ヴェルヴェット・ソニック #5

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エッ！待って」サロウは焦った。彼はこめかみに指を当てる。人の気配無し。浮浪者も居ない！「ナンデだよ！居ろよ！一人か二人！」だが後ろに戻る事はできない。コトブキが来る！「畜生、プロキシも……遠いじゃないか。設置したろ、あちこち。この辺の奴、片付けられた？」木馬の陰に身を潜める。20

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ニューロンは高速駆動し、状況判断。暴漢の言っていた「ジロ」が付近のプロキシだったとすれば、発見後、勝手に片付けられ処分されてしまった可能性は高い。「クッソ」サロウは気配を殺し、コトブキを待ち構えた。遊園地か。頭上には破れて空を見せる天蓋。木馬の上には首なしヤブサメ武者人形残骸。21

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「観念しなさい！」コトブキの叫びが反響した。「追い込みましたよ！なるべく貴方をこの場所に追い込もうと考えてました。何故だかわかりますか！誰も居ないからです！」「……ッ！」サロウはイラついた。勝ち誇ってやがる！パンチ一発二発当てただけで調子に乗ってやがる！だが挑発に乗れば危険！　22

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「貴方は他者のニューロンを踏み台にしてジツをかけますね！封じさせてもらいました！」コトブキの声が近づいてくる！（ダーリン！）サロウは木馬の陰で祈った。（力を！俺に力をくれ……！）ブツン。カッ。カッ。その時だった。電源が落ちて死んでいたと思われた遊園地に突如、息吹が通った。　23

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プロココココ、ピロリロリピピピププー。電子サウンドが園に鳴り響き、色付きのサーチライトが地面を舐めた。そして、ガゴン……。ヤブサメ木馬も、動き出したのだ。「ダ……ダーリン！？」『ダーリンダーリン呼ぶんじゃないよ』スピーカーから、声！『恥ずかしいじゃない……』木馬、加速！　24

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テッテレー、テレッテ、テテテレー。能天気な電子サウンドがサロウを勇気づける。高速回転し始めた木馬台の上、ニンジャバランス感覚でこらえながら、サロウは見た。園内で困惑するコトブキを！「あれだ！」『そう、あれ！』園内スピーカーが答える！コトブキはサロウを探す……目があった！　25

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「貴方！」コトブキは回転木馬に向かってくる。だが凄まじい速度で旋回する木馬の群れはさながらバリアめいてサロウを守っていた。不用意に飛び込めば、ウキヨといえどもバッファロー轢殺武装鉄道環状線に飛び込んだ牛じみて無惨に死ぬであろう！一方サロウはこめかみに指を当てた！「イヤーッ！」　26

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サロウの主観時間が一瞬、静止した。頭上に黄金立方体が輝き、コトブキの姿が滲んだ。サロウの後ろに、ニニンバオリめいて、オモイ・ニンジャが身体を密着させていた。『共同作業しよ』「うん」サロウはオモイ・ニンジャに手を重ねた。そしてコトブキを攻撃した。「ンアーッ！」　27

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コトブキが頭を押さえ、仰け反った。そして倒れ込んだ。サロウは歓喜した。（ハッキングでウキヨの身体をヤッちまえば、そのまま自我だって……！）だがオモイ・ニンジャの反応はサロウと違った。彼女は歯噛みしていた。『クソッ！雑魚の、クセに！』一瞬垣間見えたコトダマの地平。『邪魔を！』　28

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黄金立方体と無限のグリッド地平の向こう、オモイ・ニンジャに干渉している光は、二つあった。一つは戦乙女めいた電子アカウント。そしてもうひとつ、いびつな北欧神イメージがノイズの中で中指を立てている。『YCNANだけじゃないッてのか？なんで気づかなかッた！YCNAN、テメェ……！』　29

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オーディンは腕を動かし、中指をダブルにした。オモイ・ニンジャがタイピング速度を加速した。敵のハッカーの攻撃に、さらなる速度で挑もうとしている。狩りの最中、オモイ・ニンジャからの支援をうまく受けられなかった理由がわかった。コトブキが自身を的確に発見した理由も。コトダマ幻視が途絶。30

