- MonokuroMsk
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「やっぱ気ぃ向いたら行くわ! 陸のサーカスもオモロそうやし」 水辺を跳ねる様な声でそう言うと、肩を並べた座長に尖った歯を見せてニィっと笑った。
2022-09-04 23:08:58立ち上がった王子の様子に座長もぱあっと明るくなる。 彼は嬉しさが抑えきれず、その場でクルンと一回転した。 「いつでも待ってる!絶対後悔させないよ!」 遠心力でふわりと頭から外れた帽子を慌てて戻しながら、人懐こく笑いかける。
2022-09-04 23:09:37そのすぐ後に、名残惜しそうな目で王子を見ると、少しずつバルコニーから離れていく。 「もう行かなきゃ。夜が明ける前に陸へ上がるんだ」 「あ、そか…。せやったな…」
2022-09-04 23:10:11バルコニーから離れた座長は再度帽子を外すと、ステージでする時の様に優雅にお辞儀をした。 バルコニーの内側からそれを見ていた王子は、自身の胸元に手を当てると気品のある出立ちで会釈を返す。
2022-09-04 23:10:47王子はゆらりとひらめくピンクの尾鰭を見送ろうとしたが、ハッと何かを思い出す。 気が付けば勢いよくバルコニーから身を乗り出し、名前を呼んでいた。
2022-09-04 23:11:37ぴくり。 王子の声に肩が上がった。 座長はゆっくりと振り返ると、少し驚いたような顔で、自分を呼び止めた彼を見る。 王子は何処か伺う様な顔をして見つめ返している。
2022-09-04 23:12:24「───なに?」 その返事に、王子はパチリと瞬きを一つした。 自分の返しを待つ彼の背後で、"ハリセンボン"を華麗に回避した"彼女"の得意げな顔が目に浮かんだ。
2022-09-04 23:13:21「……っ、その…次来る時は、アポ入れてからにしろよ!アルファが俺の番号知っとる筈やから」 少し迷った後、安心したような元気な声で告げた。 座長は一瞬自身の背後を確認するも、すぐに王子の言葉に頷く。
2022-09-04 23:14:05「うん!そうするね!」 無邪気に手を振ると、今度こそ踵を返して帰路に着く。 途中で何度か振り返り、その度に手を振っていたが、そのピンクのシルエットもどんどん遠ざかっていき、 ついには見えなくなった。
2022-09-04 23:14:512ヶ月の間、当たり前の様に此処から見えた虹もサーカスも、夜明けと共に消えてしまうのかと思うと、少しだけ寂しい気持ちになる。
2022-09-04 23:15:33