ヴェルヴェット・ソニック #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「リアルニンジャの全てがダークカラテエンパイアに属するものではない」シナリイは首を振った。「私はかつてハトリに与し、その後の平安時代において、ソガの栄華を享受した。享楽と貪婪を極め、その果てに堕落し滅びたニンジャの一人です。インガオホーではありますが」他人事めいて言った。 13

2021-08-24 21:58:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ダークカラテエンパイアのニンジャは現世に帰還し、文明の爛熟を収穫する。それもまた避けられぬインガの巡りであろうか?しかし、我らがかつて滅ぼした者共の厚顔無恥なる捲土重来のさま、指をくわえて眺めておるのは、いかにも苦しき事なのです」「それで、おれに用か」 14

2021-08-24 22:05:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「すべを与えましょう」シナリイは言った。「貴殿の敵が滅ぶ事。それは我が喜びでもあります。なかば諦めた境地であったが、貴殿のカラテならば、あるいは」「……」「カリュドーンの儀そのものが、ダークカラテエンパイアの者らと、深く、避け難く結びつき、繋がっている。そこを衝くすべを与えん」15

2021-08-24 22:10:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ニンジャスレイヤーはシナリイをじっと睨んだ。シナリイは強調した。「正攻法にて、狩りに獣が勝つすべはなし。何故なら儀式の規範は畢竟、狩人側が定めておるゆえに。彼らの代理戦士すべて仕留めようと、狩りの終わる保証などありません。現に、新たな狩人が加わった様子……」 16

2021-08-24 22:17:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シナリイは表情を曇らせた。「彼奴らに真に一矢報いる為には、盤面を破壊せねばならぬのです」「ハナからそのつもりだ」ニンジャスレイヤーは言った。「下っ端を倒して終わらせるつもりはない。その先に居る奴を、潰す」ニンジャスレイヤーは言った。 17

2021-08-24 22:21:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「如何にして?」「……」ニンジャスレイヤーは唸った。シナリイは指差した。「見なさい」「……」ニンジャスレイヤーは懐に手をやった。異質な感触があった。ニンジャスレイヤーは懐からそれを取り出した。黄金のクナイであった。「それは現世の武器にあらず。言わば、オヒガンに突き立てる刃」 18

2021-08-24 22:24:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ふざけた真似を」「私はカリュドーンの儀式の中で観相を深め、ある仮説に至った。カラテの衝突、命の衝突が生み出すオリガミ。あれを貴殿が作り出している事は間違いなし。現世にありながら現世の力及ばぬ質量であり、現世にありながらオヒガンに突き刺さりし反自然の生成物」「このクナイは何だ」19

2021-08-24 22:29:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そのクナイにはセプク・オブ・ハラキリの名が与えられています」シナリイは言った。「平安時代の黄昏、ハラキリ儀式において我らが用いた祭器。狩人とのイクサを重ね、オリガミを生み出しなさい。恐らくいずれオリガミは臨界点を越え、オヒガンを強く揺るがす。その時にそれを用いよ」「どう使う」20

2021-08-24 22:33:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無論、セプクをするのです。ニンジャスレイヤー=サン」シナリイは言い放った。「そなたの命が、ソウルが、そなたのオリガミと共振し、現世とオヒガンの境に生じた亀裂を広げ、揺るがし、ダークカラテエンパイアの核に届く」「ふざけるな」ニンジャスレイヤーは言った。「刺し違えるだと?」 21

2021-08-24 22:39:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「必ずしも、そなたが犠牲となる事はない」シナリイは静かに首を振った。「ニンジャスレイヤー=サン。そなたの力の源は、そなたの外にある。そなたを通し、この地そのものがセプクするのです。さすれば、そなたは滅びぬ」シナリイの世界が霞んだ。「モータルの命を以て、太古の邪悪を滅ぼしなさい」22

2021-08-24 22:44:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは唸り声をあげ、シナリイの首元を掴もうとした。シナリイは銀河めいた瞳でニンジャスレイヤーを凝視した。「無論、私とて、これが最善手とは思わぬ。取り返しがつかず、何より、野蛮な手段です。だが、一矢報いる為の確たる手段が手元にあれば、見える世界も違ってこよう……」 23

