ちなみに多くの戦車では超信地旋回は二重差動式という操向装置で実現してます。本来は「主入力に加えて、左右それぞれの軸に横から手を加えて速度を足す/引く」という方法でカーブさせるための機構なのですが、おまけとして主入力がニュートラルだと「足し/引き」軸だけが動いて左右履帯が逆転するわけ pic.twitter.com/YmxivlVrzB
2022-04-09 09:57:31超信地旋回は(必ずしも全てではないものの)主に二重差動式操向装置の副産物的にもたらされる機能なので、そのタイプの操向装置を好まないソ連戦車には自然に超信地旋回機能もついてこないことになりがち、という風にも言えるかしらん twitter.com/FHSWman/status…
2022-04-09 23:13:14ちなみに二重差動式の操向装置では左右履帯にそれぞれ同じだけの速度が足し引きされるので、左右履帯の平均速度は同じ。つまりカーブしても前身速度は変わりません。一方T-72の方式では片側だけ一段下の速度になるので戦車自体の速度が落ちる。これは一見すると速度が落ちない方が有利そう……ですが、
2022-04-09 10:04:05実際には戦車という重いものが既に直進しているところを、その運動の向きを変えるわけで、カーブするということ自体が負荷のある挙動です。つまり速度を落としてトルクが欲しくなる状況。その点ソ連戦車式の内側をシフトダウンする方式は自動的にそれを補ってくれるので、実は好都合だったりもします
2022-04-09 10:07:46ただし二重差動式の操向装置を持つ戦車の多くはトルコンも持っています。なので実際にはそっちの方で自動的に変速が行われる形になり、結局は問題はありません。純機械式変速かつ二重差動式という構成の大戦期ドイツ重戦車あたりではそれがないので、能動的なシフトダウン操作とか留意が必要になる
2022-04-09 10:13:09と、こうして見ると戦後ソ連戦車の変速機・操向装置は高機能ではないものの高効率・高燃費ではあり、小型軽量で戦車に収めやすい、また操作系はともかく変速機構そのものには油圧機械を含まないのでシンプルで、製造もメンテナンスもしやすいといった特徴を持つと言えます
2022-04-09 10:19:12一方でこの方式には欠点も少なくありません。今回の主題の低後進速度、超信地旋回ができないこと。走行も操向も純機械式の有段変速に頼ることから、挙動がガクガクと段階的になります。これは各種機構への負荷に繋がり、また行進射への適性でもマイナス
2022-04-09 10:28:52とは言え兵器というのは何であれ、一定の制限のなかで所定の要求を実現しなければなりません。戦後ソ連戦車の要求を全て満たしつつ、かつ高い後進速度や超信地旋回能力まで兼ね備えた戦車というのは、おそらく大変実現困難なものとなったでしょう
2022-04-09 10:32:17一方で20世紀後半の戦車としてならともかく、21世紀の戦車としてそのままでよいのか?という議論は当然あり得るとも思います。戦場の要求も、また前提にしていい技術も当然異なっておるわけですから。まあ私は現代兵器よく分からないので何とも言えませんけど
2022-04-09 10:34:49というこそもそも戦後戦車さえよく分からないので、このなんか知ったようなおはなしも実際的外れだったりするかも知れません。T-72マンに怒られそう
2022-04-09 10:36:11と、ここまでは物理的な側面でソ連戦車の変速機を見てきましたが、そもそも性能の要求からして大きな後進速度は必要とされていなかった、という面もあるかも知れません。これまでに触れたのとは全く別系列の変速機というのソ連戦車にはあって、そっちの方からそういう香りがするのです
2022-04-09 13:45:16その例というのが戦後ソ連のガチ目重戦車の系列、IS-4やT-10です。こいつらは中戦車〜主力戦車の連中とは全く異なる形式の変速機を持ってました。特筆すべきは後進の方法で、主変速とは完全に独立した逆転機を持っておるのです。これなら機構的には前進でも後進でも全く同じ速度で回せる……けれど pic.twitter.com/N0rPbqiqUH
2022-04-09 13:55:56しかし実際には逆転機レバーの操作に連動して変速レバーに制限がかかるようになっていて、後進時には3速までしか入らないようになっていました。これにより後進速度は9.5km/h(奇しくもIS-4でもT-10でも同じ)に制限されることになります。……これでさえT-55やT-72より後進が速いというのはさておき
