- rouillewrite
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右目の視界が、揺れる。 いや、ふっとなくなった、というのが正しいか。 つぷりと柔らかい何かに刺さる音がして、気がついた頃には真っ赤に染った右目の視界が、熱を発して止まない。 グリムの服に刺さっていたはずのダーツが──自分の右目に刺さっている。
2022-05-08 22:33:59ライクムは悲鳴をあげてダーツを引き抜こうとした。 グリムの髪を離しナイフも手から離して、痛みの止まない右目を抑えようと必死になる。
2022-05-08 22:36:02しかしそれを引き抜く間もないまま、頭部に強い衝撃を受けた。 ガタン!という大きな音と共に自分が倒れたのだということだけは理解出来た。
2022-05-08 22:36:21そのままズルズルと、這いずるように四つん這いになる。 痛みから逃れたくて、必死に皆のいるであろう方向へと手を伸ばすが、それすらも後頭部の衝撃で阻まれる。 ガッ!という痛々しい音が響いて、段々と霞んでいく視界の中で自分の身体が異様な程に痙攣していることがわかった。
2022-05-08 22:37:37バールを手に持ち、右肩にポンポンと血まみれのそれを担ぐと、グリムは呆れたようにため息をついた。 目の前の恐ろしい光景に、誰もが動けない。止めることすらままならない。 当たり前だ。 彼らは軍人でも警察官でもない。 ただの、探偵と少女だ。
2022-05-08 22:39:05グリムはもう一度バールを振りかぶった。 何かが潰れる音がして、ライクムは勢いよく壁の方へと飛ばされる。 もたれかかり、ズルズルと座り込んだ彼の頭部からは、滝の跡のような血が描かれていた。 衝撃から飛び出たダーツの刺さった“それ”が、彼の膝へと落ちる。
2022-05-08 22:39:51そして、床に散らかる血を指ですくい取り、ライクムへと近づくと、顔に血を塗りたくっている様子だった。 しばらくして、満足したように立ちあがり、今度はポケットから取り出した紙にダーツを刺し、少し下がって狙いを定める。
2022-05-08 22:41:11「うふふ、“遊ぶの”楽しかったよ。 ライクム・ガトフィーデフ。 向こうにいるClunker(役立たず)にもよろしくね」
2022-05-08 22:42:03ひゅっと、彼の左胸に向かって、ダーツを投げた。 静かに放たれた最期の言葉は、弱々しくて。 聞き取れた人間はどれほど居ただろう。
2022-05-08 22:42:35──────暗く沈む視界の海に、呑まれる中で。 pic.twitter.com/2vTKeOymxR
2022-05-08 22:43:35どこまで行っても曇り空は続いていて。 いつまで経っても灰色は消えなくて。 一度でいいから、虹を見てみたかった。 一度でいいから、星を掴んでみたかった。 今になって「もっと生きたい」と思うなんて馬鹿だよね。 笑っちゃうくらいどうしようもないね。
2022-05-08 22:46:26どんな最低な人生にも最高の瞬間ってあるもので その瞬間に何度か立ち会えて その度に少しだけ前に進めたり、夢を見れたり 大嫌いな自分が、前よりはマシに思えたりして。
2022-05-08 22:47:08悪意ある言葉に何度も傷つけられたけど 何気ない言葉に何度も救われた。 小さな陽だまりの優しさに手を引かれて その手を守りたいと思えた。 紙とペンだけで味気ない生涯が色付いて 愛する喜びを知った。
2022-05-08 22:47:34悪魔と呼ばれた僕の名前に天使の翼をくれた。 実の父よりも理想の父になってくれた。 背中を預けて泣いてくれた。 友達になって頼ってくれた。 粗相をしたのに笑って許してくれた。 パズルのピースを探してくれた。 「磨けば光る」と僕の為に怒ってくれた。
2022-05-08 22:48:38それなのに僕ときたら………… ごめんなさい。ごめんなさい。 何もできなくてごめんなさい。 守れなくてごめんなさい。 最後まで見苦しくて、本当にごめんなさい。
2022-05-08 22:49:17頼むからもう笑わないで。 これ以上は傷つけないで。 僕を生かしてくれた人たちに、もう何もしないで。
2022-05-08 22:50:29