【備忘録】戦車の潜望鏡式照準装置について

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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

照準器の設計意図は実際色々あり得るのでペリスコープ照準器が全般にどうだ、とは一概に言いにくいのですが、まず大戦期ソ連戦車のそれについては、稜線射撃を重視したもの「ではない」ようです #マシュマロを投げ合おう marshmallow-qa.com/messages/7e885…

2022-06-26 15:04:43
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

まず前提として。戦間期~大戦半ばまでのソ連戦車は主砲同軸に配置された望遠鏡照準器と、砲塔天板についた潜望鏡照準器の二種類を併用するのが一般的でした。少なくとも当初の想定では後者が主用とされていて、前者は破損時等の為の予備照準器という扱いになっています pic.twitter.com/pSRQ9crpqN

2022-06-26 15:13:02
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そして大戦期ソ連戦車の潜望鏡照準器は大変凝った代物でした。単に砲塔天板を貫いて上から照準できるというだけのものではなくて、鏡頭部だけを回して周囲の視察や精密な角度計測、間接照準にも使えます。戦車砲の照準器というより、ほとんど砲兵用のパノラマ眼鏡みたいな造りです pic.twitter.com/yxXAoiIyyW

2022-06-26 15:18:29
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そしてこの潜望鏡照準器はもう一組、砲とリンクしていいない視察専用ペリスコープ版とペアで配置されるべきものでした。簡略化とかで一つだけになったりした例もありますが、本来はネコミミめいて砲塔上に並んで生えてるはずのもの pic.twitter.com/4tJvbKkORa

2022-06-26 15:23:27
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一方で大戦前半までのソ連戦車が基本的に視察キューポラを備えていません。なので車長なりの周囲視察には件の旋回式ペリスコープを使います。車長は目標を発見したら角度目盛を見て「白300(右300ミル)」とか伝えて、砲手がそれに合わせて潜望鏡照準器を回し、目標指示が正確に出来るというわけです

2022-06-26 15:28:08
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

このとき砲手の潜望鏡照準器は砲塔正面ではない方向を向いているわけなので、目標を撃つには砲塔を回さないといけません。そのとき砲塔旋回に合わせて潜望鏡照準器の旋回ノブも逆向きに操作すれば、目標を視野内に捉えたままで照準に捉えるよう持っていける……はずです

2022-06-26 15:31:39
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

……みたいなことが1942年に書かれたソ連戦車照準器設計概論みたいな本には載っております。この方式は(理想的には)車長が見つけた目標を確実に砲手に伝達し、一度も視野から見失うことなく射撃に移ることができます。これをやるためにほぼ同仕様の潜望鏡照準器を視察装置のペアが必要だったのですね

2022-06-26 15:34:19
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ただし!これは実際にはうまく行きませんでした。そもそも戦車というのは動くものなので、周囲の物との位置関係は刻々と変化していきます。戦車の向きはしばしば変わる、砲塔はまたそれとは独立して回る、潜望鏡もまた別に回る。でも頭の向きは固定……そんな状況では人間は方位を見失いやすいのです

2022-06-26 15:39:06
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

そしてせっかく方位目盛機構で精密に方位を測れても、戦車自体が動いたり砲塔が回ったりすれば、その数字はもう過去のものになります。この方式での視察と目標伝達は机上では機能しても、戦場の慌ただしい状況ではうまく行きませんでした

2022-06-26 15:45:06
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

大戦期ソ連戦車は目が悪いイメージがありますが、それは視察装置が貧弱だからではなくて、むしろ装置が凝り過ぎで実際の運用状況に適さないようなものになってしまっていたという方が近いんじゃないかしらと思うところです。高機能だけど直感的ではないので「遅い」し、空間識失調めいた事になる

2022-06-26 15:55:14
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ちなみにその大戦期ソ連戦車の凝り過ぎで却ってイマイチな照準器・視察装置は……実はドイツに源流があったりします。このへんの開発協力時に入ってきたんですね。一方ドイツ戦車は後にこの方向性を捨てたので、ソ連は梯子を外された形に pic.twitter.com/tlKd0BPDAf

