- mocharn3rd
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彼女はアライグマかイタチを思わせる黒い耳と縞々の尻尾を持っていた。動きやすさを優先しているのか、背中まである髪を首の後ろで束ね、ワイシャツと短パン姿にタイツをはいている。
2021-11-06 00:09:11スタイルといえば『週刊プレイボーイ』のグラビアを飾っていそうな、出るとこがでている姿だ。表情が少し陰気で眉にやや力が入っていた。
2021-11-06 00:09:17(ワシなんかしたかな? ジロジロ見過ぎたとか……いや見る前からこっち来る様子やったし) 彼女は予想に反して落ち着いた声で、そこに怒りの要素はない。 「キー坊」 彼女はこちらを知っているようだった。
2021-11-06 00:09:24「ああ……えっとあなたは」 「ロビン。あなたは有名人だからね。はじめましてかな」 「いや、トレーニングしてて姿だけは知ってたわ。キイチ・ミヤザワや。よろしゅうな」 握手した。
2021-11-06 00:09:33熹一とロビンはウォーキングしながら話す。 「ワシが有名人ってやっぱり……」 ロビンが頷く。 「うん、記憶喪失でロドスに入って、レユニオンの厄介な敵を捕まえた、ちょっと血の気の多い格闘系オペレーター」 「はうっ」 先日の、先行気味に動いた作戦の話だった。
2021-11-06 00:09:41ロビンは続ける。 「血の気の多いみたいな話は確かに聞くけど、訓練室でのあなたはそうでもなく見えた」 「そんなもんか」 ロビンは少し上を向いた。
2021-11-06 00:10:00「あ、嘘言っちゃった。ウェイトトレーニングしてるときはガツガツしてる」 「それは嘘っちゅうより気づいてなかっただけちゃうんか」 「そういうものかな」 熹一はロビンの観察眼を感じた。
2021-11-06 00:10:06「今日はちょくちょくシャドーボクシングしてたし、急にスピードを落とすから、何かあったのかと思って」 「……びっくりやわ。そんなに見られとったんか」 「別に見ようとして見てたわけでは」 「いや感心しとるんや。ロビンさんは"目付け"が効いとるんやな」 熹一は手をひらひらとさせる。
2021-11-06 00:10:15「罠使いっていうのは初めて知ったけど、ロビンさんは投げナイフとかも使うよな」 「さん付けはいらないよ。私だってキー坊のこと呼び捨てだし。……ナイフはほとんど我流かな」 「我流!? 命中率高すぎやんけ」
2021-11-06 00:10:35「慣れだよ」 「ふうん、そういうもんなのか」 「グムちゃんの早起きも慣れだし……」 ロビンは遠くを見た。熹一が同じ方向に目をやると、荷物を多く乗せたトラックがロドスに向かってきていた。 「あれはジェイだね。市場から帰って来たんだ」 「市場は早よから始まるからなあ……あれも慣れ、か」
2021-11-06 00:10:52「それはおいといて」 ロビンは荷物を動かすような仕草をする。 「キー坊は考え事でもあったの」 「聞いてくれたのがロビンでちょうど良かったわ。遠距離攻撃が欲しいと思っとったところでな」 「うん」 ロビンは片手を首の後ろに回して軽く揉んだ。
2021-11-06 00:11:01食堂まで歩きがてら、熹一は事情を話した。ロビンはこれにあっさりと答える。 「結論から言うけど、遠距離攻撃できるアーツでも持ってない限り、前衛オペレーターに遠距離攻撃を求める人なんていないと思うよ」 「しゃあけど、手ぶらになるとなんか申し訳ない気持ちになるわ」
2021-11-06 00:11:09ロビンはこの答えにも続けてあっさりと返す。 「ドクターはそのへん考えて人員を調整してるし。同じ前衛のメランサちゃんやムースちゃんは近接戦闘オンリーよ? ミッドナイトやフロストリーフみたいな術系の遠距離攻撃なんて誰も求めてない。ましてや、キー坊はアーツ適正が欠落なわけだし」
2021-11-06 00:11:43「そうか」 「キー坊が出てた作戦記録もちょっと見たけど、投擲技術は高いし、なんか携帯しやすいやつ持ってもいいかもね。体術に影響なければ」 「うん、それがええな」
2021-11-06 00:12:02「キー坊は銃は好きじゃなさそうだし」 「まあ、得意じゃないしいい思い出もないからのう……」 従兄弟の一人が銃弾で死んでいる。 叔父の鬼龍が狙撃された経験がある。
2021-11-06 00:12:07食堂は活気と倦んだ雰囲気がないまぜになっていた。 ロドスは交代制勤務と固定勤務が混ざっており、さっき起きて食べに来た者がいれば、任務が終わって来た者もいる。家族や友人、弟子とばかり食事をしていた熹一には、新鮮な感覚だった。
2021-11-06 00:12:17笑顔を浮かべながらテーブルに着く。 「グレープフルーツジュースにベーコンエッグ、トーストにブロッコリーたくさんのサラダ、ゴキゲンな朝食や」
2021-11-06 00:12:27「卵の白身多くない? 黄身に比べて」 ロビンが尋ねてくる。黄身ふたつに対して白身が同量くらいある。 「普通、卵って黄身が2に対して白身1くらいのような」
2021-11-06 00:12:33「これはグムちゃんに頼んで特別にやってもらったんや」 ふー、とロビンは息を吐いた。 「格闘系オペレーターは注文が多いって聞いたことがあるけど、納得」
2021-11-06 00:12:49「余った黄身はお菓子とかカルボナーラにも使えるし、逆に白身が余ってる時に食ったりしてるから許してくれな」 「それなら、まあ」 いただきます、と言って、二人は食事した。
2021-11-06 00:12:54a.m.10:13 ロドス購買部 熹一は購買部にいた。主のクロージャが熹一を認めると近づいてくる。 長い黒髪が特徴で、ラフなインナーの上に整備道具をじゃらじゃらと付けたぶかぶかのジャケットを着ている。凄腕エンジニアであると同時に商売もやる鉄人だ。
2021-11-06 00:13:07「ごきげんようキー坊、キー坊にプレゼントだよ」 じゃん、と畳まれた防護服を渡される。熹一はすぐさま違いに気づいた。これは特注品だ。 「この服は……」 「ケルシー先生からの依頼でね。キー坊が動きやすいようにってさ」
2021-11-06 00:13:16「ケルシー先生からの依頼でね。キー坊が動きやすいようにってさ」 広げてみる。背中に獅子の意匠がある。肩には「猛人注意」のマークもある。 「着てみてよ。不都合あったら調整するからさ」 「……」 言われたまま着る。つかず離れずのような着心地だった。
2021-11-06 00:13:31「どう?」 「ちょっと動いてみんとわからんかな」 「どうぞどうぞ」 軽くシャドーをする。先に配布された防護服よりも動きやすい。 熹一は礼を言った。 「うん、前よりええわ。ありがとう」 「熱がこもらないようにちょっと通気性もよくしてるんだ」 「ほ~、よくこんな短期間で」
2021-11-06 00:13:39