2022-04-09 14:04:36つまりIS-4やT-10は変速機の機構上はまったく問題なく高速後進が出来るにも関わらず、実際にはそうした操作は出来ないようにあえて制限されていたわけです。尤もその理由までは分かりませんが。必要性がないと考えられていたのか、安全上の理由か、それとも例えば走行装置等に別の都合があったのか……
2022-04-09 14:13:56変速機構上は後進全速が出せるけど走行装置の関係で実際にはできない、というのは例えば独軍のエレファントがそうだったりします。電動なんで逆転も自由自在なんですが、後進だと履帯の伸びる側、引っ張られる側が逆になる関係で履帯が暴れ、後進は12.7km/hに制限される。それでも意外に結構速いですが
2022-04-09 14:21:19でもIS-4やT-10は上部支持輪があるから履帯の挙動はエレファントより安定してるだろうし(まったくの想像)、やっぱり「仕方なく」ではなく「必要性がないと考えられていたから」で後進速度を制限していそうな気はする(やはりまったくの想像)
2022-04-09 14:23:50あとT-72とか戦後ソ連主力戦車系の多段遊星変速機。あれひょっとしたら変速機自体の構造は変えずとも、操作系をなんとかしてクラッチの固めるところと緩めるところを上手いこと選んだら後進でも何段かに変速できないかな? とも思うんですが、遊星歯車列を見ていると頭が痛くなるので分かりません
2022-04-09 14:37:53あと試作車まで含めると戦後ソ連戦車でもトルコン採用なり何なりで後進速度が出せそうな造りのやつはままあるんですが、超信地旋回が出来そうなやつは全然見当たらないような気がするのです。電動系はともかく二重差動式は本当に見かけない。なんか実例知りません?
2022-04-09 14:49:45ソ連は大戦期には虎やら色々鹵獲しているし、戦後も外国戦車の構造を結構詳細に把握していたりするんで、二重差動式という概念を知らなかったということは全く考えられません。間違いなく知っていながらあえて選んでいないのです
2022-04-09 14:53:04恐らくは構造の複雑さと、そして先述したカーブ時の余力と減速の関係でトルコンと組み合わせないとちょっとイマイチというところからソ連的には二重差動式の操向装置が選択肢に入らなかったんじゃないかなあ、などと想像するところではありますが、はてさて
2022-04-09 14:55:29超信地旋回ができる操向装置や変速機というと、二重差動式のほかに電動、そして油圧ポンプ/モーターの組というのもありますが。でも電動戦車はご存知の通り袋小路だったし、油圧モーターは補助用途はともかくメインとして使えるようになったのはかなり後のようだし、尚更ソ連ではその方向性は薄そう
2022-04-09 15:01:02T-72B3には何やらAPP-172自動変速機がついたアップグレードがあるらしい……ものの、どうもこれ全く新しい自動変速機というのではなく、既存の手動変速機に後付けで自動制御するものなのかな。自動車で言うAMT的な? pic.twitter.com/fiXqFYjLxN
2022-04-09 17:31:47こいつの主眼は変速という事になっておるようですが、しかしT-72で変速機の制御を握るということは操向装置の操作を握ることでもあります。実際ハンドルも付いておりますし、操作に関しても何かしてくれるのは間違いなさそう。だとするとなかなかな面白い事が出来たりするかも知れません
2022-04-09 17:53:01さてT-72の変速機・操向装置は先述のように前進7段後進1段があるんですが、従来の手動操作では旋回操作は単純に「旋回内側を1段落とす」という一通りだけ。でも自動制御を噛ませるなら、左右の変速段を自在に選択しての多段半径旋回というのも出来ちゃったりするかも知れません。これは面白い
2022-04-09 18:14:26というのも、自動車がハンドルを切って行う様なスムーズな旋回、つまり無段半径旋回というのは戦車にとっては結構難しい、そして出来たら嬉しい課題なんですね。それが出来ない戦車は、自動車で言うなればハンドルを直進か、または決まった一定の角度に切るかしか選べないようなものなわけです
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