稲川淳二の『つぶやき怪談』(2021.12.27)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

階段を上がって行って、 途中に引き戸があってその下をくぐったりして、 楽屋ったって一個じゃない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

とんとんとんと上がる階段がこっちにあるかと思えば、 そこから枝分かれになった道があって、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

つーーーと行くとＬ字に曲がっていたりしてね、 馴れない人だとわけがわかんない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

もっとも、馴れてる人だとわけなく歩き回ってますけどね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

初めて行くと、もう帰るのが大変。 エレベーターまでたどり着くのがやっとですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

楽屋と舞台は、やっぱり音がしちゃいけないから、 そんなわけでうんと離れているんでしょうねえ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そんな造りにわざとしてある。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、Ｊさんが･･･、ある時、 Ｓ座で仕事を終えて帰ったら、楽屋に台本を忘れたっていう。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

舞台というのは26日間とか、 28日間ずっとその舞台が続きますよね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

彼、台本は毎日見なきゃいけない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

もちろんちゃんと事前に稽古はしてますし、 毎日のことだから、 台詞をしっかり覚えていないというわけじゃあないんだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

台詞はしっかりと頭に入っている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でもね、役者さんというのはおかしなもんで、 朝起きて、さあ今日も舞台だ、頑張るぞっていう前に、 一応台本に目を通すんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そういう役者さんって、実に多いんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

わかってる台詞だけど、もう一度確認する。 台本を見る。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると気持ちが落ち着く。 よし間違いがないと思うわけだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

芸事にはあるんですよ、そういうのって。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、Ｊさんもそういうタイプの人だったんでしょう。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それでねえ、大切な台本だけど、 なんだか知らないけど忘れて置いて来ちゃった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、彼にも習慣がある。 明日の朝もあらためて読み返したいーーー。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのことがずーーっと気になったから、 どうにもたまらなくって取りに行ったって言うんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｓ座へ。 それも夜中に。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その夜は、Ｊさんたまたま仲間が来て飲んでたんですけど、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

台本忘れて来たことに気がついて、 気になると飲んでてもなんだか酒がまずい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

いけねえ、こりゃやっぱり取りに行かなきゃってんで、 夜中ですけど取りに出かけた。