ヴェルヴェット・ソニック #1

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガラス張りでネオサイタマを見下ろす一室、重役が椅子を回転させてサロウを見た。不審者に対し秘書が慌てて警報を押そうとして、「アバーッ！」痙攣した。サロウは秘書を指差した指を重役にスライドさせた。「アババーッ！」痙攣する重役のもとまで歩いていき、両手で頭を押さえた。「ゴメンね」　23

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0100101……サロウは重役ジョウナンジ・ヨムテル氏のニューロンに侵食し、そこからオヒガンに飛翔した。かつてハッカーだったサロウは、ニンジャになった際に何故かLAN直結の力を失った。恐らくそれは彼が得た力と干渉関係にあるのだろう。彼はUNIXではなく他者のニューロンを端末に、飛ぶ。　24

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0100101……UNIXデッキは素晴らしい。人を死なせずにインターネットができるなんて、文明は優しい。脳ニューロンのコトダマ接続は、壊してしまう……0100101……冷たい黄金立方体の見下ろす無限の地平に、サロウは浮かんだ。目の前に脚を組んで待っていたのは、愛しいオモイ・ニンジャ。　25

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「何の用？なぜ呼び出した？」オモイ・ニンジャはサロウを睨みつけ、三つの瞳を回転させた。思いのほか冷たい反応を返したので、サロウは傷ついた。しかし彼女は美しかった。髪を左右で結び、エナメルのドレスを着ている。「その、用は……俺、死にかけた……」「アンタねえ」オモイは溜息をつく。　26

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「次がアンタの番になる事は、アタシがオミクジに干渉して確定させたよ」オモイは何でもない事のように言った。「星辰とかウケル。どうでもいいし。マークスリーが獣を結構傷つけたンだから、今がチャンスだよ」「で、でもさ、あの獣のニューロンをそう簡単に壊せるとは思えない」サロウは俯いた。27

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「七人でパーティープレイした時、俺は確かにニンジャスレイヤーのニューロンに触ったよ？だけどさ……あの時、俺、本当はちょっと引っ掻いて、バックドアを作っておきたかった。後々の為にね。だけど即座にハネつけられてさ。確かにニンジャ相手は難易度上がるけど、あんな事、なかなか無いから」　28

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「自信がないんだね？」「そうだよ」サロウは髪をいじった。「ニンジャスレイヤー、俺はナメてないよ。あのまま七人でやれば殺しちゃうから加減してやるとか、そういう考えの奴も居たけどさ……なにか……ヤバい扉を開きそうになってた、俺達」「そりゃそうよ。弱かったら狩りの獣にならないでしょ」29

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「だけど俺、後方支援型なんだよ」サロウは言った。「俺……もっと準備したかったな」「待ってりゃ対策立てられた？どうだか」オモイは厳しく言った。「そんな勤勉な奴じゃないよアンタ。今までの日数で、何やった？」「それは……」「それにアタシ、アンタが死んでも、別にどうでもいいし」「え」　30

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「ズガタッキェーだよ？アタシがこんな卑近な人格とルックスになってるからって、ナメてるでしょ？神サマみたいなものなんだから、実際」「でも……俺とファックしてくれたじゃない」「ファックとか言うなよ」オモイは呆れた。そしてサロウを膝に寝かせて、頭を撫でた。「頑張りな、できるって」　31

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「やれるかな……」「できる、できる」「ネオサイタマ、マジで恐ろしいよ。正直ベルリンに帰りたい」「大丈夫、大丈夫」「大丈夫……」「大丈夫」「大丈夫になってきた」サロウは目を閉じた。するとそこは灰色の重役室、目の前には頭を吹き飛ばされた重役の死体。サロウは肩を落とした。　32

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【NINJASLAYER】

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「壮絶なるイクサでしたね。命の衝突、そして燃焼、ここからも見る事ができました。……あのようなものが生まれる程の」ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。遠い空に固定された、オリガミ。ドラム缶焚き火にあたる浮浪者は彼らの視線に誘導されて空を見、口を開けた。「なんじゃ、ありゃあ」1

