#霜降月物語

RMP @spacetimefoam0

あの日以来、わかりやすい僕は不安を隠せなくなっていた。こんなに好きなのにと、好きなのが目的みたいな思考に支配される時もあった。君のことを曇りなき瞳で見ることができなそうで、それがまた、君に気づかれそうで、君の配信に行くことも、僕の配信を行うこともできなくなった。＃霜降月物語　101

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なんだか、私のこと、避けてる？君に当然のように聞かれる。そんなは事ないよ。ただ少し仕事が忙しくて疲れてるのかも。うん。無理しないでね。ありがとう。ごまかしきれないのに小さな噓をついて残ってしまいそうな傷を作る。蟠りを作っても何も解決しないことはわかっているのに。＃霜降月物語　102

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配信をやめていると友達から、どうかした？と連絡が来る。少し仕事が忙しくてと説明しつつ、それは何回もは使えず、思いきって配信してみる。ほどなく君が訪れる。こんばんは。挨拶を交わした後はほとんどコメントはなく、僕も特別に何かに触れることもなく、配信を終了した。＃霜降月物語　103

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お疲れ様。配信後にメールがくる。来てくれてありがとう。と返したところで音声通信が点滅する。何か怒ってるの？と君は静かに聞いてくる。怒ってないよ。そうなんだ。今週はいつ、こっちに来る？今週はやめておこうかな。そうなんだ。あの映画はいつ見にいく？観たいって言ってたの。＃霜降月物語 104

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どうしようか、と考えながら無言になる。君はイラっとして、言葉にしてくれないならわからないし、こういうのフェアじゃないと思う。と言って通話を切った。自分が悪いのはわかってる。何かに理由を求めたりするのはわかりやすいけど健全じゃないことも。ただ君のことが好きなのに。＃霜降月物語 105

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ごめん。そう伝えたくて車に乗る。迷いながら何かをしてもいいことなんて一つもない。会って話すしかない。突然深夜に訪れたら、別の意味で怒られそうだけどとにかく今は会いたかった。会って君の顔を見て安心したかった。ただ君を抱きしめて許されるなら君だけに溺れていたかった。＃霜降月物語 106

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高速を降りて君の部屋までもうすぐのところで、今会いたい、と文字を打つ。今打つくらいなら家を出た数時間前に打てばいいのにと冷静になって思うけど、あの時から僕は何もかもがおかしくなってる。針を戻さなくちゃと冷静になろうとする。もうすぐ君に会える。会えば元通りになれる。＃霜降月物語 107

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部屋の前まで着いて、君からの返事はない。寝てしまったのかとためらいつつ、ドアの前で数分悩む。ここで悩んでても仕方ないよな、と開き直り、チャイムを鳴らす。なんの音もしない。‥‥なんの音もしない。当たり前か。寝てるなら仕方ない。君に馬鹿だなぁって、また言われるやつだ。＃霜降月物語 108

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車まで戻ることにしてこのまま帰るべきか、朝まで時間を潰そうか、エレベーターで考えながら一階に着く。開いたドアの先に君がいた。え？驚く君。スマホに向かって、あ、ごめん。家に着いたから切るね。ありがとう。ゆっくりとスマホをポケットにしまって君はまっすぐに僕を見つめる。＃霜降月物語 109

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すごくさみしくて友達に連絡してファミレスで会ってて、今、帰ってきたところ。ゆっくりと説明する君。うん。と頷く僕。なぜここにいるの？と言う君の言葉を遮りながら、会いたかった。会えば解決すると思って会いにきた。君がどうしても必要なんだって伝えるために会いにきた。＃霜降月物語 110

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部屋に戻って話になる。本を取った時に写真が落ちて見てしまったことを告げる。君は何もかもを察してぽつりぽつりと話し始める。写真の人は前の彼氏であること、2年前に別れていること、写真を捨てずにいた事に他意はない。今はあなたの事を大切に思っている。それで十分だった。＃霜降月物語 111

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僕と君は思っている以上に性急に近づいている事に自分達が追いついていないのかもしれない。少しずつ誤解がないくらいにゆっくりと輪郭を掴まないといけないのに呼応した核心をお互いに差し出し過ぎてるのかもしれない。恋とか愛に拘るつもりはないのに結果的に括ってしまってる。＃霜降月物語 112

