- rouillewrite
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「ラベンダーは、紫のちっさい花だよな?図鑑で見た!あと、カモミールっていい匂いのお茶あるけど、あれも花だよな」 「うん、そうだね……それも何度か見た気がする……」
2022-05-05 21:39:22足取りは軽げなアシェルが待っていてくれるのを目で追いつつ、ライクムは応えながらついて行く。 自分の足取りは、こんなにも重い。
2022-05-05 21:40:22階段に差し掛かると、視界の端に見えるのはIペアの部屋。 なんとなく見ないようにして、先を行くアシェルに声をかける。
2022-05-05 21:41:06アシェルはその声に、すぐに応えた。 階段の残り数段を飛び降りると、振り返る。 ぱっと両腕をひらいて見せて、笑った。
2022-05-05 21:42:51ライクムは階段の途中で一度立ち止まると、ギュッと手すりを握る。 階段の下で待ってくれている小さな相棒。 自分を見上げる彼女が眩しくて、優しさが苦しくて、動けなくなる。 彼の口から漏れ出たのは、弱々しい言葉だった。
2022-05-05 21:45:14これ以上落ちてどうするんだ、とどこかで思うのに紡ぎ出された言葉は止められない。 弱くて情けなくて 暗くてどうしようもない 自分。 こんな言葉しか、出てこない。
2022-05-05 21:48:30アシェルはその言葉を聞いて、一瞬キョトンとしていたが、しばらくして少し目をそらす。 小さく「うーん?」と唸り、広げた手を彷徨わせた。 立ち止まった理由がわからなくて、 でも何か伝えたくて。
2022-05-05 21:49:17「ライクムがいるから、自分は強いんだ。 ……ううん、ライクムがいないと、この使い方わからなくなっちゃうんだ」
2022-05-05 21:50:01欠けたカップを思い出すように首をかしげ、両手を小さく握りしめる。 何度か手を開いては閉じて、迷いながら出したような顔を、ライクムは見ていない。
2022-05-05 21:50:55「……僕は…、いつまで経っても、誰がいてくれても、強くなれない………こんな事早く終わらせたいのに、何もできないままで…っ、弱い僕のままどんどん犠牲が増えてって…ッ!」
2022-05-05 21:54:27俯いたまま、気がつけばポロポロと涙が溢れていた。手摺から手を離し、階段の上で座り込んでしまう。 座った反動で内ポケットに入っていたキセルが滑り落ち、ハッとして拾い上げる。 手の中になんとか収まったそれを見つめていると、再び顔を歪ませて涙が頬を伝った。
2022-05-05 21:55:05「………もう…どうしたらいいか分かんないよ……僕だってアシェルのこと、みんなのこと守りたいのに……」
2022-05-05 21:55:47ライクムはそう弱々しく呟くと、啜り泣きながら抱きしめる様にキセルを握る。 静かに、玄関ホールに響いた泣き声は、蚊の鳴くような弱々しさで。
2022-05-05 21:56:14アシェルは表情を覆い隠した髪の毛の向こう側から、落ちるその涙に気がついた。 階段を転がるように登って目の前に立ち、キセルの持ち主の言葉を借りるように、口を開く。
2022-05-05 21:57:13「なぁな、ライクム。 引力って知ってる? にいちゃんが面白くて可愛い引力って話すから調べたんだ~!」
2022-05-05 21:58:09「お互いに引きよせる、力なんだって! …引きよせられて会っただけの自分に、 優しくしてくれてありがとう、 みんなが怪我しないようにいっぱい考えてくれてありがとう、 守ろうとしてくれてありがとう」
2022-05-05 21:58:55