エンハンサー依存前立腺癌におけるSWI/SNFATPaseの標的化

最近エストロゲン受容体やアンドロゲン受容体を標的とした薬剤が開発されているPROTACを用いて、スーパーエンハンサー依存性の癌を標的とした薬剤についての論文紹介です。
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Jun Yasuda @jyasuda1

SWI/SNF ATPaseの特異的分解誘導を示す化合物を同定したというNature論文。前立腺がんの前臨床試験で有効な結果が得られたという。エンハンサー結合タンパク質の活性化がドライバーとなるがん細胞に有効らしい。転写因子のドライバーを標的とできるのは画期的。 nature.com/articles/s4158…

2022-01-21 13:18:57
Seiichi Mori @seiichi_mori

@jyasuda1 これ、応用範囲、無茶苦茶広くなりますよね?がん種を選ぶのかどうか、着目してます。

2022-01-21 13:45:09
Jun Yasuda @jyasuda1

@seiichi_mori 来週輪読会にあたっているので、この論文を紹介してみます。

2022-01-21 14:02:39
Jun Yasuda @jyasuda1

@seiichi_mori なんか査読者のコメントも読めるのですが、類似の化合物がすでに先行して報告されているようです。

2022-01-21 15:09:59
Seiichi Mori @seiichi_mori

@jyasuda1 なんと!論文読まねば、ですね。

2022-01-21 15:45:06
Jun Yasuda @jyasuda1

現在、有給でやや時間があるので、少し読んだ内容をツイートします。まずこの「SWI/SNF ATPaseの特異的分解誘導を示す化合物を同定した」というよりは「新規に設計した」というのが正解。論文にも引用があるのですが、先行化合物がありました。1/n

2022-01-31 11:10:08
Jun Yasuda @jyasuda1

今流行しつつある、Proteolysis Targeting Chimeric Moleculesというもので、標的のタンパク質に結合する化合物とE3ユビキチンリガーゼに結合する化合物をリンカーでつなぎ、標的タンパク質をユビキチンプロテオーム系の標的にするもの。2/n

2022-01-31 11:12:23
Jun Yasuda @jyasuda1

SWI/SNFはエンハンサーと結合するコア複合体にATPase活性を持つ複合体、二次複合体と大雑把に3つの複合体で構成されていて、今回のPROTAC=AU-15330はATPase活性を担うSMARCA2, SMARCA4, PBRM1を標的とし、E3の方はVHLがん抑制遺伝子産物。3/n

2022-01-31 11:15:12
Jun Yasuda @jyasuda1

Fig. 1では分子の模式図とその特異性、培養細胞への毒性などを見ており、特異性は非常に高い(他のSWI/SNFの構成タンパク質は影響がないとか、認識ドメインであるbromodomainのある非SWI/SNFには影響しないとか)。培養細胞の毒性も特異性があるのが特徴か。4/n

2022-01-31 11:18:02
Jun Yasuda @jyasuda1

例えば正常前立腺由来の細胞株は影響がなくアンドロゲン受容体やMYC、FOXA1の高発現を示す細胞が毒性を強く示す。前立腺癌以外では多発性骨髄腫、乳癌などである。これらの分子の特徴はエンハンサーに依存したものであるというところ。5/n

2022-01-31 11:21:09
Jun Yasuda @jyasuda1

この分子(PROTAC)のすごいところはある意味分単位で標的分子を分解することで、1時間も反応させるとはっきり標的分子の発現が落ちるところである。さて、こうしたクロマチン構造に影響する分子がゲノム機能全体をどう調整するかについて検討したのがFig. 2, 3。6/n

2022-01-31 11:23:18
Jun Yasuda @jyasuda1

まずATAC-Seqという、トランスポゼースによってクロマチンアクセス性の高いところにリンカー配列をトランスポゼース活性で結合させてNGSライブラリーを構築する技術で、AU-15330によってゲノムのアクセス性の変化を検討したところ、3万箇所程度、アクセス性が減少した。その多くが遺伝子間領域。7/n

2022-01-31 11:26:54
Jun Yasuda @jyasuda1

その結果、発現がスーパーエンハンサー(エンハンサー配列が複数存在する領域)に依存して発現しているMYC, AR, ESR1, FOXA1などの遺伝子発現が軒並み低下することも確認された。この、スーパーエンハンサー機能の低下は3C解析でも確認できた。8/n

2022-01-31 11:29:57
Jun Yasuda @jyasuda1

ということで分子メカニズムの検討の後、前臨床試験という感じの、異種移植マウスでの実験になる。まず毒性や薬物動態について検討し、臓器重量や、体重、血算値についてはvehicleであるDMSOとは差がないことと、SMARCA4の免疫染色で発現低下を確認している。9/n