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そう言えばしし座流星群の時期だよね。君が教えてくれた。もう終わってしまいそうだけど見に行ってみよう。時間的にはいい頃だと思う。真夜中過ぎに二人で車に乗る。少し山のほうに走り、車を止める。途中コンビニで買った珈琲とココアを手にしてサンルーフ越しに二人で空を見上げる。＃霜降月物語 113

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もしかしたら、心がつながるって星と星が衝突するみたいなものだよね。普通だったら起こりえないかもだけど、宇宙のどこかでは起こってて、ありえないぐらいのエネルギーでお互いがぶつかってる。新しい星になったりならなかったり、でもつながるってそういうことなのかなって。＃霜降月物語 114

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君の言いたいことはとてもよくわかる。きっと君と僕はそんな風につながっていってると僕は信じてる。だから、奇跡って言葉は使いたくない気もするけど、この関係は奇跡なんだろうなって思ってる。あ！見上げた先に流星の軌跡を認める。思った以上に明るく、そして長く尾を引く。＃霜降月物語 115

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君は手を合わせる。それを見て僕も慌てて、手を合わせてみる。君は僕を見て質問する。何をお願いしたの？うーん、君がいつまでも…、話している途中で君は僕の口を唇で塞ぐ。目を丸くする僕を楽しむかのように覆いかぶさる。僕は君を強く抱きしめる以外に、選択肢はなかった。＃霜降月物語 116

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カタチにするのは言葉だけで良かったのかもしれないけれど、何かしらカタチに置き換えていくこともこの関係性の輪郭のひとつになるかもしれないと君に似合うプレゼントを考えようと思った。君に聞いてから欲しいものをって考えたけど、小さなペンダントを渡そうと密かに思った。＃霜降月物語 117

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自分の誕生日の日に合わせて選んでおこう。喜んでくれるといいな。そう思いながら君を部屋に送る。私は私らしくいたいから、できればあなたともっと一緒にいたい。そしてもう音声配信はやめてしまおうと思うけど、どう思う？そう聞かれて僕は戸惑う。やめなくてもいいんじゃないかな。＃霜降月物語 118

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でもそれはきっとあなたがやめたくないからじゃない？うーん。やめたくないのはその通りなんだけど。でもこれとそれとは別なんじゃないかって思うんだ。　そうだね。そう言うと思った。ごめん。この話は聞かなかったことにして。君は納得したような、納得していないような顔をする。＃霜降月物語 119

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近づこうとしながら、近づくのをためらうようなことをしてしまう。愛情に正しく向き合えていないのはいつも僕のほうだ。君が必要だと伝えに来たくせに、君との時間を確保するのを拒んだみたいになってる。何がしたいのか、自分でもわからなくなってる。自分自身に苛立ちを感じる。＃霜降月物語 120

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『霜降月物語』僕が見たいと思ったこの映画を二人で見に行く。男女が織りなす11年に及ぶラブストーリーで、11月に起こる出来事だけを中心に物語は進む。ことさら、11月である必要はないのかもしれないのに、この季節が見せる風景や色合いがこの二人には必要なのだと感じられた。＃霜降月物語 121

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7年目の11月が終わろうとする頃、君のスマホが着信で震えた。君は何気なく着信歴を確認し、僕に一瞥して、そして鞄を抱えて立ち上がり、外に出て行った。僕は映画の最中だけど、仕事の関係なのだろうと思い、スクリーンに集中した。9年目が終わる頃、君が返ってこないことを確信した。＃霜降月物語 122

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ラストを待たずに劇場を出て、スマホを確認する。君からの連絡はない。何かあったのだろうから、今は待つしかない。けど、どうしたらいいか、わからなかった。今日は一旦、戻ります。次、いつ会えるか、また連絡するね。と文字を入力するけれど、その日、既読がつくことはなかった。＃霜降月物語 123

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誕生日まで、あと3日。そう思い、プレゼントしようと思っているペンダントを選ぶために出かけた。もうすぐ雪が降り始めてもおかしくないくらいの寒さが近づいてきていた。ショップに入り、似つかわしくない僕に店員が声をかける。どういったものをお探しですか？プレゼントですか？＃霜降月物語 124

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彼女にペンダントをプレゼントしたくて。そう伝えると店員はいくつかのものを並べてくれた。季節的なものも含めて選ばれたその中で僕は雪の結晶をモチーフにしたシンプルで小さめのペンダントを選んだ。クリスマスのプレゼントですか？と問われて、そんなようなものですと返事をした。＃霜降月物語 125