- mocharn3rd
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「あらかじめデータはとってあったからね。あとは訓練とか実戦で不具合あったら教えてくれれば修正するよ」 クロージャはにこにこしている。 「これはクロージャさんが?」 「まっさかー、ドローンで取ってあったデータから、3Dプリンタで縫製したんだよ」
2021-11-06 00:13:49「それはそれですごいんやが……」 地球には写真からオーダーメイド服を作るような達人がいると聞いたことがあるが、テラはテラで工学が発展していると熹一は思った。 (いや、ロドスみたいな陸上を行く巨大な舟とか地球じゃ見んからなぁ)
2021-11-06 00:13:58「どしたの?」 クロージャが声をかけてくる。 「んん、着心地がよくて感激しとったところや」 「ケルシー先生から、キー坊はたまに考え事することあるから声かけてやって~って言われてるんだ。なんか思い出すかも~って」
2021-11-06 00:14:06「あの人も大概手回しがええな」 「ロドスのトップの一人にいるのは、そういうところがあるからだと思うよ。医療オペレーターのほとんどが先生の教え子みたいなもんだし」 「説得力あるわ」
2021-11-06 00:14:12「それで何考えてたの?」 考えていたことをそのまま話す。 「あ~、いるよいるよ、シエスタとかシラクーザあたりはそういう凄腕の仕立て屋がちらほら」 「ワシとは縁がなさそうやけど、そういう技は見ていて感心するわ」 「何いってるの」 クロージャがけらけら笑う。
2021-11-06 00:14:19「キー坊がここに来たときに来てたコート、すっごい高級品だったじゃん」 鬼龍のコートだ。 「あ……あー、あれは叔父からのもらいもんでな」 「それでかあ~。キー坊の来てた服も上等だったけど、コートはなんか格別だったような気がしてさ」
2021-11-06 00:14:27「かっこつけェな叔父やで」 「キリュウっていうんだっけ」 そこまで知られているのか。いや探してくれと言ったのは自分だから、購買部にしてエンジニアのクロージャに情報がいっていておかしくない。
2021-11-06 00:14:38「そう鬼龍。強いっちゃ強いしワシより頭は抜群にええんやけど、なにぶん自分勝手すぎて人望がないんや」 「あはは。龍門はけっこうそういう人多いよ。人望がないっていうとちょっと違うけど、敵が多かったりするんだ」 「そうそれ」 急に別の声が聞こえる。
2021-11-06 00:15:02「龍門の噂話か?」 凛々しい空気をまとわせて現れたのは、龍門近衛局の特別督察隊隊長、チェンだった。 クロージャは少しげんなりして答える。 「噂ってほどの話じゃ……」 熹一がそれに続く。 「ワシの叔父の話しとっただけや」
2021-11-06 00:15:19「ふむ……? なにか思い出せたのか」 そういえばチェン相手にも記憶喪失の演技をしていたのであった。 一言一言にも隙がなく感じる。姿勢もそうだ。白黒青と、かっきりとした制服の着こなしが決まっている。天を衝くような角に青黒の髪と尻尾がキリッとしている。
2021-11-06 00:15:31「ためになるかならんかはワシが決めるし――隠し事のない人間なんてこの世のどこにもおらんやろ」 「それはそうだ」 ここで意外にもチェンは、あっさりと引いた。 「ちょっと言ってみただけだからな。そういえばキリュウは今のところ見つかってないし、そういう情報も皆無だ」
2021-11-06 00:15:44「えっ」 「私がアクセスできる範囲での話だがな」 「もしかしてチェンさん、そのことをワシに」 目を丸くした熹一に、冷静にチェンは返す。 「ついでだよついで。キー坊と会うつもりではあったが」
2021-11-06 00:15:51クロージャは、近くに寄って来た丸っこいロボをタオルで拭いながら促す。 「というと?」 「レユニオン兵の引き渡しの関係でドクターと話があってな。特にレッド・ライオットの捕縛にはキミの功績が大きいと聞いた」 「あれは皆がおってこその成果や」
2021-11-06 00:15:58「実際はヤツとキミとはタイマンだったろう。謙遜するな」 「そうだよキー坊、レユニオンでもあんまりあーいう奴見ないもん」 「クロージャの言う通りだ。幹部級ではないものの、その辺の三下ではない」 「ふうん……」
2021-11-06 00:16:04「それに」 チェンは一度言葉を切った。 「感染者である前にファイターやんけ、ってセリフは決まっていたぞ」 熹一は顔が熱くなるのを感じた。 「はあっ」 「アーミヤが映像を見せてくれた」 「なにっ」
2021-11-06 00:16:13「キー坊のことを心配していたけど、あそこは感じ入るところがあったみたいだ」 うんうん、とクロージャも頷いている。 「そういうの口外するのは機密漏洩ちゃうんかっ、アーミヤちゃんもアーミヤちゃんやっ、それよりクロージャさんまで知っとんの!?」 ツッコミが追い付かない熹一。
2021-11-06 00:16:21笑っていたチェンは目元の涙をぬぐう。 「悪い悪い。外じゃ言わないよ。でもキー坊のあの姿は好感が持てるぞ。これはジョークじゃない」 クロージャが再度頷いている。
2021-11-06 00:16:29「この様子だと、このままロドスに預けていても平気そうだな」 不意にチェンが表情を切り替えた。熹一もつられて真面目な顔になる。 そこに客が何人かやってきた。 「場所を変えるか」 熹一は頷いて、チェンの後を追った。
2021-11-06 00:16:36応接室で、テーブルを挟んで熹一とチェンが向かい合っている。 「初めて会った時は虎でも暴れてるかと思ったよ」 「その節はご迷惑をおかけしました」
2021-11-06 00:16:53「ああ、そういう話をしたいんじゃなかったんだ。キー坊が暴れ虎なだけなら、再度龍門の管理下に置くつもりだったが、前見たときよりも精神は安定してるっぽいからな」
2021-11-06 00:17:04シビアな話だった。そういえばアーミヤはこの会社のCEOだったのだ。可愛らしく10代半ばくらいの外見のせいか、たまに忘れそうになる。 「話は戻るが、徐々に記憶も戻っているようでなによりだ」 「ああ。皆にもよくしてもらってるしな」 「それなら良い」
2021-11-06 00:17:38しばらく、無言が二人の間を占めていた。 熹一も茶を飲む。 「キー坊」 チェンは窓の外を見ながら言う。 「これは老婆心だが――ロドスにいるのなら、あまり感染者や感染生物が現れる作戦には出ない方がいい」
2021-11-06 00:17:57アーミヤやケルシーが言う警告よりも厳しいものだった。鉱石病にかからないように、ということだろう。 「キミが生活のために闘うのは仕方ない。ただキミほどの腕前ならば、ロドスでの戦闘教官になる道もあるはずだ。ロドスがすぐに認可するとは限らないが――」
2021-11-06 00:18:09