#今日の構造式 2(101-200)

佐藤健太郎先生による「今日の構造式」をまとめましたが、たくさんあるので100ずつに分けることにしました。 101-200までをまとめました。
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佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 104 炭素は結合の腕が4本というのが常識ですが、そう聞けば常識を打ち破りたくなるのが化学者です。実は炭素に水素が2つだけついた化合物もあり、カルベンと呼ばれます。ただし一瞬で反応してはかなく消えていく存在で、カルベンだけを取り出して性質を調べるようなことはできません。 pic.twitter.com/kStHrwCpoR

2021-02-22 20:41:55
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佐藤健太郎 @KentaroSato

しかし1991年、この壁が打ち破られました。カルベン炭素の両側を窒素で挟むと、やや安定化します。さらに、近くに大きな原子団をつけて反応しないようガードすると、結合の腕が2本しかないカルベン誘導体が安定に取り出せたのです。カルベンが結晶化できるのか!と世界の化学者がたまげました。 pic.twitter.com/AMCSYJmcTH

2021-02-22 20:42:20
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佐藤健太郎 @KentaroSato

この安定カルベンが持つ余計な電子対は、金属元素に結合して錯体を作るので、ここから優れた触媒がいくつも創り出されました。また、この電子対を直接利用した化学反応もいくつも編み出されましたし、今まで考えられなかった化合物も多数作られました。新しい化学種は、新しい化学を切り拓くのです。

2021-02-22 20:42:36
佐藤健太郎 @KentaroSato

(安定カルベンの反応とか配位とか、何か参考になるものないかなと思って探したら、自分で書いてましたね) labchem-wako.fujifilm.com/jp/siyaku-blog…

2021-02-22 20:44:09
リンク 試薬-富士フイルム和光純薬 【特別講座】N-ヘテロサイクリックカルベンの化学|siyaku blog|試薬-富士フイルム和光純薬 「【特別講座】N-ヘテロサイクリックカルベンの化学」。富士フイルム和光純薬株式会社は、試験研究用試薬・抗体の製造販売および各種受託サービスを行っています。先端技術の研究から、ライフサイエンス関連、有機合成用や環境測定用試薬まで、幅広い分野で多種多様なニーズに応えています。
佐藤健太郎 @KentaroSato

ところで最近はアミドのカップリングはHOBtやHOAtじゃなくOxymaというのがナウいと聞いたのですが、使ったことある方いますか。どんな感じなんでしょ。 m-hub.jp/chemical/4367/…

2021-02-22 20:53:22
佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 105 昨日は炭素の結合の腕2本が空いたものを紹介しましたが、1本だけ空いた形のものもあります。原子と原子が、お互い1つずつの電子を持ち寄って対になることで結合ができますが、それがぶっちぎれて電子1つだけを持った状態です。これをラジカルといい、図はメチルラジカルです。 pic.twitter.com/oeRerc7EVh

2021-02-23 21:02:09
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佐藤健太郎 @KentaroSato

radicalという言葉は「過激な」という意味がありますが、実際にラジカルは他の分子から原子をちぎり取るなど、過激な反応性を持ちます。なので体内で生成したラジカルは、DNAなど重要な分子を破壊してガンのもとになるなど、危険な存在です。そこで、体内にはこれを消去する仕組みも備わっています。

2021-02-23 21:02:30
佐藤健太郎 @KentaroSato

ラジカルの化学は意外に歴史が古く、1900年にゴンバーグが作り出したものが最初です。彼は炭素2つにベンゼン環が6つついたヘキサフェニルエタンを作ろうとしたのですが、失敗しました。ベンゼン環が大きいため反発して真ん中からちぎれてしまい、トリフェニルメチルラジカルができたのです。 pic.twitter.com/TRRMotCNJo

2021-02-23 21:02:50
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佐藤健太郎 @KentaroSato

トリフェニルメチルラジカルは、ラジカルの不対電子があちこちに分散できる構造であるため、ラジカルとしてはかなり安定です。こうした安定ラジカルから、酸化反応に用いる試薬や、強磁性体などが創り出されています。過激派も手なづけ方次第で、いろいろと面白い性質が引き出せるわけです。 pic.twitter.com/DMg25893PQ

2021-02-23 21:03:43
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佐藤健太郎 @KentaroSato

@ElekiTan まあ「比較的」安定ってことですね。結晶として取り出し、普通の化合物とそれほど変わりなく取り扱えるものもあります。

2021-02-23 21:14:05
エレキたん【節電・ピークシフト】 @ElekiTan

@KentaroSato 字面だけ見るとものすごい矛盾感ですね。 ラジカル(酸素とか)にもってたイメージが変わりました(^.^)

