【この町の話】福間健二 #k2fact338

福間健二 @acasaazul

雷の音と光はすごかった。雨粒も大きくなったが、降ってくれたというほどではなかった。たまらん坂の下の、失恋の交差点。立ち往生する人。いただろうけど、これからを決める濡れ方には届かない。別な帰りみち。もしかしたらどんなことも修行になると思って拾う袋のなかに。（この町の話１）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

崩壊を食いとめるのはこれかなと思わせるように、妊娠しているのがわかる人がいて、暑さと湿気のなか、体のあちこちきれいにしたいと願う人もいる。別人と別人、歩くあいだ、小さな保冷剤を手に持っているといい。坂でもバタンと倒れる落武者に会わない週末。溶けるまでは。（この町の話２）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

大丈夫かな。毎晩、ほぼ末期の乗り物で現れる父と母はゼロから検討しなおす。ゼロからってどの戦争が終わった夏からなのか。すったもんだして、最初の案に戻る。深夜になってやっと少し涼しい旭通り、あかりの消えない三日月書店の前を勝手に広場にする二人の思うことだ。（この町の話３）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

探してきたもの、まだ見つけていないが、リトルダンサーがいる。その人のお腹には。二〇二二年でも有効な歌の数々。Take it easy、スローで、ミディアムで、言い換えて歌った先の、潜り込めないところ。投げ返される八月の暗い夢。でも、そのプロットなら全部わかっている。（この町の話４）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

平和、平和、平和。さっきから聞こえているけど、だれが呟いているのか。バスが停まって、となりの町の大きな病院から乗った人たちが降りてきた。それぞれに夏の色。背中をまるくして、体のあちこち合わないボルトとナットを調節しながら、日陰に知りたいことがあるのだ。（この町の話５）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

まず頭が入る。胴体も途中まで。何をする季節装置なのか。考えているうちにイン・プレー、でもアウトだ。ウクライナで起こっていることと釣り合いをとってこの裏側に管理する側の声があるという洞察、むなしい。いまは胴体もほぼ全部。なんだろう。自分で感じてください。（この町の話６）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

きょうは具体的に。ハーベスト、市役所の食堂。いまなら七〇円のコロッケ・かき揚げという皿。それとなにかを組み合わせる。一年に一度、会議に呼ばれてなにかしゃべって九〇〇〇円もらっている人が言う。大事なのは感謝の気持ち。ていねいに息を吐く。収穫ありますように。（この町の話７）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

犬も人も近くにきこえたが、いまは車とカラスだけ。五分経過。車とカラスだけ。曇り空の下、このぼくの聴力はだれの人生をメチャクチャにするのだろう。正確ではないが、四十年以上前、日本語のわからないアメリカ人の男が日本のどこかで経験したことを思い出している。（この町の話８）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

子どもたちのクイズに高齢者が答えている。出会いの場。教えたいことは別の季節に言う。四回目のワクチン打った。八月六日、広島では子ども以外は紙を見ていた。この町にも岐路。爽やかさの宿る声がひびく方へ。夏休みでも、校内放送。空に帰れない星たちが話している。（この町の話９）#k2fact338

福間健二 @acasaazul

多摩川のあるこの町だけの話ではないが、川べりで欠伸する男は漂流しそこなった愛国少年の七十七年後だ。だれかの命を守る生き物。なってないし、やってないのにね。青い時計と船の消滅、どうか頼むからと言われても、新しい声をきくためのインストール、いつも途中まで。（この町の話10）#k2fact338