即時取得(民法192条)はなぜ無権代理の場合に適用できないか

1
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

1)「Aから売ってほしいと言われて本を預かっているんだけど、買わないか」とBがCに持ちかけ、Cはこれを信じてBからその本を買い、引渡しを受けた。ところが、その本は、実はBがAから借りていたものだった。この場合に、Cには民法192条(即時取得)の適用はない。では、その理由は?

2011-08-23 18:01:28
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

2)この事例は、無権代理の事例であり、無権代理の場合には民法上表見代理の規定が用意されている。その関係で、即時取得の規定の適用が排除されている、と説明されることがある。……しかし、この説明は、たぶん正しくない。

2011-08-23 18:02:46
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

3)占有は、占有者に占有正権原(とりわけ所有権)があると信じさせるに足りる外観である(民法188条参照)。だから、CがBの所有権を信じたのならば、Cは、即時取得=占有に対する信頼を保護する制度で保護される。ところが、本件でBは、自分に所有権がないことを暴露してしまっている。

2011-08-23 18:03:25
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

4)では、占有は「代理権があるらしい外観」といえるか? 無理だろう。物を占有しているからといって「この人には代理権があるらしい」とは思えない。つまり占有は、代理権にとっての法的信憑性ある外観ではない。だから、占有から代理権の存在を信じても、Cは民法192条では保護されないのだ。

2011-08-23 18:04:13
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

5)外観理論の第1の要件「法的信憑性ある虚偽の外観の存在」において、外観と内実には一定の関連性が必要だ。Aという外観はaという内実があるらしいと信じさせるが、bという内実があるらしいとは思わせない。この場合、Aは、aにとっての「法的信憑性ある外観」だが、bにとってのそれではない。

2011-08-23 18:04:45
杉山博亮 @sugiyamahiroaki

6)そこで、この場合、外観Aから内実aの存在を信頼したのであれば、その者は保護されるが、外観Aから内実bを信じても、それは保護に値しないから、保護されないのだ。(了)

2011-08-23 18:05:42