ。25年前、商売に失敗して家屋敷をたたみ、身軽になってから引っ越ししてる。古いものは残っていないだろう。だが、うーん、それにしてもだ。

2017-01-11 04:03:56
川井俊夫 @toshiokawai1122

今のところ戦前のものすら出ていない。ちょっとした小物や戦争関連のものもだ。なんとなくだが、婆さんの性格を考えると不自然だ。嫁に来る前の五條の実家や、自分の少女時代を懐かしむ。金めのものが無いのは分かるが、もっと個人的な何かはあって然るべきだろう。だが、見当たらない。

2017-01-11 04:15:10
川井俊夫 @toshiokawai1122

俺は何かを見落としているのか? どうでもいい近代文学の全集に混じって、哲学、法学、美術関連の本があった。奇妙な組合せだ。中に何か挟まっているのか? 骨董は諦めて、次に俺が欲しいのは、戦前の写真類、軍装品、個人装備、あとは何だ? ガラスか? 神戸だからな。ガラスも有り得る。

2017-01-11 04:22:02
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