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「ああッ」サロウは呻き、涙をこぼした。オモイ・ニンジャと視界を共有する至福が没収された。怒りの中で、彼は闘志を燃やす。高速回転木馬の速度、その遠心力を利用する！「やってやる！」サロウは中腰姿勢を取る。そして、跳躍！回転の中から自らを弾き出した！トビゲリだ！「イイイヤアーッ！」　31

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遠心力を乗せたトビゲリ！フーリンカザン！そしてその標的は当然……！トビゲリの狙う先は、いまだオモイ・ニンジャとサロウの共同ハッキング未遂の朦朧状態から脱せず頭を押さえるコトブキ！「イイイイイヤアアアーッ！」……「イヤーッ！」赤黒の影が視界の端で弧を描いた。蹴りを、止めた。　32

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サロウの渾身のカラテ、必死のトビゲリは、コトブキの前に割って入ったニンジャスレイヤーの手甲が、受け止めていた。（……だよな）鈍化した泥のような時間の中で、サロウは弱々しい笑みを浮かべた。（あんたの接近、しっかり見えてるぜ。キッチリ焼き付いてる。網膜にさ）サロウはしがみついた。　33

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「イヤーッ！」サロウはニンジャスレイヤーのニューロンに穴を穿ちにいった。ニンジャスレイヤーの赤黒の瞳が、サロウの目の前で燃えていた。心臓に感触。心臓がなくなる感触。ニンジャスレイヤーの腕が、抱きつく己を貫いた感覚に、サロウは慄いた。「ゴボッ」サロウは血を吐いた。　34

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（なあ、あンた。覚悟ッてさ。こういう事なんだろうな……）サロウはパクパクと口を動かした。（俺はさあ。狩人として、キアイ入れてるンだよ。他の連中は俺をニボシ扱いしやがるけどさ。だけど0100101だけど勝つのは0100101）……「俺だぜ！」サロウはニンジャスレイヤーに額を、衝突させた！　35

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「イヤーッ！」「グワーッ！」サロウの意識が真っ白に弾けた。ニンジャスレイヤーはサロウの胸から心臓を引き抜いた。地面に転がるサロウを見下ろし、心臓を握り潰した。「サヨ、ナラ！」サロウは爆発四散した。飛び散った爆発四散パーティクルが中空に凝集し、アブストラクトなオリガミとなった。　36

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「ニンジャスレイヤー＝サ……」コトブキが名を呼ぼうとした。そして凍りついた。ニンジャスレイヤーはザンシンしようとした。だができなかった。彼はその場で膝をついた。「……！」「ニンジャスレイヤー＝サン！？」コトブキが駆け寄る。だがニンジャスレイヤーはそのまま、うつ伏せに倒れた。　37

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「ニンジャスレイヤー＝サン！ニンジャスレイヤー＝サン！？」コトブキはニンジャスレイヤーを仰向けに横たえ、胸に耳をつけた。……心停止。そして顔に触れた。……脳波フラットライン。赤黒のアブストラクト・オリガミが、ただ冷たく、彼らのすぐそばに浮かんでいた。　38

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「……ハイヤーッ！」ドンッ！コトブキはニンジャスレイヤーにAEDパンチを打ち込んだ。ニンジャスレイヤーの身体が痙攣した。コトブキは再び胸に耳をつけた。「……ハイヤーッ！」ドンッ！コトブキは再びニンジャスレイヤーにAEDパンチを打ち込んだ。ニンジャスレイヤーの身体が痙攣した。だが……！39

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「絶対、絶対に、絶対に……！」コトブキは感情余って、もはや意味ある言葉を発せなかった。そして三発目のAEDパンチを振りかぶった。「ハイ……」「そこまでよ！」声が降ってきた。一瞬遅れて、剥き出しの夜空に黒い影が跳ねた。ウイリージャンプで廃墟遊園地に落下してきたのは……シグルーン！　40

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ギャルルルルル！インテリジェント・モーターサイクルが、着地とともに旋回し、コトブキ達の周りにバーンナウト痕を刻む！乗っているのは！？「それ以上は逆に危ないわ」フルフェイスヘルメットの中からオイランドロイドじみた音声。ヘルメットを脱ぐと、そこには……「私はナンシー・リン」　41

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【続く】