掌小説語り~自作つぃのべる集~89

自作つぃのべるのまとめです。 2020年9月分。
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リュカ @ryuka511

幼い頃の朧気な記憶。庭のバラを手入れする男の、優しい手と声。切り落としてはかわいそうと言う私に、落とさなくては綺麗になれないのですと語る彼は優れた庭師だった。やがて困窮した我家は多くを切り落とし生き延びる。庭師の彼もその一つ。貴方を切り落とした私達は、決して綺麗ではない #twnovel

2020-09-01 00:21:43
リュカ @ryuka511

見た目だけであの人を恐れるのはやめて。骨張ったあの人のその手がどんなに温かいかを知らないで。どんなに傷つけられても、あの人は諦めた風に笑っている。私はそれが悲しくて戦おうと言う。何も知らないくせにあの人を傷つけるのは許さない。だけどあの人は首を振る。それが死神の定めだと #twnovel

2020-09-02 00:10:27
リュカ @ryuka511

この街は灰色しか無いと君は嘆く。古びたビル群、排気ガスや建ち並ぶ工場の煙、曇天模様が続く空、確かに灰色が溢れてる。けど、アスファルトの隙間から伸びる若芽、雨上がりの雲間から射す光の帯、小さくとも一瞬でも、いつでも色はそこにある。世を嘆く君の視界を、広げる術はあるだろうか #twnovel

2020-09-02 23:11:49
リュカ @ryuka511

どうしても君が欲しかった。だから偶然と不可抗力を必然と作為によって成し遂げる。君が僕に恋するよう仕向けた。幸せなはずなのに胸が痛む。君の心を操り他の可能性を潰した。君にはもっと幸せになる道があったかもしれない #twnovel 仕組まれた恋だとしても、心まで操れない。貴方を選んだのは私の心

2020-09-03 23:39:49
リュカ @ryuka511

嵐に遭い、仲間と船を守るべく舵をとっていた俺は海に投げ出された。船の灯を必死に追いかけたが、その後船室で目を覚ますまでの事はよく覚えていない。俺の無事を喜ぶ仲間達は、口々に俺を守るように包み船へ導く光を見たと言った。掌へ貼り付いた煌めく鱗に気づく。「借りが出来ちまったな」#twnovel

2020-09-04 23:52:16
リュカ @ryuka511

魔王は突如現れた影に戸惑う。「お前は何だ?私は勇者と戦闘中だ」「お忘れですか?貴方の死神です」「死神?」「貴方は敗れました。もう戦わずとも良いのです」記憶の彼方。戦いを厭い和平を諭し、魔王の力を削ぐ死神として追放された、愛しき者。なぜ忘れていたのだろう。「私と参りましょう」#twnovel

2020-09-05 22:03:23
リュカ @ryuka511

暴君を討つべく同志が集まる。武器を情報を仲間を集め奔走する。反乱分子を壊滅させるべく王国軍の手が伸びる。潰えかけた意志は引き継がれ、反乱軍は勢力を拡大する。恐怖支配の闇の中、見えない希望はだが確かにそこにある。何度潰されても立ち上がる。民衆を見下す己の傲慢さを、思い知れ #twnovel

2020-09-06 23:10:47
リュカ @ryuka511

「これは私の愛の証なんです。だから大事にとっておきました」彼女は幸せそうな顔で語る。「彼も私をとっても愛してくれていたんです。だからこれは、私達の愛を確認する行為なんです」#twnovel なぜ凶器を処分しなかったのかと問う刑事に、容疑者の女性は傷と痣の残る顔を綻ばせてそう供述した。

2020-09-08 00:10:23
リュカ @ryuka511

「こんな事をしなくても生きられる世を作る為に、力を貸してほしい」差し伸べられた手を取っていいのか迷う。スラムで盗みをしながら生きる子供の力なんて本当に必要としてるのか。いいように使われて捨てられるんじゃないか。迷った末にその手を取った。きっと捨てられるから、少しだけ夢を #twnovel

2020-09-08 23:22:46
リュカ @ryuka511

お嬢様は中庭のバラがお好きでした。それを知って私は、バラの手入れに特に力を入れました。ある時お嬢様が私の仕事ぶりを芸術家のようだと仰った事は、私の誇りです。一介の庭師である私がお嬢様の為にできる、ただ一つの事。このバラに全てがこめられるのなら、バラは美しく咲くでしょう。 #twnovel

2020-09-09 23:32:46
リュカ @ryuka511

引出しの奥から出てきた古いメモには、子供の字で暗号文が書かれていた。あの頃、好きな子を秘密基地に招待したくて書いたけど、渡せないままその子は転校してしまった。秘密基地ももう無い。あの頃好きだったものは何も残っていない。このメモを渡せていたら、少しはこの手に残せただろうか #twnovel

2020-09-10 23:35:11
リュカ @ryuka511

ひやりと愛しい銀色の銃を胸に抱く。多くの生命を奪った凶器で私の生きる術だ。野垂れ死ぬしか無かった私を拾い育てたのは裏社会で有名な殺し屋だった。これはその人の形見であり初仕事からの相棒だ。私に自身の技術を授け、彼は最期に言った。「私の技術は最高だと証明しろ。お前の初仕事だ」#twnovel

2020-09-11 23:29:01
リュカ @ryuka511

湖面に浮かぶ夜空を見るともなしに見ている。誰もが無言で、焚火の爆ぜる音だけが響く。魔王軍の侵攻から逃れ共に旅をした。だがどこへ逃げても魔王軍に襲われる。魔王を討つしか無い、誰からとも無く決意を固めた。口にせずとも、同じ覚悟だと伝わる。逃亡から戦いの旅へと変わった夜だった。#twnovel