2021-02-23 21:17:02
佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 106 コレステロール。もともと胆石から発見されたため、胆汁(chole)+固体(steros)から命名されました。6-6-6-5の環が連結したステロイド骨格を持ちます。動脈硬化の原因として有名で、嫌われ者の化合物です。こうしたがっちりした骨格の化合物は、積み重なって固まりやすいのです。 pic.twitter.com/sH5Ngq0TQb

2021-02-24 23:33:40
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佐藤健太郎 @KentaroSato

しかし実際には、しっかりした細胞膜を形成するための成分などとして、生体内で重要な役割を持っています。このため体内では、30段階以上の反応を積み重ね、手間ひまをかけて合成されています。また、体内で各種ステロイドホルモンが作られる際の原料にもなるなど、生体に欠かせない化合物です。

2021-02-24 23:33:53
佐藤健太郎 @KentaroSato

ライニッツァーは1888年、コレステロールに手を加えた化合物の結晶を加熱すると、白濁した粘っこい液体になり、さらに加熱すると普通の液体になるという、不思議な変化をを見つけます。これが液晶が発見されるきっかけでした。現代社会を支える物質の発見にも、コレステロールは関わっているわけです。

2021-02-24 23:34:09
佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 107 本日は二酸化塩素。純粋なものは黄色っぽい気体です。この分子に含まれる電子は奇数ですので、対になれない電子がある――つまりラジカルの一種です。しかも塩素と酸素はいずれもマイナスに荷電しやすい元素であり、反発し合います。なので安定ではなく、反応性が高い化合物です。 pic.twitter.com/75goT1Um0a

2021-02-25 23:14:56
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佐藤健太郎 @KentaroSato

二酸化塩素は隙あらば他の分子と反応し、酸化してしまいます。細菌やウイルスの表面のタンパク質も破壊しますので、消毒薬として働きます。なので最近、この化合物を噴霧するなどして、「空間除菌」するという商品が出ています。ですが人体の主成分もタンパク質なので、当然二酸化塩素と反応します。

2021-02-25 23:15:17
佐藤健太郎 @KentaroSato

空中を漂うウイルスと二酸化塩素がぶつかって反応する確率は非常に低く、もしこの確率を高めるために二酸化塩素濃度を上げたら、人体が先にやられそうです。なので二酸化塩素を物品の消毒に使うのはまあよいと思いますが、空間除菌は勧められません。 buzzfeed.com/jp/yasumimorit…

2021-02-25 23:15:52
佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 108 以前、炭素原子に4種類の異なる原子(団)がつくと、その化合物には鏡像異性体が生じるといいました。これらは沸点や融点などは同じですが、味や匂い、薬効や毒性などは別物になります。しかし、これとは違うタイプの不斉な分子も存在します。その一例が、このビナフトールです。 pic.twitter.com/z17pisdVxW

2021-02-26 22:32:29
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佐藤健太郎 @KentaroSato

この化合物は2つのナフタレン環がつながっており、この軸を中心にねじれた構造をとります。そして環から突き出た水素やOH基が互いにぶつかり合うため、自由に回転することができません。よって、図左の分子は右の分子には変化できず、その逆も不可。これらは鏡像異性体ということになります。 pic.twitter.com/DDwieiVNV6

2021-02-26 22:33:03
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佐藤健太郎 @KentaroSato

この分子は、実はなかなか重要な使い道があります。鏡像異性体の一方の分子だけがほしいということは多いのですが、普通に反応を行なうと、両鏡像体が1:1で得られ、分けるのも大変です。しかしこのビナフトールをうまく使って反応を行なうと、一方だけをたくさん作ることが可能になります。

2021-02-26 22:33:29
佐藤健太郎 @KentaroSato

ビナフトールの骨格にリン原子を導入したものは、BINAPと呼ばれます。この化合物に各種の金属を結合させた錯体は優れた触媒となり、ほしい鏡像異性体を選択的に生産することが可能です。この業績により、野依良治博士は2001年のノーベル化学賞を受賞しました。化学の歴史に残る化合物の一つです。 pic.twitter.com/14VqhhmkXY

2021-02-26 22:34:26
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佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 109 頭痛持ちの筆者は、たまにこの化合物のお世話になります。一般名イブプロフェン、市販薬「イブ」などとしておなじみです。アスピリンより強い鎮痛薬を探索する中で創り出され、イソブチル(左側)+プロピオン酸(右側)+フェニル(中央)とパーツの名前を並べて命名されました。 pic.twitter.com/E7h7Ywmoph

2021-02-27 21:23:34
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佐藤健太郎 @KentaroSato

以前紹介したプロスタグランジンは、炎症の発生や痛みの伝達に関わる物質です。イブプロフェンは、このプロスタグランジンを作る酵素シクロオキシゲナーゼのはたらきをブロックすることで、炎症を鎮めます。アスピリン、ジクロフェナク、インドメタシンなどと同じカテゴリーの医薬品です。

2021-02-27 21:23:54
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