【ある冒険者の最期】

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期1】歳を重ね体力や勘も衰えた。今や妻子を持つ身ならば、冒険稼業も潮時だろう。故郷に帰ったら収集した冒険の記録を整理……その前に、息子や娘たちと過ごす時間だ。趣味は合間に進めればいい。これからは間違いなく時間をもて余すのだから。さて、妻への土産は何にしようか――

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期2】冒険者がまともな最期を迎えられると思うな、なんて脅かす奴もいるが、しっかりと引き際さえ見極めれば静かに余生を過ごすこともできるさ。そういった奴等はあまり現役時代のことを吹聴しないから、ろくでもない死に方をした奴の話ばかりが目立つんだよな。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期3】「私も限界が近いようです、御主人様」「……」「数百年ほどお仕えしてきましたが、ここで終わることが心残りで仕方ありません」「……」「今までお世話になりました、御主人様――」「……もしお前が吸血鬼だったら、或いは俺が機械だったら、もう少し一緒に生きられたのにな――」

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期4】クラス：長槍使い Lv1 魔獣の洞窟最深部にて、洞窟の主に全身を刻まれ力尽きる。生還者の証言によると、奥に向かうほど敵が強くなると説明を受けていたにも関わらず、巨竜を倒した先で遭遇した子猫に不用意に近づいたという。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期5】「一山当てたら足を洗うさ」それが口癖だった彼女は一度も大物に巡り合うことなく生涯を終えた。後世の調べでは、彼女が冒険の中で集めた宝のすべてを金銭的価値に換算すると歴代冒険者の中でも五指に入るという。それを生前の彼女が知ったらどんな反応を見せてくれただろうか。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期6】魔物を葬り続け戦神とまで呼ばれた男も病魔には勝てなかったらしい。「死ぬなら戦って死にたい！」「じゃあ俺と戦うか？」「やだ！ どうせ僕が勝つし！」「はいはい。なら病に挑もうか。体を燃やして病が治れば勝ちだ」「望むところだ！」この噂の真偽は定かではない。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期7】クラス：双銃使い Lv20 古狼の巣地下30階にて、食料を奪われ飢えにより力尽きる。彼の故郷に伝わる、異臭を放つ保存食なら誰も手を出すまいと考えたが、餓死の前には些細な問題に過ぎなかった。食料を用意した料理人曰く「空腹は最高の調味料だと証明されたな！ ハッハッハ！」

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期8】世界の終わりが訪れるという神託が下され、人々は絶望した。しかし冒険者たちは口を揃えて言う。「終わる世界を生きているうちに冒険できるなんて！」皆が皆、思い思いの冒険へと旅立ち、そして世界は終わりを迎えた。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期9】「この星では水も食料も燃料も調達できそうにありません」「なら、また旅に出るか？ やっと見つけた星を捨て、あてもない暗黒空間へ」「まだ可能性はあるだろう」「どちらにも、ね」「行きたい奴は行け。残りたい奴は残れ」「好きな死に方を選べって？」「好きな生き方、だ」

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期10】クラス：占い師 Lv3 城下町の酒場にて衛兵たちの打撃により力尽きる。未熟な占い師が自身の未来を占ってもらった結果、自暴自棄になってしまったという。彼を占った者が言うには「そのうち死ぬ」と、誰にでも等しく訪れる当たり前の未来を告げただけなのだとか。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期11】「無駄や余分があってこその人生だ。無駄のない人生なんてつまらないさ」その生涯を冒険に費やした彼が遺した言葉は「俺の人生は、無駄、そのものだったよ」である。このとき（１）彼の心境と遺言の意味、および（２）彼の人生について考察せよ。［配点：各５点］

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期12】「あなたが落としたのは金の斧？ それとも銀の斧？」「いいえ女神様、私が落としたのはオリハルコンの大剣です」「正直者のあなたには、この金の斧と銀の斧を差し上げましょう」「いやちょっと待って剣返して！」こうして魔王を討つ唯一の手段は失われ、世界は滅びましたとさ。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期13】クラス：シーフ Lv55 瓦礫の塔最上階にて、塔の崩壊に巻き込まれ力尽きる。歴戦のシーフは仕掛けられた罠をすべて解除・無力化し楽しむ余裕さえ見せたが、すべての罠を作動および解除させると塔内部に多数の空洞が生じ、瞬く間に崩壊してしまう構造までは見抜けなかった。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期14】「残るは俺たちだけだ。限界を感じたら言うんだぞ（助けに行くからな）」「もちろん、限界を感じたら言うよ（何も言わずには死なないよ）」

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期15】ある冒険者は教え子が十分な強さに至ったとみて後進に道を譲った。短期間で鍛え尽くされた冒険者は自身の強さに限界を感じて身を引いた。彼の背を追い続けた冒険者は目標を失い引退した。引退するからと装備品を譲られた冒険者は名剣を探し求める情熱がそこで潰えた。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期16】クラス：錬金術師 Lv18 錬金術工房にて呼吸困難に陥り力尽きる。触れたものを黄金に変える術を自分へ施した瞬間、肌に触れている空気がすべて黄金へと変換された。生身の肉体が封じられた黄金像は軽率な錬金術に対する戒めとして、今も何処かの研究所に飾られている。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期17】僕はいつも空を見上げてきた。嬉しいときも楽しいときも、辛いときも悲しいときも。見上げるたびに空は変わって見えた。旅立ちの日に見上げた空は最高の空だったと思う。そして、この空はもう決して変わらないという確信が僕にはあった。ずっと空を見続けていられる。最高だ。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期18】神の加護とともに私に授けられた能力、それは『時間停止』だった。思いがけない強力な効果に小躍りしつつ、早速試すことにした。能力の代償か目眩がしたものの、想像通り私自身と身に着けたもの以外は時間が停止したようだ。さて、あとどのくらい止めていられるのだろう。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期19】クラス：召喚師 Lv24 竜の巣山頂にて魔人の攻撃により力尽きる。彼女の召喚術は並ぶものがいないほど優れたものだったが、彼女の召還術は並ぶものがいないほど劣ったものだった。竜退治のために召喚した魔人は元の世界に戻ることなく周囲を蹂躙し、いずこかへ去った。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期20】「私、この冒険が終わったら故郷――」「はいそこまで。それ以上はいけません」「でも実行しようと決めてる時点でアウトじゃない？ 口に出さなくてもさ」「統計上は『有言実行』のほうが成立する割合は高いらしいぞ」「やっぱり内容の重要度に影響があると思うの」「何の話!?」

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期21】手首を落とされ、義手で補った。脚が潰れ、義足を装着した。腹が抉られ……少し危なかったが人工臓器に置き換えた。皮膚も骨も血液も入れ替えて、元のままなのは頭の中身くらいだ。そして今、頭に致命傷を受けた俺は脳も取り替えるつもりだが、果たしてそれは俺なんだろうか。

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の最期22】クラス：重戦士 Lv45 獄炎の地底第五層にて巨人の打撃により力尽きる。鍛え上げられた肉体と甲冑で戦場を渡り歩いてきた男は巨人と対峙しても自信を失わず、その甲冑は巨人の一撃でも砕けるどころか傷一つさえつかなかったが、ただの人間の肉体は衝撃に耐えられなかった。