2021-08-24 22:51:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーの指先の手応えが失せた。世界全体が瞬きをしたように、周囲の質感が明滅すると、シナリイの姿はなかった。彼が施した迷い路のジツも失われていた。ドラム缶の火は再び赤く燃えていた。空は暗く、時間の感覚は失われている。「おい」ニンジャスレイヤーは浮浪者を起こして回った。24

2021-08-24 23:00:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンあ」「なんじゃ、今何時じゃ?」「さっきの優男はどうした?」浮浪者達は目を瞬いた。「腹が減ったのう」「一つで充分だ」ニンジャスレイヤーは呟き、笹の包みを浮浪者に押しつけた。彼は振り返らず、細い路地の闇に進み入った。目の前にコヨーテが待っていた。「探したぜ」「……次は貴様か」 25

2021-08-24 23:04:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コヨーテはシルエットをねじ曲げ、人間に姿を変えた。フィルギアは気遣わしげにニンジャスレイヤーを見た。「今まで何処に居た。平気かよ?」「スシと時間はあった」「今、次は、って言ったか?さっきまで誰に会ってた」「シナリイだ」ニンジャスレイヤーは答えた。「お前の知った相手だったな」 26

2021-08-24 23:09:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイツ」フィルギアは表情を険しくした。「何を言ってきた?」ニンジャスレイヤーは黄金のクナイを示し、シナリイの「手段」をそのまま伝えた。フィルギアは眉間に皺寄せ、髪を掻いた。「ブルシットだ。アイツは……クソッ……ふざけやがって」「……」ニンジャスレイヤーは是も非も言わなかった。27

2021-08-24 23:15:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「コトブキ=サンは何処なんだな?」マルゲリータを称する具なしピザをセルフで温めながら、常連客のファット・ジャックが気にした。「ウルッセーゾ」タキはエッチ・ピンナップをめくりながら鼻をほじった。「コトブキ・サービスを受けた場合は、そのセルフも追加料金取るところだぞ。幸運に思えや」29

2021-08-24 23:19:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうか。安くなってラッキーなんだな」「そうだぞテメエ。ディスカウントだ」「やったあ。チーズがあって、美味しいなあ」ファット・ジャックはピザを頬張る。タキはモップの柄でファット・ジャックの尻を突き、押しのけた。「座ってろ。邪魔だ」「ヒップはやめて」 30

2021-08-24 23:20:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まったくウチはどうしようもなく繁盛店でクソみたいにウゼえ。副業だってのによォ!」タキはエッチ・ピンナップのページをめくり、腕時計を確認する。「まあ確かに遅せえわなァ」コトブキはマークスリーとの戦いの後で行方の知れぬニンジャスレイヤーを探し回っている……その時ドアベルが鳴った。31

2021-08-24 23:24:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アー」タキは口を半開きにして、開くドアを見守った。いい知れぬ緊張感。こめかみを汗粒が流れ落ちた。「……」入ってきて後ろ手にドアを締めたのは、「ピザ食べ終わり!」「ウルセーゾ!追加注文しろ!」「うん!」ファット・ジャックを叱りつけ、視線をドアに戻す。そこにはあどけない少女の姿。32

2021-08-24 23:29:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンン?」タキは目をすがめた。少女?いや、どこか様子が違う。むしろそれはコトブキに……いや、コトブキとも違う佇まい。だが、オイランドロイドである事は間違いなかった。薄緑がかったブロンドのショートヘアと、黒いボディスーツ。身体つきはシャープで、しなやかだった。タキは緊張した。 33

2021-08-24 23:33:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタは……」タキは何故かその時すぐにわかった。ハッカーの直感というやつだ。彼はツバを飲んだ。その間に、彼女のほうから話しかけてきた。「タキ=サン。物理世界でも元気そうね」「アンタは!」「私は、ナンシー・リン」カウンターに腰掛け、微笑んだ。「ニンジャスレイヤー=サン、居る?」34

2021-08-24 23:36:31