ギガベース日誌 ACT09「REMEMBERED DEATH」01

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再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「ヴォオオオオオオアアアアアッッ!!!!!」 雪原の吸音性を以てしても重く響くヒグマの怒号。名取が頭から齧られているイメージを脳裏に浮かばせながら、バリーは愛機へ向け走る。雪が歩みを阻害する。 「なんだって、今日は!こうも!ついてねえ!!」 #ギガベース日誌

2023-02-25 20:59:22
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寒さと焦りが、猛る獣と自分の間の相対的な位置を把握することを困難にする。それでもどうにか、バリーは振り向きたい欲求を御し、愛機の傍へと辿り着いた。 防雪用のビニルシートを乱雑に引き剥がし、特殊合金の凸凹に手をかけ上り、コアの中へと滑り込む。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:02:29
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震える手で起動プロセスを完了させ、鉄の躰に熱が通う。スキャンモードを起動させたバリーは、まだ名取がヒグマと組み合っていることを確認し、安堵の溜息をついた。 操縦桿を握り込む。こうなればもう、敗北は無い。 「名取っっ!頭下げろ!!」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:05:04
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「はーい」 主の意を察した名取は、ヒグマに抵抗する両腕の力を緩め、雪中に自分の上半身を沈める。 迫りくるACが発する轟音に気づいたか、ヒグマは名取に覆い被さるのを止め前方に顔を向けた。 直後、その頭蓋が弾け飛び、雪原の主は大きく仰け反った末、背中から倒れた。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:09:06
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「お見事です。マスター」 「なにがお見事だ、クソっ……Dの工廠でつけてもらったとかいうアサルトアーマーはぶっ壊れてたのか?!」 「ああ、しっかり覚えていられたのですね。確かに発動もやむなしといった状況ではありましたが……」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:11:13
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起き上がった名取は、ヒグマに荒らされたキャンプ道具や、雪中に気絶したまま転がっているナイチンゲールを回収し始める。 「ここでパなしてしまうと、設営器具やナイチンゲール様の身体を確実に駄目にしてしまうので」 「飼い主の命とどっちが大事だ!」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:13:33
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名取の飄々とした態度は、横須賀の一件を堺に顕在化した。 加虐趣味の主人の下で精神をすり減らし、外からの刺激に対して鈍い反応しか示せなくなっていた名取は、今や明確にバリーの事を軽んじ、小馬鹿にさえしているように思えた。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:17:37
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口にこそ出さないが、バリーはその意図を理解し、以前のように名取に対して激しい折檻を加えるような真似はしない。 正確には、する気が起きない。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:18:28
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つまるところ、これは名取の復讐なのだ。 モニター越しに名取の栗色の眼を見れば、名取の意が、名取の声を纏って脳に響く。 「貴方が加虐欲求の対象にし、情熱を、人生を捧げた艦娘は、哀れな一人の少女を素材に、型に嵌め量産された存在でしかありませんでした」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:22:27
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「私に腹が立ったなら、前みたいにすればいいんです。殴って、蹴って、撃って、犯して、轢いて、潰してみればいい。きっと貴方は二度とかつての歓びを味わうことはできない。知ってしまった今と、知らなかった昔との差に、心は凍りついてしまうでしょうね」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:24:11
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現実の名取はぼやきながら焚き火の前にナイチンゲールを横たえている。 「そのヒグマ、酷い皮膚病に罹っているようですし、食料にはなりませんね。マスターに熊肉料理を振る舞えず残念でなりません」 バリーは機体から降り、ヒグマの頭部が完全に損壊、死亡した事を確認した。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:33:06
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「名取、お前は今晩中武装解除せずに周囲を警戒しろ。こんなのがもう一匹二匹いるとは思えんが、明日にはここを発つ」 「承知しました。しかしマスター、一体樺太の何処を目指すのです?あの工場より快適な場所があるとは思えません」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:35:33
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「北にいるゴロツキ共を巻き込んでタタールを渡る。オリョールで慰安艦を買いに来てた客の中に、そのゴロツキ共の首輪を持ってるテクノクラートの重役がいた。そいつが潜水艦共にナニをしゃぶらせてる時の写真を保管してある」 「それを使って脅迫すると」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:42:59
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「実を言うと、工場の通信設備を使ってもう脅迫は済ませてある。そんなんだからテクノクラートなんだろうが、警戒心の無さに救われたな」 「間宮を渡るとなるとロシア入りですか。大陸で動くならいつまでもその方に頼ってられないでしょう。アルゼブラにツテ、ありましたっけ?」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:45:49
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「元客は何人かいるが、ロケット屋のアホと違って脅しが効きそうな奴はいない。しばらくはお前と俺の機体だけを頼りにアルゼブラの勢力圏をうろつく事になる」 孤立無援の傭兵にとって、それが茨の道であるのは、バリーが一番理解していた。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:49:39
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「いい加減教えてくださってもいいんじゃないですか。マスターは一体、何処を目指してらっしゃるのか」 「その減らず口を閉じて、前みたいに大人しくしてたら教えてやるよ」 「無理ですね。最近は黙ろうとしても口が勝手に開いてしまうので」 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:52:50
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

男と艦の眼中に、焚火の炎が揺らめく。 艦は漸く訪れた発散の機会に酔いしれていた。 男は消えかけた心の火に復讐という薪を焚べていた。 傭兵バリー・ブルとナイチンゲール。そしてバリーの所有物たる名取。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:56:13
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

二人と一隻はまだ知らない。 バリーの純粋な復讐心によって方向付けられた彼らの歩みが、破滅的未来へ投じられた命綱となる事を。 #ギガベース日誌

2023-02-25 21:58:45
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