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朝の空に不気味な赤黒の影が固定されている。「またどっかの企業が広告やってら」「下まで行けばドリンク配られッかね」「罠かもよ」浮浪者達の会話をよそに、シナリイは言う。「明らかに異質な力であり……間違いなく貴殿が作り出したものです」「知るか」ニンジャスレイヤーはシナリイを睨んだ。　2

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「然り、貴殿は何も知らぬ……」シナリイはけぶるような目を細める。「平安時代、邪悪なる破壊者はソガの治世を脅かした。モータルの怨嗟より生まれし正体不明のニンジャはダイカンを殺し、果ては都を守護するシテンノを殺し、英雄ヤマト・ニンジャに仕留められた」「昔話はどうでもいい」　3

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「どうでもよくはない……」シナリイは薄く笑った。「邪悪なるソウルは今の貴殿に繋がる力なのですから。それが我が同胞を大勢殺し、フフフ……彼の愛する者の命を奪った」「彼？」「これについては実際どうでもよい話。しかし、過去より来たる力は、貴殿の敵も同じ。ダークカラテエンパイア」　4

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禍々しい響きであった。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。そしてその時、彼は奇妙な感覚にとらわれた。周囲を見渡すと、この一角は奇妙にささくれた空気の壁に隔てられているのがわかった。「なんじゃ？」「朝靄かね？」浮浪者達も訝しんだ。シナリイが手を動かす。ニンジャスレイヤーは掴んだ。　5

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「何だ、これは」「申し訳ないが、私の存在を彼奴らに気取らせるわけにはゆかぬ。貴殿と話すにあたり、この場所を迷い路に切り離しました。……手を離してくれぬか？」「こいつらに何をしようとした」「モータル？無論、消すのです。邪魔ですから」「よせ」ニンジャスレイヤーは手首を締め付けた。　6

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「解せない。モータル、それも、無力で、老いて、力なき者達ですよ。意味がありますか？」ニンジャスレイヤーはシナリイの言葉にもはや答えず、力を強めた。シナリイは溜息をつき、首を振った。「わかりました」浮浪者達は揃って座り込み、うなだれた。いびきが聞こえてきた。「……眠らせました」　7

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ニンジャスレイヤーは、じっとシナリイを睨んでいた。やがて解放した。シナリイはアルカイックな笑みを浮かべた。「あの男も、モータルには奇妙な親近の情を抱いている様子。私も今の世に生きるのならば、学ばねばならぬのでしょう……」「それが、身のためだ」ニンジャスレイヤーは低く言った。 8

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「さて。諍いはこの程度にして、まずは、お食べなさい」シナリイはニンジャスレイヤーの手に笹の葉の包みを置いた。「貴殿はひどく傷つきました。この迷い路に入り込む者はない。休むがよい」ニンジャスレイヤーは鼻を鳴らして笹の葉の匂いを嗅いだ。開くと、バッテラ・スシだ。「これで二度目です」 9

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ドラム缶の焚き火は灰色がかって、ぎこちなく揺れていた。ニンジャスレイヤーはシナリイを睨みながらスシを咀嚼した。シナリイは遠い目をした。「一度目は情けに過ぎなかった。カリュドーンの儀式はダークカラテエンパイアの無慈悲な遊戯であり、獣はただ狩られるのみ。それを哀れに思いました」　10

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「ならば、今回のスシは何だ」「貴殿のカラテを見たゆえ」シナリイは言った。「特に直近のイクサはめざましきもの。チャドーの奥義を凌駕する貴殿の猛々しき生命力に、私は感じ入ったのです。ただ狩られるを定められし哀れな獣にあらず、あるいは……。そのように認識を改めるに至りました」　11

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「貴様が調子に乗った傍観者気取りだという事しかわからんな」「……傍観の姿勢を、少し前のめりに致しましょう」シナリイの目に力が籠もった。「貴殿のカラテあらば、ダークカラテエンパイアに一矢報いる事ができるやも知れぬ。カツ・ワンソーの眷属どもに」「……」　12