2022-06-26 15:58:04
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とまあ大戦期ソ連戦車の潜望鏡照準器は鏡頭の旋回機能を活かした視察・目標伝達能力に肝があったわけですが、しかし潜望鏡照準器が全てそういう目的を持っているとは限りません潜望鏡型の最大の利点はたぶん「前面装甲に穴を開けなくてもいい」ことですが、それを別の方向性で活かすのも考えられます

2022-06-26 16:09:07
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

例えば大戦期米戦車では旋回しないけれど仰俯角だけが主砲とリンクするような構造の視察用ペリスコープを砲手側に置いて、その片隅に簡易な照準眼鏡を押し込むという方式の潜望鏡照準器を持っていました。これは構造はシンプルですが、広い視察視野で目標を探してすぐに照準に移れるので実際便利 pic.twitter.com/ouuWm5e1q2

2022-06-26 16:14:09
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これと同じことを同軸照準器でやろうとすると砲塔前面装甲に視察用の大穴をあける事になっちゃいます(初期のドイツ戦車なんか実際そうですわね)。でも潜望鏡照準器ならそういう防御上の心配なしに、広い視察視野を兼ね備えた照準器ができるというわけです pic.twitter.com/oV3FeL1IzY

2022-06-26 16:16:35
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潜望鏡照準器には、もうひとつ「同軸ではない」つまり主砲と独立しているというのも特徴として挙げられます。これは誤差とか考えると面倒そうですが、照準器だけに砲身とは独立させたスタビライザーを持たせたりするのにはむしろ好都合になったりします。戦後戦車はこの方向性での採用が増えるかも pic.twitter.com/o0aAkluk8M

2022-06-26 16:22:41
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

砲身ってのは重いものなので、素早く動かすのはちょっと難しい。スタビライザーで安定化させようとしても、どうしても一定の遅れが生じる。いっぽう照準器視野の安定化なら小さな鏡を動かすだけで済むので、遥かに反応のよい安定化ができる。だから照準器は主砲とは別に安定化させたりするんですな

2022-06-26 16:25:33
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

「でも主砲と照準器が別々に安定化されてるんなら、照準器が目標を捉えてる瞬間に撃っても砲身は違う方向いてるんだから当たらなくない?」という気がするかもですが。しかし砲身の動きが遅れていても両者が一致する瞬間はあるので、そのときに電気的に回路を繋げて発砲とかしたらいいわけですね

2022-06-26 16:29:20
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ちなみに照準器視野の安定化というのは必ずしも潜望鏡照準器でなければ出来ないという訳ではなく、同軸配置の望遠鏡照準器でもスタビライザーを備える例はあります。比較的希な例かなあとは思いますが…… pic.twitter.com/cFEUTpPwAr

2022-06-26 16:33:06
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そしてお題の稜線射撃については……もちろん現代戦車の潜望鏡照準器はその点を重視してのものも少なくなさそうです。稜線越しに照準器だけを出して目標を探したりして、ちょっと前進して砲身が出るまで登って撃つ……そういう事をするには確かに便利ではあるでしょう pic.twitter.com/ZBsxc1kCYy

2022-06-26 16:38:05
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

ただし先述のように潜望鏡照準器の利点というのはそれだけではないので、潜望鏡照準器だからといって稜線射撃を重視したものだと一概に言うことはできない……というおはなしなのです。多分、それぞれの戦車にそれぞれの事情があるんじゃないかと思います(よく知らないのでふんわりと受け流す)

2022-06-26 16:43:43
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

そういや現代的戦車の潜望鏡照準器は前向き固定なのが普通でしたが、でも「次の戦車」のは砲手サイトが車長用と準同型っぽいアトモスフィアがありますわよね。大戦期ソ連戦車の照準器がやりたくて出来なかったようなことが、実際出来るようになってくるのかしらん? pic.twitter.com/1ur7J8ltwX

2022-06-26 17:06:54
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えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

(現代の戦車は本当に知らないので本当に適当なことを言っています)

2022-06-26 17:13:58
えすだぶ@C103日曜東3"サ"-58a @FHSWman

大戦後半にソ連戦車が採用した英Mk.IVスタイルの潜望鏡は、御覧の通り以前に採用されていたものより遥かに単純でした。周囲を見回すには単純に把手を持って丸ごと回す。合わせて頭も動かす必要があります。でもむしろその直感的な動作のお陰で空間識を失いにくくなっていたのかも知れません pic.twitter.com/OZfAGZM60t

2022-06-26 18:35:29
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