2022-01-31 11:32:32
Jun Yasuda @jyasuda1

ただ、生化学的検査を実施したとあるが論文中には記載がないように思われた(実際腎機能、肝機能を調べた様子はわかるが結果の記載が見つからなかった)。培養細胞でAU-15330の効果が強く出たVCaPの移植マウスに、AUとエンザルタミド(抗アンドロゲン剤)との併用で腫瘍縮退効果があった。10/n

2022-01-31 11:35:21
Jun Yasuda @jyasuda1

ただ、論文では明確に記載がないが、AU単剤だとあまり効果はでなさそうで、エンザルタミド単剤とそう差がなさそうであった。この移植実験はVCaPだけではなく、去勢抵抗性でエンザルタミド無効例のPDXでもAU+エンザルタミドで腫瘍増殖の抑制(縮退ではない)効果があった。11/n

2022-01-31 11:37:59
Jun Yasuda @jyasuda1

ただ、MYCやARなどの発現を比べると、移植マウスにおいて、AU単剤でも大きな発現抑制効果が認められ、Ki-67の染色で見るとそれなりに増殖細胞の減少があり、ここにエンザルタミドが加わるとほとんどKiで染まらない、という感じになる。12/n

2022-01-31 11:39:53
Jun Yasuda @jyasuda1

論文の討論ではSWI/SNFのATPase活性コンポーネントを抑制することで、エンハンサー依存性のAR, MYCなどの機 を抑制することが出来たこと、その背景にはSWI/SNFが常に継続的にリモデリングすることでエンハンサー活性が維持されていることにあると指摘。13/n

2022-01-31 11:40:54
Jun Yasuda @jyasuda1

この、SWI/SNFのリモデリングが継続的であるということがクロマチン構造の開放性の維持に必須というのは実は先行論文でも指摘されていた点である。今回の論文のノイエス(古っ!)の一つはより効率的に標的を消去できるリンカーの工夫の点。14/n

2022-01-31 11:43:33
Jun Yasuda @jyasuda1

最後に「物理的にクロマチンのアクセス性を制御することでがん治療につなげた最初の論文と思われる」というのはまさにそうで、MYCを治療表的にできるのは新規性が高いのではないか。以下、個人の感想を記載します。15/n

2022-01-31 11:45:18
Jun Yasuda @jyasuda1

まず、タンパク質の構造と小分子の相互作用の推定技術は相当進んでいることから、自分で好きな分子を標的にするPROTACを作れる時代になったということかと思います。また、MYCなどホルモン非依存性転写因子を標的としうる抗がん剤は確かに初めてではないか。16/n

2022-01-31 11:47:20
Jun Yasuda @jyasuda1

指摘し忘れたが、プロテオソーム阻害剤はAU-15330の作用を阻害する。疑問点は、スーパーエンハンサーに依存した癌のドライバーがどれだけあるのか、また、正常マウスではスーパーエンハンサー依存性の生理作用に目立ったものがなさそうだが、ヒトではどうなのかなどは検討すべきだろう。17/n

2022-01-31 11:50:49
Jun Yasuda @jyasuda1

あくまで増幅・高発現が主因となる分子が標的だが、 染色体の異常による癌や小児がんなどが良い標的となりうるか。いずれにせよ、PROTACによる、新しい中分子化合物による癌の新薬が今後多数開発されるのではと期待できそうで、楽しみである。18/18

2022-01-31 11:53:50
Jun Yasuda @jyasuda1

ツイッターで見かけたAU-15330 関連ツイートその1。 twitter.com/aurigenediscov…

2022-01-31 12:05:30
Aurigene Oncology Ltd @AurigeneDiscov

nature.com/articles/s4158… We are excited to share our publication in Nature on AU-15330, a novel, well-tolerated, highly-specific degrader of the SWI/SNF ATPase components, SMARCA2 and SMARCA4, as well as PBRM1. #SMARCA #TPD #Smallmolecule # Oncology # Prostatecancer #CRPC

2021-12-23 01:50:43
Jun Yasuda @jyasuda1

その2 twitter.com/aaftaabsethi/s…

2022-01-31 12:06:25
Aaftaab Sethi @AaftaabSethi

Collaborative research from our organization published in Nature. AU-15330, a PROTAC, that binds to bromodomain of SMARCA 2/4 and recruits VHL was found to degrade SMARCA 2/4 and PBRM1 in dose dependent manner. Read more at nature.com/articles/s4158…. #protacs #degrader

2021-12-23 15:34:14