2020-09-13 00:05:11
リュカ @ryuka511

大切な人、貴方さえいなければ私はこんなに苦しむ事はなかった。貴方の愚かしい程の真っ直ぐさが、諦観の安寧に沈んでいた私を変えた。それは茨の道だったけれど、生きている実感を得られた。貴方の敵は私の敵。けどあいつは私の手には負えなかった。貴方の力をあいつにも私にも、見せつけて #twnovel

2020-09-13 23:18:06
リュカ @ryuka511

わたしを守るあなた。怖いもの悪いものを見せないのはあなたの優しさ。でもわたしは世界を知らなくてはならなかった。無知は罪だと悟ったのは、城が革命の炎に包まれた後。生温くわたしを包むあなたは毒の沼のような人。炎の中、まだわたしを守ろうとするあなたの手を、決意を込めて振り払う #twnovel

2020-09-14 23:16:06
リュカ @ryuka511

初陣が決まったと告げると、君は痛ましげに眉を寄せた。「怖くないの?」戦に出陣するとは死に瀕する事であり、他者を殺める事。怖くないはずがない。だけど覚悟は決めた。わざとらしい程に明るく頷く。「怖いものなんてないよ」兄上のものになった君を見続けるくらいなら、戦場に散る方を選ぶ #twnovel

2020-09-15 23:36:56
リュカ @ryuka511

「ごめんね」神の子は泣きながら友達を刺しました。刺された子は懸命に笑います。「仕方ないよ。僕は君達が憎むべき魔神の子。魔神を倒すのは君の仕事だ」「知らなかったんだ!」「知ってたら友達にならなかった?」神様の子は大きく首を横に振ります。「ならいいんだ。僕らは永遠に友達だよ」 #twnovel

2020-09-16 23:05:00
リュカ @ryuka511

君は先王の私生児だった。城中の人間が君を王家を穢す醜い人間だと謗った。君を守りたいと思ったのは義兄としてだろうか。君は誰より綺麗だった。華奢な身体も細い声も壊れた心も静かに止まった心臓も、僕の心を揺さぶった初めてのもの。いずれ僕が王位を継いだら、この醜い王宮を潰してやる #twnovel

2020-09-17 23:27:48
リュカ @ryuka511

帰宅し明かりをつける。今日は私の誕生日だが、祝う人は誰もいない。誰にも教えていないのだから当然の事だが。スーパーで買った見切り品のケーキに、小さな蝋燭を刺す。一人、蝋燭に火を灯す。幸せは瞼の裏にある鮮烈な記憶。瞼を閉じればいつでも帰れる場所へ。混濁した現実から、逃避する #twnovel

2020-09-19 00:10:34
リュカ @ryuka511

アジトに侵入した瞬間、真っ暗になった。こちらの行動などお見通しか。奪われた視覚、背中に感じる相棒の気配に問う。「どうする?」「ここまで来て引くわけないだろ」余裕の漂う声に頷く。「だよな」「お前がいれば大丈夫、だろ?」「あぁ、当然だ」軽い口調に滲む絶大な信頼に、高揚が増す。 #twnovel

2020-09-19 22:47:57
リュカ @ryuka511

王国は救われた。だが犠牲が多すぎた。宰相は嘆く。「なぜ君まで来てしまったんだ。王国を救うのに私の命と君の命、きっと二つもいらなかった。君は王国の未来を担うはずだった」騎士隊長は笑う。「私は貴方の潔白を信じているからですよ。貴方一人を悪に仕立て上げた王国に未練はありません」#twnovel

2020-09-21 00:27:51
リュカ @ryuka511

私を同族にすると約束したのに。首筋に残る傷跡は確かに吸血された証。だが私は人間のまま。吸血衝動は起きず、牙も生えない。吸血鬼達に半吸血鬼だと偽り、傷跡を見せれば彼らは私を街へ迎えてくれた。約束を違え姿を消した吸血鬼を探す。人間としての私の生を、なぜ終わらせてくれなかった? #twnovel

2020-09-21 23:15:58
リュカ @ryuka511

魔王討伐の旅をする勇者に人々は冷たかった。勇者へ力を貸せば魔王に狙われるのは明白。人々は武具の販売や食事の提供さえ拒み勇者を追い払う。勇者の心の揺らぎを魔王は見逃さない。あれが人間の本性、守る価値はあるか?勇者は首を振る。お前がいなければ、人間は優しいままでいられたはずだ #twnovel

2020-09-23 00:18:04
リュカ @ryuka511

この世のものとは思えぬ美しい声で歌う鳥がいる。あんな薄汚い所より我が手にあるのが相応しい。さぁ鳥よ、我がために歌え。だがいくら命じても鳥は囀りもしない。腹を立て籠ごと鳥を投げつけた。壊れた籠から飛び立ち鳥は嘴を開く。さぁ歌え! #twnovel 急死した富豪の傍に、豪奢な鳥籠が転がっていた

2020-09-23 23:28:22
リュカ @ryuka511

凶器のナイフの在処は知っていた。だけど言わなかった。追い詰められ凶行に及んだ君。これはこんな事になるまで何も気付かずにいた私の罪だ。泣きじゃくる君を安心させる為に囁く。「大丈夫、誰にも言わないよ」直後、胸を貫いた衝撃 #twnovel そんな事言ってほしいんじゃない。パパもママと同じだね

2020-09-25 00:27:45